第69話

「悪い」


起き上がって手を立てて詫びると、高遠はスマホの画面を見た。


見知らぬ番号が並んでいる。


「もしもし?」


耳に当てると、ざわめきの向こうで男の声がした。


『えーっと、あのですね』


周囲がやたらと騒がしく、男の声がかき消されて何を言っているのか分からない。


その上電波が悪いのか、音声自体が途切れ途切れに聞こえてくる。


高遠は何度か聞き返したが、用件どころか相手が誰なのかさえ分からなかった。


相手の声は笑い含みで、粘りつくような気持ち悪さがあり、ふざけているのだろうかと高遠は思った。


いたずらか、新手の宗教の勧誘か、それとも営業の電話だろうか。


もう切ろうかと考えていると、


『あのー、清瀬さんがですね。会社の……』


断片的な単語が耳に飛び込んできて、高遠は目を見開いた。


「清瀬芽衣さんのお知り合いですか」


高遠が半ば怒鳴るような大声で尋ねると、相手はようやく、自分が清瀬芽衣の働いている会社の人間であることを告げた。


「それで?」


嫌な予感に急き立てられるようにして、高遠は口早に尋ねた。


隣で一臣が、真剣な表情でこちらを見守っている。


「はい。はい。分かりました。どこの病院か分かったらお電話ください」


そう言って切ると、いち早く一臣が尋ねてきた。


「今の電話」


「うん」


高遠は少し間を置いて、


「清瀬さん、倒れたらしい」


一臣の顔色が変わった。


「どういうことだ」


「詳しくは分からない。とにかく今、救急車で病院に向かってるってさ。俺は先に病院に向かうから、お前も仕事が終わったら来てくれ」


「分かった」


一臣は高遠の荷物を差し出し、高遠は「サンキュ」とそれを肩にかけると、身軽にベッドを飛び越えた。













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