第141話 ラビット氏への相談
「これは大作だねぇ……なるほど、これを作ってたからロブ君がいなかったのか」
作業していたアジトダンジョンから第2玄関へと接続し拠点に戻ると、フィファウデに行っていたラビット氏も帰ってきていた。
せっかくなので、先程ようやく完成した『箱の蓋』を見てもらっているところだ。
いやー、『こいつは案外なんとかなりそう』なんて思っていた時は、『視認できる範囲でなるべく小さい文字を彫る作業』ってのが、これほどキツいだなんて思ってなかったんだよな。
彫刻刀なんて便利なものがあればよかったんだけど、鍛治でも皮革でも裁縫でも、職人道具ってのは基本的に一点モノらしくて。流通してなかったんだよね。
まあ、衣類や魔道具と同様に流通網ってのが発達していないから、大量生産大量消費な経済圏があるわけではない辺りが遠因なんだろうけど。
作ったら作っただけ売れるってものでもないし。
……ふと、もしかして【空間切削】で剣とかより硬い『???岩』とかを加工して自分で彫刻刀一式を作れば良かったのでは? とか頭に
いや、違う違う。そうじゃ、そうじゃない。
であれば、手彫りなんて
でも本当、文字さえ彫れてしまえば、残りの作業は簡単だった。
まずは、ポチポチと木製の文字を並べて仮組して【連続体削り出し】で全ての文字を収納する。
これ、文字1つ1つは別だから連続体じゃないじゃねえかと思ったんだけど、なんか【通過対象指定】との組み合わせで、材質が一緒だったら割と柔軟に対応してくれるらしい。
あとは、その【連続体削り出し】で読み取られた文字列の形状を残したまま、用意しておいた木の板をその形状に削れば、削られた木の板側は『文字以外』のものになる。
言わば、
今度は逆に、その『型』を【連続体削り出し】で形状を読み取れば、あとは判子のように任意の木の板へ文字全体が一気に彫られる……というわけだ。
『型』の制作に成功して、とりあえず試し彫りとばかりに1枚だけ完成させたので拠点に戻ってきたわけだけど、今度は木材を仕入れるのに温泉付近へ向かう予定でいる。
「なるほどねぇ、
ラビット氏に軽く監修してもらってお墨付きをもらったので、あとは量産するだけだろうか。
量産か……。若干ながら気が重い。
一応、この『型』ってやつを量産して縦横に並べて、【連続体削り出し】で形状を読み取ることで、一気に作れるのは作れるんだけど……並べる手間とか拾っていく手間とか考えると辛そうなんだよな。
1回あたり20枚できるとしても、それを45回繰り返すことになるわけで。
しかも『型』を並べるのと、素材を並べるのとで1回ずつ。
計90回の陳列作業。若干辛い。
一方で、1枚1枚繰り返す場合、当然ながら並べる手間もないので板を出して判子を打つような簡単なお仕事だ。
また、
そのため、2〜3日あれば済みそうではあるんだけど……。
正直、飽きるんだよね、作業が。
…………あれ?
そうか。別に縦横に並べる必然性はなくて、重ねるように上に積んでいってもいいのか。
うん、ホームセンターの売り場にあるような重ね置きされたプラ板とかベニヤ板みたいな感じで、
あとは、形状を読み取って【空間切削】し、いい感じに1枚の厚さで切り離していけば割と効率がよさそうだろうか。
……あ、そうか。
同じ重ねられた状態にしても、紙とか布とかでも挟んで隙間を作れば、別材質によって1枚ずつ分離された状態を
おやおや、これはやはり天才か?
……いや、フラグになりそうだからやめよっか。これ。
まあ、温泉付近は今まで
蓋以外の部分は箱型だから、単なる【空間切削】で二重に削るだけだから大した作業でもないし。
ひとまずそっちは手を動かせば何とかなるから、遅くとも今週中には目処がつきそうかな。
「あ、そうだラビットさん。1つご相談が……」
そうそう、件の『巡礼帳』にある8つの区画について、それぞれどこが主要都市になっているのか、旅慣れているラビット氏に訊きたいと思っていたんだった。
◇◆◇
「へぇ、こんなのが教会で作られていたのか。旅商人とかでも個人で似たようなのを作っている人を知ってるけど、全国を網羅してるのはすごいね。……確かに街道が結構古い道ではあるんだけど」
8つの『巡礼帳』を出してラビット氏に見てもらったところ、巻頭にある地図を興味深そうにし始めた。
確かに旅には普通に便利そうよね、こういう地図があると。コンビニとかでも、昔は道路地図とかよく置かれてたようだし。
もっとも、こっちに来る前後はもうWEBで見ればいいって時代だからなのか、置かなくなっていたけど。高速道路のサービスエリアとかには未だあるのだろうか。
「うん、知っている範囲でよければ手伝うよ。前に言っていた女神像を配る話の流れだよね?」
「ですです。まずは地域の管理職がいそうな都市部の教会に置いていって、地域の運用についてまとめてもらいつつ、その間に周囲のダンジョン街やさらに辺縁に広げていくのが良さそうかなと思ってます」
「なるほどね。うん、いいんじゃないかな。了解、とりあえずこの冊子は借りてていい? 知ってる範囲で領都とか主要都市とかに印をつけてみるからさ」
ラビット氏が快諾してくれて、非常に助かる。
以前に
なので、各自が自分で成長ポイントを振れるようになるなら是非ともやってあげてほしいと、その時から協力的な感じではあったので、こちらとしても頼みやすくはなっていたんだけど。
「それじゃ、お願いします」
「了解、たぶん明日いっぱいには出来ると思うから」
俺はラビット氏に『巡礼帳』を預けて、第2玄関へと向かって温泉付近へと移動することにした。
「それにしても……他の
ふと、ラビット氏が成長ポイントを振るのを
そう考えると、子爵辺りが把握している数より、結構多くの
結果として、それで平穏に暮らして生を全うできたんだとしたら、それはそれでいいとは思うけどね。
──正直、俺はこの【空間収納】というスキルが持つ
もし、【鑑定】に毛が生えたぐらいのスキルだったら……生活できるぐらいの稼ぎに止めながら、一生隠して暮らしていたかもしれないな。
そういった異世界人生を全うするのも、それはそれでまったりとした楽しいものだったりもするんだろうけど……。
少なくとも、俺はこの少しだけ
……あれ、そういえば。
…………玄関の魔法袋を確認したのって、何日前だ?
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