第36話

「だから、勝手に人のベッドで寝るなって」


いらだちを抑えきれずに高遠は声を荒げた。


「勝手に出ていってごめんね。寂しかった?」


――駄目だ。この女、日本語通じない。


諦めかけた高遠だったが、楽しげにくつろいでいる薔子を見ていると、『これ以上この女の好きにさせてたまるか』という思いが強まった。


「お前さ、分かってる?勝手に他人の家の合鍵作って入るっていう行為は、立派な犯罪なの。通報されても文句言えないんだぞ」


「分かってるよー」


あくびをしながら、薔子は嫣然えんぜんと微笑んだ。


「でも、結婚してるなら別でしょ?」


「誰がいつお前と結婚したよ」


「ちょっと順番が前後しただけだもん。いつかはするんだからいいよね」


「よくない。全然よくない。お前な、」


言葉の途中で薔子が唇を重ねてきたので、高遠の主張は一時中断された。


相変わらずキスがうまい。たまらなく甘い味がする。


薔子は高遠の背中に左手を回し、右手で高遠の手をとって自分の頬に当てる。


その頬は濡れたように冷たかった。


「駄目?」


小さなささやき声、熱を帯びた潤んだ目だった。


計算ずくだと分かっていても、あらがいがたい魅力がある。


高遠は頬に当てられた手を握って薔子の肩を押さえ、ベッドの上に軽く押し倒した。


薔子はなすがままにされていたが、高遠が彼女の着ていたスカートの裾をめくり上げると、かすかに顔を強張らせた。


「これ、何だよ」


押し殺した声で高遠は言った。

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