第10話

高遠が苦笑いで応じていると、


「まあ無理もないか。菜月なつきとつき合って、まだ半年ぐらいだったもんね」


軽快にほうきを動かしながら、先輩は残念そうな顔で、


「お似合いのカップルだったのにね」


いや、今はそれどころじゃないんですよ。


そんな言葉が喉元まで出かかったが、高遠は辛うじてそれを引っ込めた。


「ミーティング始めます」


チーフスタイリストの三船が入店し、その場の空気が一気に引き締まる。


高遠の勤務先は表参道にある美容室『ノアズ・アーク表参道店』で、十名のスタイリストと五名のアシスタントが所属しており、チーフスタイリストの三船みふねが現場を取り仕切っている。


店長とマネージャーは店舗経営に携わってはいるが、ほとんど店に顔を出すことはなかった。


美容専門学校を卒業し、この業界に入って五年目。


昨年ようやくアシスタントからスタイリストに昇格したばかりだが、高遠の実力は職場内でも高く評価されていた。

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