第142話 ※芽衣視点
***芽衣視点***
ひょんなことから二人きりで食事をした後、「食事につき合ってくれたお礼に」と言われて待ち合わせ場所に行くと、半ば強引に高級車に乗せられて連れてこられたのはブティックだった。
意味が分からないまま試着室に押し込まれた芽衣は、あっという間に服や下着まで脱がされ、あらゆる部位を採寸され、着せ替え人形よろしくあれこれ服を着せられ、あげくの果てに頭から爪先まで上流階級仕様に改造されてしまった。
当然のごとくカードで支払いを済ませようとする暁に、小声で抗議する。
「私、こんな高いの払えません」
「僕からのプレゼントです、着てやってください。とてもよくお似合いです」
値札をちらっと見て青ざめていた芽衣だったが、それを聞いて目が回りそうだった。
何かの映画で見たことがある。
金も地位も時間も持て余した男が、気まぐれに卑しい身分の小娘の身なりを整え、自分好みの女に改造していく――。
暁のプレゼント攻撃は服と靴だけにとどまらず、今度はジュエリーショップでネックレスやブレスレットを購入し、そうなると手持ちの鞄が貧弱ということで、今度は鞄を買いそろえてようやく怒涛の買い物地獄は幕をおろした。
こんなに高額なものはもらえませんと何度言っても暁はプレゼントすると言って譲らず、もらったものの合計金額を頭の中で計算するたびに、芽衣の気分はどんどん沈んでいった。
「お口に合いませんか」
ホテルの上層階にあるレストランで、目の前で肉を焼いてもらいながら、そわそわした様子の芽衣に暁は尋ねた。
「いえ、そういうことではなく……」
芽衣は言葉を濁しつつも、居心地が悪くてならなかった。
生まれてこの方、こんな場所に来たこともないし、そもそも男性とまともにデートしたことがないのだ。
この店にいるような人たちは皆洗練された裕福な男女ばかりで、お子様丸出しの自分を奇異な目で見ているような気がする。
どんなに豪華な服に身を包んでいても、場違いだという感覚は拭えなかった。
「どうして、私なんかにこんな親切にしてくださるんですか?」
思い切って芽衣が疑問を口すると、
「こういうことをするのが好きなんです」
当然のような口ぶりで暁は言った。
「こういうことって……人に分不相応な高級品を、承諾なしに贈りつけることですか?」
芽衣の言い方が毒を孕んでいたので、暁はやや眉を上げた。
口を滑らせたと気づいて、芽衣は縮こまる。
「ごめんなさい。私……」
――何でこんなこと言っちゃったんだろう。こんなにいろいろしてくれた人に。
ただ、暁が贈られる側の気持ちを全く無視しているという事実が、芽衣を怒らせたことも確かだった。
高価な贈り物をされて喜ぶ人も多いだろうが、まるで自分が乞食か物乞いのように感じることだってあるのだ。
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