第14話 格納門

【格納門増加】──格納門が増やせる成長スキル。


これは空間収納に2つの格納門ができることに他ならない。


言い方を変えると、から見れば空間収納に繋がる穴が位置の違いはあるにしても2つあるだけでしかない。


一方、空間収納のからすると、外の空間に繋がる穴が2つあることになる。これも当たり前の話。


では、空間収納の中で2つの穴がごく近くにある時、穴から・・・穴に・・向かって・・・・手を・・伸ばしたら・・・・・どう・・なるか・・・


「ファルコさん、これから見ることは、出来れば内緒にしてください」


「え?」


「いきますよ」


俺は【空間収納】の門を開いて、手を入れた。


若干、息を飲む音がしたが、それは俺の腕が途中から切断されたように消えてしまったからだろう。


「声を立てないでくださいね」


俺は後ろにいるシーフ職ファルコの肩をトントンと叩いた。


「…………ッ!?」


そして、シーフ職ファルコが振り向いた先には……俺の消失した腕から先が、暗闇から伸びていた。


◇◆◇


どうやら、【格納門移動】の『移動』の対象となるのは、【空間収納】に接続する外側の門・・・・だけではなく、暗闇となっている収納の空間内から外に向かう内側の門・・・・も操作できるようだ。


1つしか使えなかった今までは、思い浮かべたアイテムの近くに自動的に格納門が配置されることで、外からアイテムに手の届く位置関係になっていた。


しかし、【格納門移動】と【格納門増加】の組み合わせによって、内側の門の位置というものに意味が出来たわけだ。


すなわち、内側の2つの穴を操作して限りなく近づければ、【空間収納】に接続した外側の穴と穴を繋げる・・・ことができてしまう。


先ほどやったイタズラは、シーフ職ファルコの背中側に空間を接続して肩を叩くというものだったわけだ。


そして、これを応用すれば……。


「……どうやら、2人はまだ無事なようです」


目の前に開けた門から繋げたもう一つの門を、野盗の潜むという洞窟の中へと移動させることにより……視界だけを潜入させることが可能になり、中に入ることなく2人が捕らえられている場所を発見することができるわけだ。


シーフ職ファルコに俺たちがいる森側の索敵をしてもらいながら、洞窟の中を捜索していった。


暗い洞窟の中でほんの小さな覗き穴程度のものを、天井近くに沿わせながら奥へと進めたので、野盗たちには気付かれなかったのだろう。


2人は洞窟の中でも奥の部屋に捕えられているようだ。部屋には他にも数名の女性や子供がいることを確認している。


大人の男は1人もいないことから……まあ、恐らくはそういうことだろう。


2人の様子はといえば、縄で縛られてはいるものの特に暴行された痕跡はない。


まあ、連れてこられた以上は、何かしらの脅迫を受けた可能性はありそうだが。


洞窟の中は基本的にドアも何もなく、いくつかの通路が崩落していたようなので、恐らく『廃坑跡』ってところなのだろう。


使い古されたランタンのような魔道具が壁に点々と置かれていて、所々は点かなくなっているようだった。


「……こんな魔法がバレたら、潜入の概念が覆りやすね」


「まあ、魔法感知とかが得意な人や、そういった魔道具が必需品になりそうな気はしますね」


2人の無事が確認できて、とりあえず安心した俺は、改めて破落戸ごろつきたちの配置を探ることにした。


まずは、2人がいる捕虜部屋の前に見張りが1人。


その見張りがいる通路の奥が崩落していて、少し入口側に向かった辺りの広めの部屋で話をしているのが3人。


入口に向かう途中にも分岐先はいくつかあったが、全て崩落していた。ちなみに、それぞれの分岐には『第◯坑道』といった感じの看板が置かれている。


そして、しばらく行った入口近くにまた別の部屋があって、そこに寝ているのが3人。


外で馬を世話してるっぽいのが2人。


計10人という話だから、残り1人はもしかして外回りしているのかもしれない。


奥の部屋で話をしていた3人が、恐らくブロンズ実質Bランクと伝令役なんだろう。確かになんか偉そうなのが1人わめいていた。


一通り配置は確認したので、ざっとシーフ職ファルコに伝えておく。


「……少し、様子を探っておきやしょうか。3人の話してる内容って聞きとれやすかい?」


「やってみます」


なるべく穴を小さくして近付き、3人の囲むボロいテーブルの裏で、再度覗き穴ほどに展開する。


「だから、何故アイツらが戻って来ないのかと聞いておるのだ!」


偉そうなのこの声は、言うまでもなく伝令役だろう。ダンッとテーブルを叩く音がする。


「商隊か何かを襲った時にヘマをして捕まった可能性はありますが、街まで誰かを探りに向かわせなければ詳細は分かりません」


低めの声。丁寧語貴族語を使うのは、リーダー格っぽいガタイのいい男ナイスガイだ。


「クッ……あのガキを殺ったのが、こうも響くとは。他に街を探れそうな奴はおらんのか」


あのガキを・・・・・殺った・・・街を・・探れそう・・・・な奴・・……なるほど、ね。


「いやあ、こっちの冒険者証が無いと、まず目ェつけられますよ。アイツはまだガキだったんで金持たせて新規登録ってのが通ったでしょうけど、俺らのようなのが冒険者証も無しでは、最悪入口でハネられますからねぇ」


伝令役に軽口をたたくのは、飄々ひょうひょうとした雰囲気をしていた剣士だろう。


「……また商隊を襲って成りすませば、潜入することも可能かもしれません。ただ現在、交易路の方は警戒されてしまって、複数の商体が連なって護衛を雇うようになっており、襲撃は容易ではないでしょう」


「また、あの森の道を通る平和ボケでも現れたら別でしょうけどねぇ。まあ、あんなのはごくごく稀でしょうからね」


ここでスッと代替案を出してくるのは、頭がキレるなこの人。確かに商人に成りすませば怪しまれることなく入れるかもしれない。


「ぐぬぬ…………いや、しかし潜入するにはそれしか無さそうだ。もういい、あのバカどもがそこいらで迷ってるかもしれんから、森の中を探せ。明日の昼まで見つからんようなら、6の鐘午後4時辺りからは商隊を狙い、脇道に引き込んでから始末しろ」


「……わかりました」


冒険者と見られる3人は離れていったところで、偉そうにしていた恐らく伝令役が、壁際に置かれた木箱から酒瓶を取り出してあおり、椅子にふんぞり返る。


「チッ……使えん奴らめ」


うん、なるほど案外ガタガタだな。こんなのに振り回されてるのはいっそ哀れではあるけど、ラビットさんの件にも関わってるようだから同情する気も起きないが。


こいつ伝令は既にどうでもいいだろう。さっきの2人が実質的にこの野盗のコアメンバーだろうから、あっちを追うことにしよう。


2人は入口近くの部屋に入っていき、先ほど言っていた商隊の襲撃のための準備に入るようだ。


「だーから何に使えるか分からないけど荷車と死体ごと回収しとけって言ったのによ。あの貴族かぶれが……」


「今更言ったって遅いだろう。荷車をここまで運び込むのは目立つし、森の中を通すのは時間がかかる上、遺体だけだとしても漏れる体液を辿られる可能性もあって、あの時は馬だけでいいと判断したんだ」


「そういや……まだあの荷車は放置されてんじゃねえか? 誰もこんな森を通りゃしねえから、回収にも来てねえだろ」


「……残ってたら儲けものだがな。商隊なんて襲わなくても、徒歩の商人でも襲って身分証を回収すれば、街に入りやすくはなるだろうな」


「しゃーねえな……見に行ってくるか」


なんかこの手慣れてる感じ……本当にあるのか、雇われ山賊。


悪徳領主が山賊に遣いを出して大金で雇い、敵対する他の領主へと嫌がらせする的なやつ。


でも、それにしてはこのナイスガイ、教養ありそうなんだよな。顔もいいし。元貴族で廃嫡とかそういう?


それはさておき、主要なメンバーがバラけて動くとなれば、これはチャンスだ。


シーフ職ファルコに今の話を共有して、1つ思いついたことを提案してみた。


「ファルコさん、これから1人が洞窟から離れて森に入るようなんですが、この潜入方法の応用で遠くの相手を麻痺させる方法があります。俺は見つからないように、ここから一切動かないですから、ファルコさんは追って無力化する、というのはどうでしょうか?」


本来は、落とし穴からの全員を無力化する目的で持ってきた睡眠薬や麻痺毒などの準備だったが、格納門をこんな使い方ができるとなれば、かなり強力な武器になると確信した。


……正直なところ、これは最初に定めていたルール『敵への攻撃は想定しない』に反しているので、通らないよなー、とは思っていた。


しかし、しばらく考え込んだ後にシーフ職ファルコから返ってきたのは、思いがけない言葉だった。


「……危険を冒すわけでもなく、聞いた限りでは上手くいく算段が高そうでさぁね。しかも万が一バレても挽回が全然効くと」


こちらの提案に、かなり前向きな感触だった。しかし、かなり悩んでいる様子ではある。


「わかりやした、まずはあっしファルコを追うようにその……覗き穴? でついてきてくだせえ。ここから十分に離れて捕えられるタイミングになったら、後ろ手に撃つ合図を送りやす。それを見て、やってみてくだせえ」


「分かりました。……出てくるようです……!」


先ほどの部屋から、先ほどの飄々としていた剣士が出てきて、出口へと向かっていった。

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