第216話 魔法陣学
「まずは、いくつかの魔法陣の実例を見てもらいましょうか」
ダンジョンに潜った翌日、俺が履修する授業の1つ『魔法陣学』の初回に出席した。
教室は中央棟の4〜6年が研究室に入っている区画の2階で、前世における『理科室』や『美術室』、『音楽室』みたいな感じのものが並んでいる場所になっている。
基本的にこの教室で授業を行うとのことで、他の
別の教室にズカズカ入っていくのは、流石に抵抗ありそうだなと思っていたんでね。
ちなみに横には、同じ授業を履修しているクララが座っている。
担当はゾフィア先生というおばあちゃんまでは行かないぐらいの先生で、王立研究所を退職した後に、縁あって学園で教鞭を執ることになったそうな。
今回は初回ということで、導入といった感じの話をしている先生の声を聞き流しつつ、俺は買ってきた魔法陣の教科書の目次を眺めていた。
売店にあった書店では授業の科目ごとの教科書となる本が売られており、履修予定のものを一覧で渡すと揃えてくれるようになっている。
お値段は新品ということで、1冊
しかし、前に手に入れたものが完全に写経のような感じだったのに対して、この教科書は結構細かい解説がされているようだ。
魔法陣を描くのに必要な素材や、基本的な描き方、起動させ方と注意点、など割と実用的な項目が目次には並んでいた。
「……と、こういった魔道具は日常にも浸透しているので、皆さんには基礎知識として魔道具の仕組みを学んでいただくことを通して、魔道具の特性と取り扱いの注意点を知ってもらうことが1つの目標となります」
【灯火】や【給水】といった日常で使う魔道具、ポーション台でも使われてる【乾燥】、その他『農業』や『鍛治』、『調理』なんかに使われる魔道具を紹介したゾフィア先生は、この授業の概要をそう締め括った。
「さて、初回の授業ではありますが、早速ひとつ魔道具を作ってみましょう」
え、早くも実習するんだ。もしかして実力調査みたいなものだったりする?
「みなさんには魔石を設置すると点灯する【灯火】の魔道具を作ってもらいます。見本となる魔法陣の図案と台紙、
時間割りは基本的に2限連続して枠が取られているので、次の6限までが
ヴァル氏に以前聞いた話では、『綺麗で正確に、かつ計画的に描かないと、隙間が空きすぎたり文字が入らなかったりして、魔法の通りが悪くなるんだ』と言ってたっけ。
教科書にも『図は正確に写すこと』みたいなことが書いてあったから、ヴァルキューリャ流の作り方ってわけじゃなくて、魔法陣を作成する上で共通する
「失敗しても心配しないでくださいね。毎年完成するのは2割もいれば多い方です。今回の実習は現在の実力を確認するためのもので、来週以降の進め方に使うだけですから」
やはり、小テストをやって生徒の知識状況を調べる目的のものらしい。
……でも、こういうのって何とかして
◇◆◇
「……よし、こんなもんかな」
休憩時間も挟んで
……まあ、そのうち
そもそも、基本的な魔法陣は同心円の線が3重から5重ぐらいに引かれていて、その円の間に模様のような文字のようなものを描く仕様になっている。
その円を描いたり文字を描いたりするのが全て基本的には手書きになるものの、動作するものを作るには、かなりの正確性を求められてしまうらしい。
……というわけで、まあ作図用の道具って必要だよね、と思いまして。
コンパスもいいかなー、とは思ったものの、
今回作ったのは、
あれの全円のもので、直径に沿った
今回は3重になっているので、3つの大きさの定規を作成している。
また、描くのに使うのが
アレね、定規の先が紙についている状態で液体が垂れると、定規の内側に液が滲んでしまう現象のやつ。あとは定規を外した時にも少し擦れて線が汚れてしまったりとかね。
この定規は角度がついているので、烏口のような筆を立てて使えば、滲ませることなく綺麗に線を引くことが可能だ。
あとは、
「……ねえ、ロブ君。それ私も借りていい?」
クララが、既に2枚ほど失敗した台紙を横に重ねている状態で訊いてきた。
……弓の命中がいいから
クララに3つの大きさの定規を渡すと、俺のやっていたのを観察していたのか、
書き損じを見る限り、どうやらクララは中央から順に同心円を広げていくように描いていたようだけど、確かにそれだと円の幅とかを誤りやすそうだな。
先に円を描いておくと、上下の幅から左右の目安もなんとなく分かるから、割と悪くない感じで収まってくれた。
「あら、上手に描けていますね。これは石を乗せなくても合格を出してもよさそうです」
見回りをしていたゾフィア先生が、俺の手元にあった台紙を後ろから覗き込んでいた。
「ええと、あと提出すればいいんでしたっけ」
たしか、完成した人は先生に提出して希望があれば動作確認してみるという話になっていたはず。
「ええ、せっかくまだ時間はありますから、起動させてみましょう。では、あちらへお願いしますね」
そう言って、教壇から窓際方向にある何かの設備が置かれた机へと向かうことになった。
窓際に置かれた設備は、箱型の透明なガラスが張られた見た目をしていて、横から魔法陣と魔石を入れる扉と、前方向から両手を入れる穴があった。
「これも魔道具なんですけど、万が一に魔法陣が不具合で爆発しても、真ん中の台より外側には被害が出ないんですよ」
……それってもしかして、【結界】かな?
でも、昔は商人必携だったものが現代には残ってなかったようだし、失伝してしまっていたんじゃなかったっけ。
あるいは、馬車を丸ごと防げるようなものは作れなくなって、こういった作業用の道具にひっそり残っているとか?
「なんか……凄そうな魔道具ですね」
「そうですね、古い魔道具で何度も修理して使っているのですが、もう他に現存していないものらしくて、大事に使ってるものになりますね」
【結界】の魔道具で動作確認できるものが残っていたとなると、確かに貴重そうなものだけど、手のひらほどの寸法の台座が精一杯となると、頭ひとつも守れそうにないもんなぁ……。
まあ、ヴァル氏に言えば最新(?)の技術でカカッと作ってくれそうな気はするけど、さておき。
使い方は簡単で、1人が手を入れて魔石を置いて起動させたら、手が台座から離れたところでもう1人がボタン状のものを押下して【結界】を起動させるものらしい。
「それじゃ、魔石を置いたら念のためすぐに台座から手を離してくださいね」
……危険な役割を生徒にやらせるの? とは思わなくも無いけど、【結界】の方こそ上手く動作させないと大怪我になるかもしれないので、仕方ないのか。
流石に【灯火】で爆発まではしないだろ、と気楽に魔法陣を台座に置いて、魔石を中央へと乗せた。
「あら、これは素晴らしい! 商品の明かりと遜色ない魔法陣です」
うん、無事に【灯火】は起動してくれたようで、確かに魔道具として使えそうな明るさに見える。
最初に作ったにしては、上出来なのではないだろうか。
「これなら、もう単位をあげてしまってもいいんじゃないでしょうか?」
…………え? 終わり?
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