第20話 はじめての薬草採集
「……なるほど、こんな感じか」
冒険者ギルドで依頼書を眺めてみた。
薬草などの採集については、昨日の講習会で話があったが、常時依頼となっていて都度の受注は不要で買取時に達成扱いとなるそうだ。
そのため、目の前にある掲示板に貼られているのは、それ以外の依頼ということになるのだが、大半に『付帯条項』がある。
・洗濯屋手伝い 水・風、優遇
・庭師手伝い 土・風、求む
・倉庫整理 身体強化系必須
・鍛治溶鉱炉当番 火求む
魔法がある世界だと、こういった募集になるわけだ。なんだか転職雑誌の募集要項に大体記載されていた普免とか簿記だとかプログラマー経験だとかの記載を思い出す。
そうなんだよなー。大体が職歴だとか資格だとかで募集資格から外れてて、入れそうなのはコンビニとかスーパーとかしか見つからないんだよなー。
……非常に辛い気持ちになってきた。いかんいかん、俺は転生したんだった。
そもそも、ギルドでは
今回は薬草採集前に寄ってみようといった感じだったので、
この掲示板のそれは、条件のいいものなどが粗方取られた後に残ったものなのだろう。
今度、争奪戦にも一度ぐらいはチャレンジしてみようかなー、なんて思いつつ、冒険者ギルドを出ることにした。
◇◆◇
ヨンキーファの西門から出て1時間ほどで、幅の広い川が見えてきた。あれがムルタクア川らしい。
川の上には、片側1車線ぐらいではあるが幅のある石製のしっかりした橋がかかっていて、商人なのか冒険者なのか、馬車が渡っている。
河川敷や中州には緑色の絨毯みたいに草が生え揃っていて、両岸の方にはちらほら採集している人が見える。
川で遊んでいる子どももいるが、ほんの膝丈ほどで、そこまで深くはないようだ。流れも穏やかで、中程まで入らない限りは事故る心配もなさそうだ。
橋の中程から眺めてみると、両岸には堤防らしきものがあって、街の反対側の方が堤防が低めになっていて、増水時に水を逃す遊水地のような仕組みがあるように見える。
すごい、治水がしっかりしている。いざという時は魔法で天災でも何とかする、とかではなく、きちんと魔法以外で解決する仕組みが取り入れられてる。
まあ、その堤防だとか遊水地だとかは土魔法で作られたのかも分からないけど。土木作業員が魔法部隊とか、すげーいいな。ちょっと憧れる。
ふと見下ろすと、川に囲まれた
あそこで採集すれば、いい薬草が取れそう…………あっ。
「普通に採れるな……ここから」
少し周りを見渡すが、今は誰かが渡ろうとしてる様子はない。
ちょうど肩より下と頭の上を平行に通る金属製の手すりの間に頭を入れて、下を眺める姿勢をとる。
そして視線の先に格納門を開けて、その視界を中州付近に飛ばす。
うん、講習会で見た薬草が、あちらこちらに見えている。これはいいな。
もちろんそこからは、【空間切削】で遠隔採集ですよ。うわー、すげえ
時々、周りの草も巻き込んでしまったが、その辺りはご愛嬌。それでも遠目には緑一色だからバレない。はず。
そこそこ広い中州だったので、たぶん50本ぐらい採れたんじゃないかな。どれどれ……。
「……んん?」
うわ、これは更にチートだ。
採集した薬草が、ランクごとに自動で選別されてる。
しかも、誰も手付かずだったせいなのか、普通の薬草は5本ほどで、中薬草という少し効果の高い薬草が40本、上薬草がなんと15本も含まれていた。
……なるほどなるほど、こいつはゼニの匂いがするな?
そう、川の中州ってのは、この橋の下にだけあるものではなく、この先も上流や下流に向かって点々と存在している。
しかも、しかもだ。
「毒消し草に痺れ草、眠り草もあったのか」
そう、巻き込みで刈ってしまった中に数本ずつ含まれていたようで、カテゴリ分けされた草の中には毒消し草など他の草まで入っていた。
……これさ。もしかしてだけど。
「…………できたね。うん」
【空間切削】には、Lv.3で得られた【連続体削り出し】という追加機能がありましてですね……。
こいつで、『毒消し草』と指定して範囲を中州の半分ほどを覆うようにしてみたところ、一気に10本ほど入ってきまして……。
中州全体で計22本。薬草と同様、こちらも15本は中毒消し草、5本は上毒消し草とカテゴリ分けされてるようですね、ええ。
……やばい、
うん、アレだ。
インテリヤクザ先生ありがとう! こんな世界に送ってくれて!!
あんな黒魔術使う悪魔に取り憑かれたようなヤクザだったけど、神のように崇め奉ってもいい。
『インテリヤクザに異世界へ飛ばされたら人生が変わった』ってタイトルで小説化されかねない。
きっと、親ガチャに失敗した俺に、前世の神が遣わせた使徒だったんだろうな。
後でインテリヤクザの像を【空間切削】の練習で掘って、神棚にでも供えなきゃ。
◇◆◇
……あれから1週間。
あの橋の下にあった中州を中心に収穫後の成育状況を観測しつつ、上流から下流にかけて徒歩で行ける範囲を回ってみたところ、大小あわせて15箇所の中州を発見して、計2500本ほど薬草を集めまして。
しかも、そのうち600本は上薬草、1600本が中薬草になっております。
どうも、薬草王ことロビンソンです。
薬草は1日で半数ほどが復活するというのは本当で、2日経つと3/4ほどが復活した。
ただし、毎日採り続けると上薬草と中薬草の割合が減っていくようで、流石にゼロにはならないものの、少なくはなっていった。
それこそ起点として毎日採り続けていた橋の下の中州は、毎日半数ほど復活するものの、割合として最初に採った量の半分ほどになってしまった。中薬草は30本中10本、上薬草はたった3本だ。
そう考えると、河川敷にある採りやすい薬草は、毎日採集されてしまっていることによって、中州のそれと比べて量は半分、上位も半分と、なかなか稼ぎにくくなってるのかもしれない。
ちなみに、薬草以外についてもひと通り集めた。というか、2つ目の中州からは近くに人がいないタイミングを見て、もう全て刈り尽くしてみた。
だって、空間収納さんってば優秀なんですもの。適当に採集しても、勝手に仕分けてくれるんですもの。
毒消し草や痺れ草、眠り草といった機能系も上中下それぞれに分けられていて、その他は雑草(イネ科)、雑草(キク科)、なんて分け方までしてくれている。
ただ、流石に刈り尽くしてそのままだと地面が見えて、明らかに違和感となってしまいそうだったので、雑草カテゴリに入った草を散らしておいた。
結果、大量の雑草も含めて空間収納には入っているが、毒消し草や痺れ草など各500〜1000本ぐらい収穫できている。
当初はギルド評価ポイント目的のはずだったが、ギルドに納品するより中州の調査が面白くなって、完全に優先してしまった。
もっとも、納品するにしても通常の薬草は300本なので、全体量からすると少なめには感じる。それだけでも全部納品したとして、どの程度の評価になるだろうか。
……そもそも、どこに卸すにしても2200本の上位薬草や他の草を一気に市場に流したら、流石に目立つどころではないだろうし、価格にも影響してしまう可能性すらある。
どうしたものかなー、と悩みながら宿に戻ったところで、カウンターのおじさんから受付した際に羊皮紙の切れ端に書かれたメモを渡された。
「……お前さんに、商業ギルドからだとさ」
メモには、
恐らく、
……あ、薬草のすげーちょうど良さそうな納品先、思いついてしまったわ。
そう、キナ臭い感じで色々と準備しなければいけない方々には、『高位ポーションに必要な素材』なんて、そりゃ喉から手が出るほど欲しいんじゃないかなっていうね。
よし、明日の予定が決まったので、湯を浴びに行こうと鼻歌混じりに魔石を手に取った。
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