第16話 後始末
この後をどうするか考えていたところで、1つやり残していたことに気がついた。
捕虜部屋のことだ。何かが起こった時に騒がれるのはマズい。
あそこは牢屋になってるわけでもないから、監視さえいなくなれば逃げられないことはない。そう思えてしまう。
それこそ、見張りが倒れた時にチャンスだと思って脱出を図られようもんなら、まだ残ってる野盗たちに襲われて不要に被害が出る可能性がある。
さて誰宛に書くか。まあ、識字率のことを考えると、あの……名前は何て言ってたっけか……まあいいや、あの
買っておいた羊皮紙の切れ端のメモに、彼女への伝言を書いて、手は後ろ手に縛られているので膝の上に落とした。
『この後、野盗を制圧。動くな。救助が来るまで待機。読んだら隠せ』
「…………!?」
皮鎧のお嬢は、落ちてきた羊皮紙に気がついてしばらく周りを窺っていたが、内容を読み始めるとすぐに膝を立てるようにして隠し、内容を読んだ後にすぐさま股の間に落とした。
まあ、流石にあの伝言で騒ぎ出して計画を潰すヤツはいないとは思いたいけど、極限状態では何が起こるかは分からないからな……時間をかけるべきではないだろう。
「……それじゃ、寝かせるとこから先に寝かせて、最後に
「わかりました」
決まってしまえば早い。寝ている3人は声を立てることもなく針が刺さり、あっさり更なる眠りについた。
伝令も同じく、既に寝ているところへ針を刺す。元から寝言を言っていたから、多少の音が立てられても気にされなかった可能性は高いが。
残るは2人。
ふとナイスガイの方を確認すると……少しマズい。
羊皮紙を丸めて紐をかけている。レポートを書き終わったのだろうか。
「ファルコさん、
すぐさま
俺はすぐさま捕虜部屋の見張りの首に睡眠針を打ち、先ほどの失敗を繰り返さないように上着の首元を指で引っ張り、壁へとももたれかけさせるようにした。
腰からズルズルと滑るようにして、ちょうど座るような形になった。いい感じだ。
捕虜部屋の中は、まだ気づいてないのかは分からないが、今のところ騒ぐ様子はない。
格納門から目を外して顔を上げると、洞窟の入口で
俺は、指を一本立てて上に向けた。
◇◆◇
「盾職や前衛物理職は状態異常に強いんでやす、だからガタイがいい相手には失敗する可能性を見るべきでやしょう」
この後の段取りを相談していた時、真っ先にナイスガイを眠らせてしまえばいいのではと提案したところ、
何でも、ダンジョンの特性が関係しているらしいのだが、ダンジョンで成長した冒険者は状態異常の耐性がついていることが多く、こと攻撃を受けやすい盾職や物理職はその傾向が強いそうだ。
その影響か、
話を戻すと、ナイスガイは他を始末して加勢を無くした後に、
「伝説級の魔道具でも無い限り、完全耐性ってのは無いらしいでやす、だから後は体内に回る量と時間の問題でやしょう」
◇◆◇
「……戻ってきたか?」
響く足音に、恐らく
「なあ、誰かいるかい?」
そこに、明らかに想像と違う声色が聞こえてきて、一気に警戒の色が出る。
羊皮紙は机に置いたまま、ナイスガイは横に置いた片手剣を腰に下げて部屋を出ていく。
……念のため、レポートだと思われる羊皮紙は回収しておいた。何かに使えるかもわからないからな。
「おっと悪いな、俺は旅のもんなんだが、森で採集してたら迷っちまってな……」
「帰れ、この先は貴族が休んでいる。お前のような輩を通すわけにはいかん」
通路を塞ぐように立ちはだかるナイスガイ。そりゃそうか、この先には
ちょうど立ち位置が定まったところで、俺は後頭部に狙いを定めた。
「そ、そこを何とか、何か食い物だけでも譲ってもらえねえかな、パン1つだけでもいいんだ!」
「しつこ……いっ!?」
合図に合わせて、俺は吹き矢を放った。麻痺矢の方だ。
その直後、俺は門を上に退避させる。無事、後頭部に矢は刺さったものの、予想通りナイスガイは振り向いた。
「ぐあッッ!」
同時に、ナイスガイが振り向いた隙を見逃さず
「貴様、どう……い…………」
ナイスガイが崩れおちる。どうやら麻痺薬が数秒遅れで効き始めたようだ。
当然、
……本当、斥候とかの見た目とは全然違ってパワーあるんだよな、この人。
「それじゃ、あっしは寝かしてある奴らを縛っちまいます。ぼちぼち
「分かりました」
時計はまだ、午後4時半前。ほんの30分足らずで制圧完了した計算になる。
◇◆◇
「お待たせ」
「ロブ、待たせたな。ここか?」
「はい、この先の洞窟です。中は
「お前……まあいい、詳しい話は後だ。グスタフは戻って他の奴らを連れてきてくれ」
「それじゃ俺たちは中に入る。クロエは念のため寝かしていけ」
「あっ、クロエさんにお願いが……」
「何?」
「一番奥の部屋に、捕まってる女性たちがいるので、引き連れてきてほしいんです。野盗に捕まった後に何されたかも分からないから、男の冒険者が行ったら
「了解。最悪、そいつらも寝かせておく」
……ま、まあ、それもアリかもしれない。
「お願いします」
「よし、それじゃ行くぞ」
◇◆◇
……その後は、冒険者たち5名ほど(
そういえば、洞窟とは別に埋めた3人を忘れていたので
ちなみに、
それから捕まっていた女性たち。皮鎧の女子を含めて計8人いて、数人はストレスと疲労で限界だったようなので、水分だけ摂らせて【睡眠】で無理やり寝かせたという。
後に聞いたところ、どうやら商家の家族たちやダンジョン街への買物に向かう家族連れが巻き込まれたらしい。父親や男兄弟などについては、装備品やギルド証の入った鞄などが付近の捜索で見つかったそうだ。
「まあ大体は片付いたようだが……こいつらはどうすんだ?」
ヒヒーン! と元気良く鳴く、馬2頭。
恐らくラビット氏の馬車を引いていた馬たちなのだろう。
なんだろう、なぜか俺にすげーフレンドリーなんだよな。頭を俺の顔や肩に擦り付けてきたり、髪を噛もうとしてきたり。
「まあ、基本的には拾ったようなもんだし、野盗の私物だったとしても権利は討伐したお前や
「とりあえず連れて行く。街に戻る」
「よし、引き上げようぜ」
時間はもう午後5時過ぎ。街に着くのは午後7時ぐらいになりそうだ。
ヒヒーン?
「え、何ッ?」
突然、馬が襟首を噛んできた。いや、ほら帰ろうよ。
「……へえ、この馬、魔馬っぽい」
「何ですそれ?」
「魔力持ちの馬。一種の魔獣だけど、かなり血が薄いからそんなに危険じゃない。でも知能は高い」
なるほど、それでその魔馬様はなぜ私めを引き止めなさるんで?
「乗れって言ってるんじゃ?」
なんか
俺、前世も含めて馬なんて乗ったことないけど。しかも鞍無しとか。
「まあ、馬なりに野盗から解放してくれた恩返しなんじゃねえか? 最悪、食うつもりだったのかもしれねえしな」
「いいんじゃないでやすか、今回の英雄様の凱旋ってやつでさぁね」
思わず、ぎゃあと声を上げてしまったが、何とか背を股で挟んで
馬はといえば上機嫌でひと鳴きすると、森へと進み始める。
なんか案外揺れが少なく、座ってる分には全然楽な乗り心地だ。
……こうして、俺はいくつかの謎を残したまま野盗たちの討伐を終えて、街へと帰還した。
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