第13話 新スキル解放

あれ、そういやインゴット積んでた時も1つ上がったから、もうLv.10なのか。


というか、レベル到達ボーナスみたいなのがあるのか。


空間収納 Lv.10

成長ポイント:26

・容量拡大 Lv.3

・時間経過 Lv.3

・距離延長 Lv.3

・空間切削 Lv.3

・格納門増加 Lv.0

・格納門移動 Lv.0


来た! 格納門系の解放来た!


これで勝つ……勝つるのか?


グレーアウトされた文字列が白文字に変わり、ポイントが触れるようになっていた。


これがLv.9で解放されたのかLv.10で解放されたのかは分からないが、まあそんなことよりもだ。


結局のところ、この新スキルの用途が字面からは未だ読み取れなかった。


よく分からないが、とりあえず1ずつ振って解放してみる。


スキルポイント:24

・格納門増加 Lv.1

・格納門移動 Lv.1


解放したことで、また自動的に記憶に刻まれた性能を確認する。


【格納門増加】は、門が2つ出せるようになったらしい。


確かに試しに土を出す口を2つにしてみたら、できた。


……だから? と言われても、自分が一番問いたい。


【格納門移動】は、格納門を開けたまま移動できるようになった、らしい。


速度制限は4km/h時速4kmらしいので、早歩きぐらいだろうか。


確かに、土を出す口を移動させて満遍なく埋めていくことができるようになった。


……だから? と言われても(以下略)


うーん、まあ土作業しながら他のことが出来るようになったのは実際そうだし、門を移動できることで埋め立てしやすくはなったけど……。


ポイントをこのまま振る意味あるのか……? という疑念がどうにもついて回る。


土戻しも残りわずかとなったので片方は閉じた後、目の前に出して移動性能を確かめていた時だ。


「……ん?」


妙なものが見えた。


格納門の真っ暗闇の中に、地面から光が差している。


何だあれ。前からあったか?


「すげえな、すっかり埋まっちまった」


後ろからかけられたリーダーベルトの声で、土がちょうど埋まり終わることに気づいて、あわてて土を出していた格納門を閉じた。


「ま、まあ、しばらくは地面がゆるいかもしれないけど、こんなとこ誰も入らないだろうし、そのうち雨降ったり乾いたりで誰も分からなくな…………は?」


世間話を繋ぎながら、ついでに目の前の格納門も……と思って目にした暗闇には、先ほどまであった地面の光は無くなっていた。


……なるほどなるほど?


「どうかしたか?」


「いえ……ああ、うん、こっちはこれで完了かな」


そう言いながら目の前に出していた格納門をしれっと閉じ、皆の方に振り向いた。どうやら荷物をまとめ終わってるようだ。


ちなみに、汚物やらで汚れたギザギザの木の板や柱などは、土の下で大地に帰っていただくことにしました。流石にアレは再利用する気にはならないよね。いつでも作れるし。


「それじゃ、一旦引き上げて緊急依頼だな」


「え? いや、このまま俺は森に向かおうかと……」


「やめとけ」


「うん、無理」


「流石に【土魔法】では無茶でしょうぜ」


盾職グスタフも静かに頷いている。


まあ、そう言われるとは思っていた。


「単なる野盗だったら、まあロブの腕を十分見込んだ上で考える余地はあるが……仮にも実質シルバーBランク相当まで登ってきたパーティが相手なら別だ。冒険者はあくまで冒険を経ても『死んでない奴ら』の集まりなんだ」


……言いたいことは分かる。完全にコマが足りてないのだから。


それでも、俺は『女の子が拐われている』というこの状況が、この上なく気持ち悪くて、今すぐにでもなんとかしたい。


まして、無力な村人Aではなく、こんなチートを与えられた身ならば。なんとか出来そうな光明が見えた今ならば。


どうする……俺1人では流石に死ぬ確率が高すぎる。


かといって、このパーティを説得するには難しい。彼らは『生き抜いてきた人』たちだ。無謀であることに手を出すとは思えない。


でも、せめて……そう。


ねぐらを確めるだけでも、ダメかな? 戻る時間だけでも惜しいんだ」


「……ファルコと話をしてみろ。俺は反対だ」


リーダーベルトは頭を横に振りながらも、俺の言いたいことを即座に理解はしてくれたようだ。


俺1人で行く自信があるなら、相談なんて必要もない。むしろ、範囲殲滅魔法みたいな戦略兵器級チートがあったなら、巻き込まないように追ってこなくなる言い訳を考えていた。


しかし、あえて相談してるということは、1人では不安がある。戦闘はしないなら、必要な手は……斥候ファルコだろうと。


「この人数で向かうのも無理でやすが、ロブ君を説得するのも無理でしょうぜ。この目をしてるのは、ほっといたらやらかす奴のそれだ。だったら……まあ、偵察して気が済むなら、まだマシってもんでしょう」


説得する間も無く、お手上げだと言わんばかりに言うシーフ職ファルコの言葉に、ため息をつくリーダーベルト


「決まり。私とベルトは身体強化で街に戻る。グスタフには悪いけど、ここで待機よろしく」


ああ、そうか……流石に1人で待機は申し訳ないし、かといって世紀末たちコイツらを放置するわけにもいかないか。


せめて荷車でもあれば運べる……ああ!


「あの……1つ提案なんだけど」


◇◆◇


「いいね」


「……グスタフ、途中で交代だからな」


俺が轍道に出した幌馬車の革紐を、身体強化したリーダーベルトが腰に回している。


「ヒッヒッヒッ! こいつぁしばらくいい酒の肴になりそうですぜ」


シーフ職ファルコは腹を抱えて笑っている。後部に乗り込んでいる盾職グスタフも、心なしか直視しないよう顔を背けている。


「ファルコ、テメェ代わってやってもいいんだぞ」


「いいから走る、時間ない」


なんかエルフ風クロエはノリノリで、御者席に座って先ほど拾った丈の長い草をムチ代わりに振っている。


「テメェら本当に覚えておけよ! あと、ロブ、無茶すんじゃねえぞ!」


そう言い残すと、少しでもの仕返しにとばかりに砂煙を上げて幌リーダーベルト車は走り去った。


「ひゃー、笑った笑った。……さーて、行きやしょうか、ロブ君」


「うん、よろしく」


ちらっと見たステータスオープンの時計は、午後3時前。間に合ってくれるといいが。


俺は頷いて、森へと足を進めた。


◇◆◇


シーフ職ファルコとの道中、いくつかの取り決めがあった。


シーフ職ファルコの判断に従う

・敵への攻撃は想定しない

ねぐらを見つけるまでが限界


「一度警戒されたら、籠城されたり人質をとられたりと状況が悪化するばかりか、人数不利で身動き取れなくなりやすからね……まあ、最悪囲まれても見つからない自信はありやすが、戻ってきたベルトたちとも連携はとれなくなりやす」


「……うん、了解」


下手に手を出す方が状況を悪化させるのは、確かにそうかと納得せざるをえなかった。


「そうだ、1つ情報共有なんだけど……もしかして、向こうには馬があるかもしれない」


そう、ラビット氏の馬車を引いていた馬を、そのまま野盗どもが使っている可能性はある。売る場所も無いだろうしな。


「……あまりいい情報ではありやせんね。撤退の基準を少し上げるべきでやしょう」


まあ、馬で追いかけられたらヤバいからな……流石に逃げながら穴に落とすみたいな高度な真似ができるとは思えないし。この辺りの判断は本職プロに任せたい。


シーフ職ファルコは周辺を索敵しながら、轍道から左手の森の中へと逸れて、山の方へと向かって進んでいた。


時折、人が通った足跡と思われるものを指し示しながら、ハンドサイン的なもので行き先を示してくれる。


そういえば、ここまで来る経路は記録してあるわけではない。GPSはもちろん、地図アプリすら無いしな。


それじゃ、魔法か魔道具か何かでシーフ職ファルコの位置を補足する方法でもあるのかと思ったら、どうやら違うようだ。


実はここまで来る際に山側からは見えない位置にエルフ風クロエなら気付く印をつけながら歩いてきたという。マーキングってやつか。


アレか、前世で見たアサシンのゲーム動画で出てきた、タカの目モードってやつみたいなものか。視界を切り替えると、隠された文字とかが見えるみたいな。


そんなことを頭に浮かべつつ、シーフ職ファルコの後をなるべく音をたてないように後をついていくと、おもむろに立ち止まった。


「さっきの情報……早くも役に立ちそうですぜ。馬の鳴き声が聞こえやした」


どうやらねぐらの場所は近いらしい。先ほどより、さらに慎重に森を進んでいく。


そして、しゃがむように指示され、息を潜める。


少し先から、馬の鳴き声らしきものと人の声が、森の葉の擦れる音に混じってかすかに聞こえてきた。


「ひとまず、目的は達成でやしょう。それで……何をする気なんで?」


シーフ職ファルコは確信してる感じで尋ねて来た。まあ、偵察だけならファルコだけで解決してたもんな……そりゃバレるか。


「本当は数人ずつおびき寄せて罠に落とそうかと思ってたけど……そっちはダメだから、せめて中の様子だけでも確認できたらと思って」


【空間収納】の基本性能としては、多少の距離の自由があっても、あくまで『物を取り出す』『物をしまう』が精々だった。


だから、上からモノを落とすか、穴を掘って落ちてもらうか辺りで上手いことやる他ないかと思っていた。


そう、つい先ほど発見した、本当の『格納門』の使い方を理解するまでは。

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