第18話 討伐の精算

そこからは、あるだけ食い物を食べながら色々と話して盛り上がった。


結果としては、野盗のアジトを潰した大成果を上げたわけだしな。


アイアンDランクまでのギルド評価稼ぎのこと、ダンジョンのこと、彼らのパーティ名が『ウォルウォレン』ということ。


普段はダンジョン街を拠点にしていて、実は今回依頼を受けたのは偶然だったということ。(付き合いのある商人の護衛で来て、報告後に頼まれたとか)


この街、ヨンキーファが属する国は『トレフェンフィーハ』という名前で、ダンジョンで賑わっているため比較的経済が安定していること。


逆に、野盗たちが流れてきたお隣の国『ルーデミリュ』は、治安も悪化してるらしいこと。


余談だが、『ルーデミリュ』では、ストーンEランクからパーティ条件付き平均D以上でダンジョンに入ることができるらしい。


ナイスガイの討伐についてシーフ職ファルコに相談した時も話に出たが、ダンジョンにおいて冒険者が得られる『成長』は、圧倒的なちからの差を生み出すそうだ。


それは単純な腕力STR防御VITといったステータスでもそう。ダンジョン内の経験が有るのと無いのでは、歴然とした差が出てしまう。


それゆえ、『ルーデミリュ』のギルドランクはこの国のランクと比べて実質的に1つ上のものと見る傾向がある。


「まあ、その分だけ向こうじゃ死んだり怪我で引退する冒険者が多いらしいけどな」


「ダンジョンに入る利点メリットは、被害よりも利益を優先したくなるほどなんでやしょうが、危うさリスクも伴うってことでさあね」


「そもそもが、無資格でやってた頃にあまりに失踪者・・・が多いもんで、入場者の管理と基礎知識の共有、後に入場資格制限としてのランクってのを定めたのが、この国における冒険者ギルドの始まりだって話だな」


なるほどね、ダンジョンありきでギルドが立ち上がったというのは面白い話だ。


そういや、こっちに来てから魔物ってのを見ていないが、そういった被害はないのだろうか?


「ダンジョン外での『成長レベリング』ってのはできないものなんです?」


「あー、そこいらの兎や猪を倒しても無駄だぞ。魔物はダンジョンにしか出ねえからな」


「伝説級の昔の昔、魔物が出現する森とか魔王のいる島があって、そいつらを倒すことで『成長』した記録はある」


「勇者ってのが現れて全てを倒し、平和な世界になったっていう御伽噺おとぎばなしでやすね」


「なるほど、それじゃ外に魔物はいないんですね……」


道理で森から街までエンカウントがなかったわけだ。あ、世紀末とはエンカウントしたか。


「例外といえば暴発スタンピードぐらいか? 放置されたダンジョンから魔物があふれる現象らしいが、今となってはダンジョンは全て管理されてるからな。この国で起こったって話は聞いたことがねえな」


「でも、魔物を見かけて討伐していったら未発見のダンジョンがあって、その褒賞でその辺りの領主になったって話はありやしたね」


「カスティヨ・デ・ロカ。大陸の東端にある国リトスビアの大都市」


へー、ダンジョン発見で統治権が与えられるとか面白いな。


実際は国から押し付けられたのかもわからないけど、溢れた魔物を倒せる実力があったなら相当強いんだろうし、ダンジョン素材で村を発展とかなかなか異世界チート感ある響きだ。


◇◆◇


「それじゃ、2の鐘半ば9時頃に冒険者ギルド集合な」


「うん、また明日よろしくね」


「また明日」


シーフ職ファルコが酔い潰れたところでお開きとなって、明日の確認をして別れた。


そのシーフ職ファルコはといえば、盾職グスタフに担がれていった。本当にリーダーベルト盾職グスタフ状態異常酔いに強いようだ。


それからは、昨日と同じ宿が空いていたので部屋を借り、風呂場で湯を浴びてすぐに寝てしまった。


気付いたら既に朝。窓からの光がまぶしい。ステータスオープンで見てみれば、時刻は2の鐘8時で、あわてて支度をすることになった。


まあ、色々とあった1日だけに、疲れも溜まっていたのかもしれないが、相当な爆睡度合いだった。


冒険者ギルドではギルドマスター案件ではあったが、ほぼリーダーベルト任せで昨日の筋書き通り進めてもらった。


俺は『身の程知らずのウッドFラン』の暴走だったということで、免取りにならなかっただけ感謝しろとばかりに叱られた。


とはいえ、困った人を助けるのもまた冒険者だとは諭されたので、穏便に済ませてもらった。


その後は精算となったが、ねぐらから回収したものは、基本的には丸ごと冒険者側に所有権があるらしく、ただし遺品や依頼品などで引き取り交渉があるものも出るため、1ヶ月ほど後に精算となるそうだ。


報酬としては、残念ながら賞金首はいなかったので、野盗1人あたり大銀貨2枚20万、捕虜1人あたり大銀貨1枚10万。野盗9人と捕虜8人の計大銀貨26枚260万だ。


この金は、全てウォルウォレンリーダーたちに貰ってもらうことになっている。


あの場で下手に分ける話になると『ウッドFランでもワンチャンある』みたいな前例になりかねないし、一連の筋書き作り話が台無しになってしまうからな。


前日の打ち合わせ時点で、リーダーベルトの『まあ、すぐにダンジョン街に来るだろ? お前』という一言により、後々分ければいいかということで話はついていた。


ちなみに、野盗たちは犯罪奴隷として売られるそうだ。この褒賞と運搬作業した冒険者たちへの報酬など諸々に、冒険者ギルドの作業料、捕虜や被害者たちへの補填が上乗せされた金額で。


そんなこんなで、1ヶ月後にまた精算のために寄るらしいが、ウォルウォレンリーダーたちはダンジョン街へと戻って行った。


連絡は冒険者ギルド経由で割と取れるらしいので、何かあれば連絡してこいと軽い感じで、あっさりとした別れだった。


まあ、そんなに遠くないらしいしな。ダンジョン街。


◇◆◇


「……やば」


屋台などが並ぶ道を歩きながら、ひと段落したなと思って今後を考えた時、2つのことを思い出して立ち止まってしまった。


1つは、捕虜として助けられた2人について身元を確認したかったこと。特にクレリック。


元々は、彼女経由で蘇生持ちを紹介してもらえないかという下心もあって探していたのだ。


もちろん、知り合ってしまった人がみすみす死ぬのは寝覚めが悪い、という気持ちでやったのは決して嘘ではなかったが。


もっとも、こちらは別に今すぐ知りたいものでは無いので、そこまで重要ではなかった。


問題なのは、もう1つの方。


……ナイスガイの書いていたレポート、提出するのもリーダーベルトたちに見せるのも忘れてた。


全然中身は見てないけど、世紀末たちの言っていた『貴族に頼まれた』だとか、あの貴族かぶれの伝令だとかの情報と組み合わせると、『可及的速やかなるはや上長への申告エスカレーションが必要』っていう類の書類じゃないのコレ? ねえ。


……ボス上長案件だよな。うん。


とりあえず商業ギルド行って、『マズそうな書類っぽかったんで、他の人の目に触れないようにしときやしたー!(キリッ)』とばかりにボスに渡して、知らぬ存ぜぬを通すことにしよう。うん。


ちなみに、あの伝令とナイスガイと飄々の話してた内容は、言い訳の都合上カットされたので、報告には上がってない。


『自分はただ怪しい羊皮紙を届けただけで、詳しいことは何もわからないっすわー。あとは領主さんとか国の偉い人とかと相談していいかんじ・・・・・にオナシャス!』ってことでお任せしよう。それがいい。


ワタシはあくまでウッドペーペーのハナタレコゾーなんで、センニュウコウサクだとかラチヒガイだとかヨクワカリマセーンのことよ。


さあ、そうとなればとっとと商業ギルドに届けて、改めてウッドFラン冒険者・運び屋ポーターロビンソンのスタートだ!


◇◆◇


「……あっさり、だったな」


いや、本当にあっさりボスに会えて、あっさり事情が受け入れられて、あっさり箝口令かんこうれいを敷かれて、あっさり対応を褒められて、そしてあっさり帰された。


もっとも、ボスの眉間の皺は観測史上最大級に深くなっていたし、発せられていた殺気も小動物なら心肺停止するレベルだったので、そのヤバさは察するところなんだけど。


ちなみに、昨日の森に向かう前に入れていた連絡で、すぐに冒険者ギルドへウォルウォレンリーダーたちへの応援人員募集をかけるよう通達していたそうだ。


そのため、リーダーベルトたちが着いた時点で既に必要人数が揃っていたそうで、すぐさまシャトルランのようにとんぼ返りだったらしい。


確かに、リーダーベルトたちが戻ってくるまで、往復でほんの2時間弱だったよな。


エルフ風クロエの来る時間がもっと遅くなってたと考えると、あそこまでスムーズに野盗を収容できたのは、割と色々噛み合った結果だったのか。


それに、シーフ職ファルコが万能だったから色々とフォローしてもらえたけど、何かイレギュラーひとつでひっくり返されてたかもしれないと思えてきた。


相手が魔道具持ってたり、それこそ盾や前衛には見えないのに状態異常耐性持ちだったりとかな。


……ま、まあ、アレだよな。地道に経験を積んでいくのが一番だってことだよな。


よし、まずはストーンEランク目指していこうか。


ちょうど4の鐘12時の鐘が鳴り響く中、俺は冒険ギルドへと足を向けた。

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