第15話 野盗狩り
「おっ、フェルさん! どちらに?」
馬に暴れられながら、水やら草やら世話をやっていた下っ端が声をかけた。何度も蹴られたのか
どうやら
「ちょっと出てくる。馬を逃すんじゃねえぞ?」
「ハハハ……」
完全に懐いてない馬をとりあえず手綱だけで縛りつけてるようなものだけに、縛っている杭から手綱がほどけないよう見張るぐらいしかできないのだろう。
下っ端は空笑いで返事をして森へと入っていく
あの道に出てしまうと見通しが良くなり、
……と思ったところで、
「……聞こえやすか。この後、奴を先回りしやす。合図をしたら30数えた後に物音を立てるんで、それに合わせて行動を」
俺は了承の意味を込めて肩を指でひとつ叩く。
それと同時に、素早く動き始めてあっという間に20メートルほど離れた位置で横並びとなった。
そして、その木影で一度止まり、指を一本立てて上に向ける。合図だ。
俺は数を数えながら、素早く
残り10。こちらから見ても、右手方向に人がいるようには感じない。今はどこにいるのだろうか。
残り5となったところで、数える速度の誤差も考えて、筒を構える。筒をわずかに格納門から出しつつ、万が一振り向かれても気付かれない背中付近で音を待つ。
突然、前方からバキバキッと枝が折れる音が鳴り響いた。
途端に
プッ、と筒を吹くと勢いよく針が飛び出し、ほぼゼロ距離で
筒は内径1cmほどの木製で、その中には内径に収まる円錐と針を組み合わせたものを入れていた。針には当然、麻痺毒を塗ってある。
いわゆる、吹き矢ってやつだ。
「痛ッ……あ?」
効果時間は5分ほどと多少短くても即効性の高い麻痺毒を選んだので、針に手を届かせるまでもなく
すぐに森をかき分ける音が近づいてきて、
「さて、どうしやす? ここに置いておいてもいいんでやすが……」
顔に布袋を被せて視界を塞ぎ、手足を拘束してから、
そうだな……また穴にでも埋めて隠せるといいんだけど、そのためにはこの視界を一度閉じる必要がある。
でも一度塞いだら、また同じ場所に出せるかはわからない。
前に【距離延長】で門を出す実験をした時は、門のあった位置が視界から外れていると、再度同じ場所には出せなかったんだよな。(少し位置を動いた時に、木の影になって同じ場所に出せないことに気がついた)
んー……、と思っていたところで、ふと思い出した。
拡張ポイント、まだ残ってたよな?
成長ポイント:22
・格納門増加 Lv.2
すぐさまポイントを【格納門増加】に振ってみると、推測通り格納門の数が3つになった。
そして、開いていた視界はそのままに、縛られた
「ファルコさん、板を1枚出しますんで、そいつで塞いでもらえますか? 上は適当に草を撒いて分からなくしてもらえると助かります」
「……分かりやした」
……なんだろう、どこか諦めた感じのある溜めがあった気がするが、
そして、森に入る時もやっていた木へのマーキングというのを穴の四方向に行って、とりあえず作業完了といったところのようだ。
……さて、ここからどうしようか。
◇◆◇
「……じゃあ、いいんですね?」
「へい、もうここまで来たら、一気に終わらしちまいやしょう」
俺の待機していた場所へと戻ってきた
ここに戻ってくるまでに、今後のことを軽く話した。
恐らく時間が経ってしまうと、ナイスガイを起点に
どうやら外の2人と捕虜部屋の前にいた1人が、入口近くの部屋で寝ていた3人と交代する時間だったらしく、入れ替わりで休憩に入ったようだ。
時刻は
休憩の3人は横になって寝始めた。こいつらはこのまま
ナイスガイはといえば、何かレポートのようなものを羊皮紙にまとめている、らしい。伝令役の代理だとすると、完全にあいつ仕事してねえじゃねえか。
その伝令役はといえば、酒に酔ったのか寝かけている。こいつも対処は楽だ。
あとは捕虜部屋前の監視か。こいつはただ立ってるだけだから、死角をつけば割となんとでもなるだろう。ただ、物音は立てることになりそうだ。
となると、やはり肝となるのはナイスガイだろうか。
何かレポートを送るつもりだとすると、魔道具か魔法か、あるいは伝書鳩みたいなものか……いずれにしても、書き終わったら伝令のところか外に向かうことになるだろう。
それなら、アイツが部屋から出たタイミング辺りで、部屋の3人を薬で寝かせることにしようか。
もし伝令の方に向かったら、部屋で話をしてるうちに外の2人と監視を寝かせて、話が終わったらそれぞれを寝かせる。
外に向かったら、伝令と捕虜部屋前を寝かせて、それから外の2人とナイスガイを……いや、3人は割とキツそうだな。
可能なら、ナイスガイが動くのを待つ間にやってしまおうか。
外の2人のうち片方が
しかし、そうなると……監視が2箇所必要になる、か。
成長ポイント:19
・格納門増加 Lv.3
うん、格納門が4つになったことで、ナイスガイと外2人のそれぞれと視点を繋げることができる。
計画の概要がまとまったので、
すると、1つ
「外の2人は、あっしが担当しやしょう。ロブは
なるほど、確かに
俺は筒(一応、予備の新品)と数本の吹き矢にした睡眠針と麻痺針を
早速移動を開始して、
その間もナイスガイを監視していたが、まだレポートを書いている。
外の2人が焚火場所の近くで準備しているようだ。
あれは黒パンと干し肉だろうか……干し肉を水で戻して柔らかくする&スープに使う、という異世界でよく見る生活の知恵をやるのだろう。
鍋には水が入っているようなので、恐らく水を出す魔道具なんてのがあるのかな。
「火を起こしておいてくれ、枝でも拾ってくるわ」
「おう」
チャンスだ。1人が森の中へと入っていく。
「
森の中に入って間もなく、俺が一瞬目を離してしまい、追わないとと思って視界を向けた時には、既に男が倒れていた。
もちろん、焚火を準備していた男は気がつく様子もない。
すぐさま入口からは死角になる木の裏に引きずられていき、袋と縄で縛られる。こちらも同様に2メートルほど地面を削り、板で蓋をして土を被せ隠蔽する。
やばい、手早いってもんじゃない。なにこの手際じゃないと
「もう1人はこっちで寝かすので、確保してもらえますか」
一度門を閉じて、焚き火の準備をする男の背後に回す。
その時、門の出現を見られたのか、馬が『ヒヒーン!』と鳴いてしまい、男が振り返ってしまった。
「チッ、静かにしてろ!」
男は悪態をつくと、再び前を向いてくれた。
馬よ静かにしててくれ、と同じく祈りつつ再び男の背後をとる。念のためナイスガイを確認するが、まだ立ち上がる様子はない。
すぐに男に向けて麻痺針の吹き矢を放つ。首筋に刺さった針に男は「あ?」と声をあげるが、そのまま崩れ落ちそうになる。
あ、マズい。
このまま倒れると、干し肉を水に入れて戻している鍋がひっくり返りそう。
思わず立ち上がりそうになるが、その瞬間に男の首を掴んだのは、音もなく近づいていた
そしてそのまま男を背負って森に入ると、地面に降ろして
流石『
「スイマセン……ありがとうございます」
「危ないとこでやしたね、でもこれであとは動いてるのが実質2人でさあ」
男も念のため地面に埋め終えて、残るは寝てる3人と伝令、捕虜の監視とナイスガイ。最後の2人をどうするか、だ。
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