第119話 再会

「それにしても、全教科解いてみようとか物好きよね、あなた。学者にでもなるつもりなの?」


リナが異様なものを見るような目線でこちらを見てきた。


「別にこのまま冒険者としてやっていくつもりだけど、知識はどこで役立つか分からないからね」


そう、前の世界では創作でしかあり得なかったけど、偶然発見した遺跡とかで古代文字を読めたから助かった、なんて話は実際にありそうだもんな。


石板に書かれたヒントによって秘密の通路や隠された財宝が見つかったりだとか。


……ちょっと夢見がちすぎるかなと思わなくもないけども。


法律も法律で、貴族相手の面倒ごとを避けるのに使えるかもしれないし。


……本当、『貴族 干渉 対策【検索】』とかで出てくるお役立ち情報とか欲しい。


過去の失敗事例と有識者による対策とかそういう。『迷い人異世界人Wiki』みたいな、まとめサイトとか無いのかな。


もっとも、検索結果が素人考えを並べただけみたいな『いかがでしたか?』記事ブログだらけだったら、それはそれでブチ切れそうではあるけど。


「さて、そろそろ行こうか」


紅茶のお代わりが無くなりつつある辺りで、ちょうどいい時間になったようだ。


リナもクララもフルーツサンド辺りでいい感じの気分転換となったのか、実技試験を前に緊張は無いようだ。


さて、午後からの実技試験は戦闘における位置取りで試験項目が分けられており、基本的に『前衛』と『後衛』の各会場を回ることになる。


もちろん、教会での洗礼などで授かるとされているスキルは、『前衛』や『後衛』といった戦闘系と限られたものではない。


【計算】【目利き】といった商人系のものや【交渉】【威圧】といった対人系など、それなりの割合が非戦闘系のスキルのようだ。


【空間収納】なんてのもその分類カテゴリだろうし、女神クエストの報酬である【生活魔法】とか【鑑定】も基本的にはそっちに含まれるんだろうな。


ただ、そういった非戦闘系スキルを授かっている場合でも、一応その戦闘能力を把握する目的で『前衛』『後衛』それぞれの試験を受けることになる。


もっとも、貴族の嗣子ししはいわゆる『王国の剣』として爵位が与えられる都合上、スキルの有無に限らず、また男女関係なく剣を学ばされるそうだけど。


一方で、爵位を継ぐわけでもない非戦闘系スキル持ちの場合、『前衛』は事前に申告して棄権し、『後衛』として大半は誰でも撃てるようなクロスボウでの試験を選択するそうだ。


また、クララのような【聖魔法】や、あるいは強化付与系などの『戦闘補助』に関わるスキルを持つ場合は、その旨を申告することで専用の試験を行って成績とすることができるとのこと。


さて、俺たちは先に『後衛』を回る予定になっている。


人数を捌く都合上、学科試験の会場分けと同様に『前衛』と『後衛』も振り分けが行われているようだ。


あと10分ほどで5の鐘14時となるので、俺たちは席を立って会場へと向かうことにした。


◇◆◇


「──では、560番から569番は待機場へ、510番から519番までは前へ」


係の人がよく通る声で受験生に向けて呼びかける。


……いや、少し魔力の発動を感じるから、【風魔法】でも併用して音を届けているのかもしれない。


「おや……君はもしかして」


俺たちが『後衛』の会場で番号を呼ばれるのを待っていると、後ろから声をかけられた。


「ああ、これはデレクテボフト様。貴女も受験されていたのですね」


廃村で捕まっていた男装のお嬢様、ブート嬢だった。


やはり俺たちと同様に、入学試験のために上京していたらしい。無事、冒険者を雇って王都まで来られたみたいだ。


「お元気になられたようで何よりです」


「いや、こちらこそ改めて助かったよ」


「おっと、そうでした。カタリーナお嬢様、こちらあの時・・・の……」


……盗賊に攫われたというと、何かとあらぬ疑いがかかる可能性も考慮してぼやかしておいた。


「貴女がカタリーナ様でしたか。お初にお目にかけます、私はブート・デレクテボフト。デレクテボフト男爵家の娘にございます。先日は護衛の方に手助けのご指示をいただいたこと、心より感謝申し上げます」


「話は伺っておりますわ。私はカタリーナ・ウェスヘイム、ご無事なようで安心しました。受験のための上京中に人攫いに遭遇するとは、本当に災難でしたわね」


「ええ、全くです……しかし、私たちはまだ・・幸いでした、皆さんが助けに来てくださいましたから」


ああ……そういえば、冒険者ギルドでその後の報告を受けた際、今回の誘拐騒動に関連した話を聞いたんだった。


俺たちが通ってきた北からの街道の他に、王都へと繋がる道は東と北西、南、西からの経路ルートがあるわけなんだけど……そちらを通ってきたと思われる子息や子女の一部が王都に着いておらず、捜索依頼が出ているらしい。


先月の時点で発生していた、王都周辺や学園内での失踪の調査に追われていた影響で、王立騎士団がそちらに手を割かれていたこともあって、街道の見回りが疎かになっていたという話もある。


結果、手が回っていない街道の警備も兼ねて、冒険者ギルド側に捜索依頼が出ているらしい。


「今回の襲撃については、私たちにも落ち度があったのは否めないんですけどね……」


「落ち度、ですか」


何だろう、俺たちはブート嬢の乗ってきた馬車を見ていないから分からないが、馬車に貴族家を示す紋章や装飾を付けていなかった、とかだろうか?


「ええ、例年であればこの時期に街道の見回りが強化されるのが当たり前になっていると聞いていて、きっと道中は安全だろうと思い込んでいました……そのため、『成長レベリング』した私がいれば多少の暴漢程度であれば対処できると高をくくり、冒険者を雇うことなく王都への旅を決行してしまったのです」


……一般には、領地外への旅となれば冒険者を雇い、馬車と並んで・・・歩か・・せる・・ことによって、野盗などを牽制する意味があるんだという。


うわぁ、なるほど。俺たちの馬車が狙われた理由も分かったな、これで。


街に入った時点ではラビット氏が御者台に座っていたわけだけど、その様子を襲撃者たちの仲間である斥候に目撃されていた。


装飾された箱馬車が護衛も連れずに王都へ向かう……ちょうどブート嬢の馬車と似た姿に映ってもおかしくはない。


実態は、箱馬車の上に勇者様スケさんと俺が待機していて、町を出た後にラビット氏と入れ替わりで御者台にスヴァヌル&レーヴァンが待機、そして馬車自体が【結界】の魔道具で保護されていたわけで。


うん、過剰戦力オーバーキルもいいところだったんだけどさ。でもむしろ、襲撃者側があまりに簡単に撃退できてしまって拍子抜けだったんだよな。


何にせよ、こちらにそんな意図が無かったものの、結果的に言えば襲撃犯たちが『まんまと罠にはまった』というわけだ。


うーん、でもそう考えると、だ。


東や西といった街道で捕まった貴族の子息というのも、ブート嬢と同様に冒険者を付けなかったということなのかもしれない。


ウェスヘイム子爵の場合は、あちこち回っていたから得られた情報というのもあるんだろうけど、遠方の貴族であれば早めに王都へ発つことになって、連絡が行き届かないこともあった可能性はあるし。


実際、ウェスヘイム子爵ですら護衛の変更に関連して、出発予定日の2週前ぐらいに俺たちに相談したぐらいだもんな……。


ちなみに、ウェスヘイム子爵から推薦されたというシルバーBランクの女性パーティは問題なくその役目を果たし、侯爵家の御息女を無事王都へと送り届けられたんだそうな。


「あの後、冒険者ギルドから襲撃時の聞き取りを受け、その間に手配が済んだ馬車と護衛の冒険者でなんとか入学試験には間に合ったのです」


……もっとも、王都までの旅で世話になっていた御者とメイドの2人は、その後の報告で遺体となって見つかったそうなので、無事とは言い難い状況だ。


彼女は現在、オベラジダ辺境伯の屋敷に身を寄せているんだとか。

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