第71話
芽衣の血圧や脈拍を測り、点滴の様子を確かめると彼らは部屋を出ていった。
「大変だったね」
労わりに満ちた微笑みを向けると、高遠はゆっくりと言った。
「もう大丈夫だからね」
「すいません、私……」
起き上がろうとした芽衣を両手で押しとどめる。
「無理しちゃだめだよ」
おとなしく横になった芽衣に、
「吐きたい?」
と尋ねると、芽衣は首を横に振った。
しばらくすると、もう一度、高遠は芽衣の手を握った。
冷たくて弱々しく、脈打つのがせいいっぱいの手だった。
「……職場の飲み会だったんです」
一つずつ出来事を整理しようと、芽衣の瞳が直近の出来事をたどる。
「体調あんまりよくなかったんですけど、断ったら白い目で見られるから、頑張って参加しました。私、飲み会係だったし」
飲み会係の人間が課ごとに会費を徴収し、幹事に渡すという仕組みになっていた。
芽衣は役職別に異なる言われたとおりの金額を、言われたとおりに集めて封筒に入れ、飲み会の前に幹事に手渡した。
「なのに、お会計のとき幹事の人が、『お金がない』って言い出して」
うん、と高遠は相づちを打った。
あおむけに寝ている芽衣と、手を握って椅子に座っている高遠は、視線が合うことはない。
それでも自分が耳を澄ませていることは、気配で芽衣に伝わっているはずだ。
病室には二人しかおらず、点滴の落ちる音が聞こえるほど、ひっそりと静まり返っている。
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