第21話 ボスとの交渉
「それじゃ、各30kgずつだね」
窓口で
軽く挨拶をした後、早速荷物の受け渡しへと入り、インゴット3列を5段重ねの塔で4セット並べる。
なんか慣れたら、もう出した時点で塔が目当ての場所に出現するようになった。イメージが固まったということだろうか。
まあ、前回は3000本も並べたからな。そりゃインゴットを揃えるイメージも固まるわな。
「手間をかけたな。こいつは一往復分の運び賃だとでも思ってくれ」
そう言って、たった数分の仕事に
この前のでも貰いすぎ、と思わず言おうと顔を上げた瞬間に睨まれたので、口を
どうせ貴重な金属を運搬するコストだとか管理費だとかを持ち出して有無を言わさない気なんだろうから、そこは飲み込んで受け取った。
それを見て、また怖い笑顔を浮かべている
なんか、いいように扱われてることに、それが冒険者なりたての俺を世話してるつもりで善意なのは理解しつつも、若干腹が立つ。
……まあ、ここから反撃に出ることにするからな。覚悟しておけよ。
「それじゃ、運搬依頼の件はこれで片付いたわけだけど……一件、仕入れたものの
満面の営業スマイルでもって、
「……わざわざ俺に話をする内容ってことか。品は?」
よし、ここできちんと一発キメておかないとな。出し惜しみせず、重いのを打ち込む。
「上薬草600本、上毒消し草200本。時間停止で新鮮なままお届け、というのはどう?」
一瞬、目を見開いて、徐々にその眉間に皺が寄っていく。
そう、ラビット氏の大量の資材運搬に始まり、
「偶然というか……いや、本当に狙ったわけじゃなく、偶然にも手に入ってしまったんで、もしかして
「……上薬草だけ、ってことはないんだろう?」
「ああ、うん。でもそっちは売れなくても、ゆっくり冒険者ギルドに流して貢献ポイント稼いでもいいかとは思っていたから」
「いいから……どれぐらいあるんだ、言ってみろ」
「薬草、その中でも薬効が高そうなものだけ、1500本ほど」
「せっ……!?」
「ああでも、週単位でそれに近い量ぐらいでよければ、
ちなみに講習会の話によると、慣れた
しかも採れたて新鮮なまま時間停止ともあれば、そこいらの冒険者の採ってきたものとは質が違うってもんですよね奥さん。
「……どこから聞いた?」
「えっ?」
「薬草募集の件だ。今朝、冒険者ギルドに依頼を出したところだ」
…………話が見えない。
「いや、聞いたわけじゃないよ。さっきも言った通り、偶然にも効率よく集められる方法を見つけて、大量に売り
「…………。わかった。信じよう」
それが本当に額面通りの意味かはわからなかったが、どうやら交渉成立のようだ。
実際のところ、領主かその上なのか、資材を集めるよう通達が来ているのは確かで、ポーション等もその1つらしい。
「
上薬草603本、中薬草1637本。毒消し草や痺れ草、眠り草も400〜800本ずつ納品した。
「……お前はアレだな、魔法袋の件が無かったとしても、自分で狙われても大丈夫になるまでは少し自重ってのを覚えないと危ういな」
……なんか似たような話を、1週間前にされたような気はする。
いや、貴族が云々の話もあったから、誰かに能力がバレないかについては注意するようになったとは思ってるけど。
考えなしに調子乗って上薬草とかを冒険者ギルドに持ち込んだら、それこそランクは上がったかもしれないけれど、その後を考えるとシナリオがバッドエンドに分岐していった可能性は大いにあり得る。
「一応、情報を明かす相手は選んでるつもりですけどね……」
あ、思わず敬語になってしまったので睨まれた。言ってるそばから分かってねえだろ、とでも言いたげな目線だ。
「仮にどこに分散して流したとしても、全体の異常な取引量ってので
……そこまで行くと、片っ端からヤバい噂のある貴族を潰して回るか、もう貴族のいない国でも
やるか? 遠隔アサシン稼業。【空間収納】の各成長スキルを極めればワンチャンあるんじゃないか?
「……なんか良からぬことを企んでるんじゃねえだろうな?」
「いやぁ、まさかまさか。全然話は変わるけど、この世界で一番強い毒って魔物のドロップ品なの?」
「いや全然変わってねえ! 暗殺とか企んでんじゃねえよ!」
「やだなぁ、何の気なしに思い浮かんだ興味本位ですって」
「…………。」
とりあえず、【空間収納】を
そういや、まだ振ってない成長ポイントが結構あったよな? 今あるスキルがあまりに優秀すぎて、必要に駆られなくて全然忘れてた。
「それじゃ、一旦買取はキャンセルってことでいい?」
「いや、あー、コイツについては仕入れ元を隠して何とかする。先にも言ったかもしれないが、国が現在ポーションなどの薬品を買い占めていて、流通にも領内の備蓄にも回す必要があるからな」
まあ、容易に何度もやれる手立てではないってことか。でも、せっかく見つけた効率いい収穫場所となると勿体無いよなー。
とはいえ、貯めておいたところで単体で食うには苦そうだよな、あの薬草って。某RPGのように生で使うのは辛いものがある。
あれ、そうか。生じゃなくてポーション化ってできないもんかね?
いずれ銭投げジョブとして生きるなら、湯水のようにポーション投げるヒーラーってのもあり得るか。
「ちなみに、ポーション作成ってのは何か特別な能力や資格が必要だったりするのか?」
「別に
うわぁ、学園とかも危険なワードだよな……俺やっちゃいましたで貴族の息子に目をつけられたり、頭のキレる腹黒王子様やらに囲われそうになる、なんてのはド定番すぎる。
「ほ、本とかは無いのかな? ほら、学園で座学とかをするなら、教科書とか作られてそうなもんだけど」
「まあ、あまり流通するものではないだろうが、手に入らないことはないな。興味があるのか?」
「ああ、うん。流通させるのが問題なら、個人的な消耗品として戦闘
「うん? まあよくわからんが、1週間ほど貰えれば何とかしよう」
うん、なんか弟子入りとかも面倒そうだし、学園も避けたいから、本での自習が出来れば助かるな。
あとは設備を整えつつ、採集を続けてポーションが量産できれば、銭投げヒーラーとしていけそうだ。
「とにかく、薬草については助かった。領主からも、この時期に無理は承知でどうにか仕入れられないかと相談があった話でな」
きっかけはギルドランク上げの薬草採取だったけど、結果として何か役に立てたって話ならよかったかな。
あれ、そういえば。
「魔力用のポーションの素材ってどうなんだ? 川の辺りの採集では見当たらなかったんだが」
「魔力草か……あれは
薬草とは違って
ただ、買取はかなり良い値段なので、野営できる
「それこそ、魔力草のクエストを受けることは、ダンジョンでの活動に必須な『魔法袋』を手に入れるための代名詞でな。『魔法袋を買いに行ってくる』ってな」
なるほど、魔力草もなかなか儲かりそうだな。
「ちなみに、どんな見た目なの?」
「ちょうど薬草を回収する魔法袋に入ってるから見せてやろう。とは言っても、薬草の色が黄色になったもの、って感じの見た目だけどな。ちょっと待ってろ」
部屋を出て行ったかと思うと、すぐに背負い鞄ほどの大きさの袋を持って戻ってきた。
「こいつだな。学園でのポーション研究によると、薬草が陽の光で育つのに対して、こいつが育つ場所は魔素がその栄養の代わりになるから、緑の成分が抜けてしまう傾向にあるんじゃないかって話だ」
あー、葉緑素だ光合成だって感じの話かな。高校では選択で物理取ったから、生物は中学でやったっきりなんだよな。
確かに形状は薬草にしか見えないが、比較すると緑が抜けて黄色っぽくなっている。
もやしとかと同様に、日光がなくても熱があれば育つとか、そんな感じだろうか。
必要な魔素溜まりか何かで魔素が濃い場所だとか、色々と条件はありそうだ。
こいつも良さそうな繁殖場所が見つかると美味しそうだな、なんて思いながら、契約成立した薬草や毒消し草を取り出していく。
痺れ草や眠り草、毒草なんかも仕入れたいとのことだったので、冒険者ギルド納品用の通常品質を残して提供した。
「こいつらは鑑定に回した後、精算してお前のギルドカードの口座に入れておく。ただ、一気に入れると金の流れを辿られる恐れがあるから、帳簿上の名目をそれらしくして分割して入れることになる。そこは承知しておいてほしい」
「わかった、それでかまわないよ」
ついでに、商談したと
「……あまりこの仕入れはお前にとっても危ういから使わないようにしたいが、背に腹は変えられない場合は相談することがあるかもしれん。その場合は、宿の伝言で来てもらう際に話を聞いてほしい」
「了解。一応、いつでも提供できる量ぐらいは確保しておくよ」
まあ、自分で使う用もあるだろうから、しばらくはあの
「何でもないように言ってくれる……まあいい、それじゃポーション関連の本が届いたら宿に連絡を入れる。代金は口座から引き落とせるから、今度は窓口に来てもらうだけで済むようにしておこう。世話をかけたな」
そう言って
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