運び屋ロブとダンジョンへの道

第19話 講習会

「薬草は、この特徴的な3つの楕円を組みわせたような形状の他に、手触りと匂い、あるいは群生の場合に千切って食べてみることで判別することができる」


5の鐘午後2時から入れる『初級採集講座』というギルドの講習会があったので、早速参加してみた。


講師をしているのは冒険者ギルドの職員のようで、手慣れている感じだ。元冒険者って感じの細マッチョ。


室内には10人ほどの参加者がいる。冒険者ギルドは10歳から登録可能で、12歳になるまではウッド固定という話だ。集まってるのは、ちょうどその辺りの年齢層のように見える。


講習会が行われている会議室は、前方にデカい黒板が置かれていて、さながら学校の教室のようだ。


黒板にはヨンキーファ付近の地図がデフォルメされて描かれており、主な採集場所や目的地が書き込まれている。


その図によれば、この街を出た西側から南にかけてムルタクア川があり、その近辺ではよく薬草が採集できるそうだ。


薬草は、前世のミント並みではないにしても割と生命力がある野草のようで、ある程度無茶な採集をしても翌日には半分ほど元に戻るぐらい、根さえ残ってれば生き残るんだとか。


ちなみに薬草の生えている場所は環境に非常に左右されやすいそうで、主に山奥から流れてくる川に沿って生えることが多く、上流の方がより効果の高い上薬草が混じる傾向があるそうだ。


ウッドFランの諸君は、現在この採集がギルドの評価を稼ぎやすい仕事になるかと思う。本来であればダンジョン街との荷運びや買い出し等もあるんだが、野盗の発生で上位の冒険者による治安調査中につき、もうしばらく新規募集は保留となるだろう」


あー、前世のUBERみたいな個別配送も冒険者ギルドでやってたのか。まあ、都市間が絡むと商業ギルドだけでは完結しにくくなるか。小口だと殊更に。


一応はあの野盗たちは捕まえたし、ねぐらとなっていた洞窟はエルフ風クロエの魔法で入口を爆破して塞いだしで、ぼちぼち規制解除されるとは思うんだけど、恐らくは今日明日って話ではないだろう。


「冒険者志望の諸君には冒険者・・・らしく・・ない・・とあまり人気は無いが、掃除や倉庫整理といった商家の手伝いも割とギルドには入ってくる。そういった出会いは後々の指名依頼にも繋がったりするから、時間がある時はうけてみるのもいいと思うぞ。……ま、余談はこの辺りで話しを戻そうか」


なるほど、この世界はダンジョン以外に魔物がいないから、冒険者ギルドの『なんでも屋』度合いが強いのかもしれないな。


その後、毒消し草や毒草、痺れ草、眠り草などが紹介されたが、この辺りは試しに食べるのも非推奨なため、ウッドFランのうちは持ち込んで鑑定してもらうのがいいそうだ。


また、それぞれの草には採集しやすい場所もあるようで、ランクが上がると行けるようになる周辺の主な採集地なども含めて紹介された。


その中にはあの森ステラワルトも入っていて、時期によって果物採集の手伝いや荷物運び、警備などが発生するそうだ。


あれ。ラビット氏がやっていたと思われる、森の奥からの運搬を考えると、集落などの紹介があってもよさそうなもんだけど、森から先は話に出なかった。あれは完全にボスギルマスからの指名依頼限定って感じだったんだろうか。


……と、そんなことを考えてるうちに5の鐘半午後3時で講習会は終了した。


終わるや否や、数人の講習会に参加していた男子たちが会議室を飛び出していく。


そうだ、この後は戦闘の講習会というのもあるんだったな。折角だし、そちらも参加しておこう。


◇◆◇


戦闘の講習会で汗だくになった俺は、そのまま宿へと戻ることにした。


剣とか全然わかんねーって感じだった。剣道とかもやってなかったし。


いや、全然動けてる。やっぱり基礎ステータスがそこそこ高めなのか、単に若年齢化で身体が軽いからなのか、思ったよりも力はあるし素早く動けていた。


でも、対人戦となると本当に敵わない。あの細マッチョは割とS気質で、何度となく余裕で転ばされて一本を取られた。


むしろ向こうのほうがゆっくり動いているように見えたんだけどなぁ。そのゆっくりな動きでも完全に剣筋を見切られて、1回も着ている鎧にすら当てられなかった。


「……毎度」


受付のおじさんに宿賃を払い、同じ部屋に通される。


荷物を置いたらすぐに湯を浴びに行って、異世界ドライヤー使って、部屋でラビット印の超絶サンドイッチと野菜スープを腹に入れる。


いやー、なんか中学時代に戻ったみたいな暮らしっぷりだなこれ。仕事せずに食う飯は格別だぜ。


まあ、金が出ていくばかりだけどな。ざっと出費を計算してみると、だ。


3食外食で銅貨10枚1000円、宿代で銅貨15枚1500円、魔石代は1つ銅貨10枚1000円でまだ使えそう。ざっと1日で大銅貨3枚3000円ってところか。


俺の場合はラビット印の山のような作り置きを拝借しているので大銅貨2枚2000円枚になるが、それはさておき。


収入とか手持ちで言えば、今のところそれなりに余裕はある。


昨日の報奨金と、その他に魔道具の買い戻しまたは売却でおよそ金貨4枚400万円ほどになるそうだけど、シーフ職ファルコと俺とで山分けでいいという話になり、金貨2枚200万円を貰えることになる。


また、ボスギルマスから運搬料として受け取った大銀貨15枚150万というのもあったな。


手元にある金だけでも、同じ暮らしならあと5年はいける計算ではあるが……流石に仕事はした方がいいだろう。


この街にいる新人冒険者たちは、大体がここに家族がいて住んでいる子供や、孤児院から仕事に出ている子供のようで、彼らであれば15銅貨1500円を超えれば残りは黒字という計算になるだろうか。


俺は宿に泊まってる分だけ不利ではあるなぁ……。


…………。


……そうだ、アジトだ!


異世界といったら、アジトを作って引き篭もるのが定番だよな!


それなら宿代だってかからない。もちろん環境整備に手間はかかるだろうけど。


よくよく考えたら、空間収納の実験をするのにも、街中や誰かに見られるところでやるわけにもいかないし、そりゃアジトを作らなきゃ。うん。


丁度いい場所・・・・・・もあることだしな。つい最近、住んでる人が退去されて、しかも誰も入ってきそうにない、穴場中の穴場・・が。


あー、でもそうなるとアレだ。冒険者ギルドに登録した時に言われた、『有効期限』ってのが問題になるな。


たしか、『ウッドFランは1ヶ月、ストーンEランクは3ヶ月、アイアンDランクは6ヶ月の活動実績が確認できない場合に脱退扱いとなる』だったか。


ブロンズCランク以上ともなると、5年の失踪判定と犯罪による除名処分が無い限りは失効しないとのこと。


まあ、最初に説明をしてくれた受付のお姉さん曰く、ストーンEランクまでは準備期間だから、講習受けながら仕事さえこなせていれば、ソロの回復職ヒーラーでもランクアップできる仕組みになっている、らしいけど。


ギルドの評価は割と簡単なポイント制で、アイアンDランクまでは実績なんかも重要視されないとか。


余談だが、アイアンDランクから先は、護衛や盗賊討伐といったものや、貴族や商家による指名依頼、ダンジョンにおける到達実績、あるいは救助協力といった貢献を踏まえての『審査』が入る、というのを後にリーダーベルトたちから聞いた。


さて、それじゃ今後の計画スケジュールとしてはこんな感じか。


1)採集依頼と雑用でどの程度の貢献を稼げるか調べる

2)貢献からどの程度の期間でランクを上げられるか目算を立てる

3)アジトを作りながらランクを上げられるように定期的に依頼をこなす

4)アジトが完成したら【空間収納】スキルを上げつつアイアンDランクに向けて依頼を効率化する

5)アイアンDランクになってダンジョンに潜れるようになったらボスギルマスに連絡してラビットさんの蘇生に挑む


ああ、そういえばボスギルマスから連絡があったら聖銀ミスリル聖金オリハルコンの納品しに行くのと、あの2人に相談して【蘇生魔法】が使える聖職者クレリックを紹介してもらえないか頼む、ってのがあったな。


ついでに、1ヶ月後にリーダーベルトたちが精算で来るというのもあったか。


まあ、掃除とか風呂とか寝床とか今日明日にアジトなんて出来るものではないし、しばらくはここに泊まって連絡先としておけばいいか。

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