第17話 貸し

街に戻ったところで、野盗や捕虜たちは冒険者ギルド預かりとなり、また明日にでも改めて報告することになった。


一応、馬も冒険者ギルドの厩舎に預けられたので、ここでお別れだ。


さーて帰ろうかと思って、宿に向かおうと足を踏み出したところで、その足が地面につくことはなかった。


「……おう、お疲れさん。なに1人で帰ろうとしてんだ?」


リーダーベルトにガッシリと首を掴まれ、エルフ風クロエには腕を組まれ、そのまま酒場へと連行されてしまった。


しかも、行きつけで少し大きめな酒場といった感じで、飯のついでに会議するのに丁度いい個室・・のある心遣いサービスがされていた。


お誕生日席逃げられない一番奥に座らされ、食い物と飲み物が手早く注文される。


丸焼きにされたひと抱えある肉とソーセージに、シチューとパンが添えられた定番だというメニューと、各自の飲み物とりあえずエールと果実水が揃い、また後で呼ぶ人払いと店員に伝えたところで、話は始まった。


「……さーて、それじゃ話を聞かせてもらおうか」


「え……ええと、何を?」


「そうだな。まずは『到着したら野盗が討伐されていたところから』だな」


「は、はぁ……」


チラリとシーフ風ファルコの方を見ると、何も知らないとばかりに目線を合わせずに、肉をナイフで切り取り始めている。ズルい。シーフめ。


「その辺りは、ねぐらに到着した後、俺のスキルってやつで何とか中の様子を探れそうだったので、その……そう、ファルコさんとも相談したんですけど、それでやってみるかという話になってですね……」


「……おい、そこの何も知らねーみてえに肉食ってるやつ、何か言うことはねえのか?」


「あっしのことですかい? ロブ君の言葉通りでさぁね。スキルを実際にやって見せてもらって、それで安全に偵察できそうだったから、中の様子を探ることにした。何も間違っちゃいやせん」


「ほう……そのスキルってのは?」


「あっしの口からは何とも。スキル詮索は作法マナーが悪いでさぁね。ご本人が自分から明かさない限りは野暮ってもんでやしょう」


「……まあ、そうだな。んで?」


ジロリ、とこちらに視線が向けられる。まあ、あの【土魔法・・・】を見られてる時点でチート級のギフト持ちと言うのはバレてるだろうし、ここは素直に白状しといた方が良さそう、か。


俺は諦めて、そもそも俺のスキルが何であるかから始まり、世紀末たちとの絡みからねぐらでやったことまで、一通り話しておくことにした。


◇◆◇


「藪蛇」


「……いや、蛇なんて可愛いもんじゃねえよ」


「あっしも、あの場では詳しく聞く時間がないので気にしないようにしてやしたが……改めてこれは想像を超えていやすね」


俺は試しに、シーフ風ファルコの皿から肉とソーセージをフォークで刺して根こそぎ奪ってみたり、肉の塊を【空間切削】で綺麗な立方体ボクセルに切り出してみたりしたことで、【空間収納】の性能はご理解いただけたようだ。


「でも、こんな掟破りチートを見せられたんじゃ、危険だからなんて言い訳は通じないでやしょう? 捕まってる人がいることも確認できたし、既に破落戸ごろつきから証言裏付けも取れてるとなりゃ、やれることをやっとこうとなったわけでやすよ」


結果は出してるからいい、というのは実に冒険者らしい発言なんだろうけれど……リーダーベルトとしては、新人に対する姿勢としていかがなもんなんだ、という後輩指導の倫理的な意味で咎めてるんだろうなぁ。


「……探していた2人の安全が確認できた時点で、応援ベルトさん達を待つという選択肢もあった気はします。ただ、やれることがあったのに手を出さず後悔したら勿体ないと思ったんです」


ちからの過信……にしては、そのちからがとんでもねえから何も言えなくなりそうだが、お前も分かってんだろ? その能力を十全に使うには、隙がデカすぎるってことをよ」


そう、この能力はまだ慣れてないどころか習得して1日しか経ってない。


恐らくではあるが、あくまで『魔法は想像力イメージ』というのがこの世界でも通じたから、こんなにも操作に慣れるのが早かっただけなのだろう。


だから、シーフ風ファルコの手を借りる必要があったし、実際に何度も助けられた。


「……今回上手くいったのは、運が良かったと思うことだな。まずは地道にウッドFランで受けられる講習でも一通り受けておけ」


「はい」


これはもう、その通りだなとは思う。この世界における常識ってやつが、俺には圧倒的に足りてない。


「それで、どうする? その能力。隠す?」


途中からは盾職グスタフと競うように黙々と立方体ボクセルに切られた肉を食っていたエルフ風クロエが、腹も満たされたように背もたれに寄りかかって口を開いた。


「……隠せるなら隠した方がいいけどな。しかし、どうやってあの穴やら潜入やらを説明つけるんだ?」


「地面はあくまで【土魔法】で通す。潜入はファルコが【透過】のスクロールを偶然見つけたことにする」


「冗談だと思って使ってみたら本物でしたー、使ってしまったからもうありませーん、てか。……まあ、そんなもんでいけるかもしれねえな」


本当、面倒見がいい人たちすぎる。今日出会ったばかりのヤツに、能力を隠すための算段をつけようとしてくれている。


迷惑かけまくってるけど、何で返せるんだこれ……。


「本人としては、どうしたいんで? 隠さないってことも出来るんでやしょうけど……止めておいた方がいいですぜ?」


「迷惑かけるから、なんてのなら、気にしなくていい」


「そうだな、その能力はバレたら危険すぎる。貴族どもが黙っちゃいねえ」


あー。貴族かー、貴族はダメだ。絶対に関わりたくない。


生存バイアスでも、冒険者で貴族に関わって良かったケースなんて、殆ど見たことがない。


貴族転生だって、王族やら侯爵やらに関わってろくなことになってない。いわんや冒険者をや、だ。


いざという時に、交渉のテーブルに立てるぐらいの反撃力がないと、弱みを握られて使い潰されたり、犯罪やら濡れ衣やらで尻尾を切られたりするのがオチだ。


「まあ、上位貴族だろうと黙らせられるだけのコネってやつを手に入れるか、あるいは十分なちからってやつを手に入れる必要があるだろうな」


「伝説のプラチナSランクは、仲間を人質に戦争の道具としようとした公爵家を、ブラックドラゴンを従えて潰した」


「……その例は極端だと思いやすが、身の丈に合わない強力な能力を持って生まれてしまった冒険者が、不幸な生涯を過ごすことになった例は数多くありやすからね」


なるほど、リーダーベルトたちは『そういった輩』が実際にいることを踏まえて、心配してくれているんだろうか。


圧倒的に隙が多い現状を解決しない限り、下手に知られてしまうことで、貴族とかに利用されるリスクがついて回る、と。


「でも逆に言やあ、貴族でも何でも跳ね返すだけのちからを手に入れた冒険者ってのは、例外なく大成しているんでさぁ」


「まあ、貸しだな。ある時払いの催促無し。俺たちは健全なシゴトで有名だからな」


「なるべく返すのは先にして、利子をつけて返してもらいたいもんでさぁね」


アイアンDランクになったら、何回か運び屋ポーターやってもらうとか」


「あー、いいな。食い物とかで魔法袋が圧迫されないってだけでも助かるが、バカでかい容量で素材を丸ごと持って帰れるなら、解体する時間も要らねえし選別も要らねえから、一気に稼げるぜ!」


みんな、気を遣って負担じゃないって風にしてくれようとしてるんだろうことは、言わずもがな分かった。


実際のところ、出会ったのなんてほんの数時間前なのに、こんなにも親身にしてくれる。果たしてこんな対応を、俺は誰かにしてやれるだろうか。


……いや、そう出来る冒険者となれるように、今はただ彼らに甘えておこう。何倍も利子をつけて返せるように。


「……わかりました、それでお願いします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る