第129話 ※薔子視点
若さとかわいらしい見た目のせいもあって、由衣に寝床と金を与えてくれる男性は掃いて捨てるほどいた。
危ない目に遭ったことも一度や二度ではないが、大体うまくすり抜けることができた。
短ければ一日、長ければ一カ月といった単位で男の部屋やホテルやネットカフェを転々とし、その間に月日は流れ、由衣は十六歳になっていた。
十六の誕生日に受けた手術で、由衣は100%妊娠しない体になっていた。
一ミリの迷いも後悔もなかった。
むしろ最大のリスクをこの手で摘み取ったということに、深い満足を覚えていた。
施設を脱走してからずっと芽衣のいる施設を探していたが、芽衣自身がどうも施設をいくつか替わったらしく、消息が知れなかった。
門田弁護士に聞くのが一番いいが、由衣が脱走したことは当然、彼は知っているはずだ。
通報されても面倒だし、どうしたものか。
遠くに目を凝らしすぎたせいで、由衣は近づいてくる危機に対して全くの無防備になっていた。
その男と運命的な出会いを果たしたのは、ちょうどそのころだった。
薄暗いクラブに彼が入ってきて目が合ったとき、由衣の心に何かがかすめた。
言いあらわしがたい感覚が胸の鼓動を早める。
「名前は?」
まるで当然のように隣に腰をおろし、彼は低い落ちついた声で尋ねた。
由衣は薔薇色のカクテルの入ったグラスに口をつけ、そのとき思いついた名前を言った。
男は
それからぽつぽつと、自分のことを話し始めた。
歯科大に通っている学生であること、幼いころに両親を亡くし、それなりに裕福な家に引き取られたこと。
勉強も運動も人づき合いも苦労したことはなく、今まで大抵のことはそつなくこなしてきたが、何をやっても面白いと感じたことがないということ。
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