第58話

「そう、こいつ美容師。超チャラいから気をつけて」


高遠が一臣の頭を本気ではたいたので、一臣は熱々のスープに鼻先を突っ込んだ。


「熱っつ!何すんだよ」


「清瀬さんはOLさんだっけ」


一臣を無視して尋ねると、こくりと芽衣は頷いた。


「ひとり暮らし?」


と聞くと、これもまた頷く。


「偉いね。一人で寂しくない?」


今度は、芽衣は首をゆるゆると左右に振った。


「高校卒業するまで施設にいて……早く出たかったから」


一臣もこの話題は初めてだったらしく、隣で耳をそばだてている。


「まだ若いのに、しっかりしてるんだね」


しみじみと高遠が言い、「おっさんだな」と一臣が茶々を入れる。


芽衣は物悲しげに笑って、


「一人で生活してみて初めて、いろんなことが分かりました。暮らしていくってお金がかかるんだな、お金を稼ぐって大変なんだなって」


「それは分かる」


高遠は力強く頷いた。


「俺もひとり暮らし始めたときは金の使い方がめちゃくちゃで、給料日前には金なくていつも誰かにたかってたもん。電気ガス水道とめられたりさ」


「財布に小銭しかないのに、給料日まで一週間あるとか。普通に焦りますよね」


芽衣は言い、年相応の少女らしい笑顔を見せた。

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