第12話 取り調べ

「そういや、何の依頼で来たんだ? あー……」


あー、名前も何も言ってなかった。


「ええと、ロビンソン、だよ。ロブとでも呼んで。まだ冒険者ギルドに登録したばかりのウッドランクFラン


「ロブか。こっちも名乗ってなかったな。俺は重戦士ウォーリアのベルト。んで、こいつが盾使いシールダーのグスタフ。それと……」


精霊術師エレメンタラーのクロエ」


「あっしは探索者レンジャーのファルコですぜ」


なるほど、大体は予想通りの職業って感じだ。


「それで、ロブは何の依頼で来たんだ。採集か?」


「ちょっと人を探してて。昨日この辺りで会った女子2人なんだけど、帰る途中で別れてから街に戻ってないらしいんだ。片方は皮鎧に金髪で後ろ縛りポニテ、もう片方は聖職者クレリックっぽいヒラヒラした服だったかな」


「んー、ここに来るまでには見てないが……そりゃあアイアンDランクのリナとクララんとこじゃねえか?」


「リナは昨日の朝、見慣れない同い年ぐらいの男と街を出るのを見た」


うん、オットーだったっけ。あわせて3人だとしたら可能性は高そうだ。


「実は、2人がそこの破落戸ごろつきに襲われてるのに出会でくわして、2人と俺とで気が逸れた隙に仕掛けたワナにめたんだ」


若干、ワナを作ったタイミングとか場所とかは曖昧あいまいにしておいたが、まあ流れは大筋間違っていないのでOKとする。


「それで、出来れば、そのせい……破落戸ごろつきから聞きたいことがあるんだけどさ」


◇◆◇


「……つまり、こいつらが流れ者で、この先の森に巣食ってるんじゃないかと思って来たわけか」


「そうだね、あの辺りで他にも破落戸ごろつきの報告があったそうだし、ちょうどここまでの轍道に転がってた板が女子2人に譲ったものだったから、関係がありそうだなって」


俺がここまで来た理由を一通り話したが、彼らはウッドFランと馬鹿にすることなく聞いてくれた。


一応、ラビット氏の運んだ荷物やそこから連想されるキナ臭い話には触れなかったから、どうして・・・・流れてきたかの推測については言及しなかったけど。


「戻る途中で他の破落戸ごろつきさらわれた……あり得る」


「ここじゃねえが……ついこの前、街道との合流辺りで野盗があったよな」


「あー、ありやしたね。依頼書のボード眺めてたら、ダンジョン交易路までなのにブロンズCランク? と思って、受付のヒルダに思わず聞いちまいましたよ」


結構ここ数週ぐらいで被害件数があって、商業ギルド経由で冒険者ギルドに情報が回っていたらしい。


彼らとしてもピンとくるものがあったのだろうか。後ろの盾職も頷いている。


「本当はギルドに戻って尋問する……でもまた来るのも時間が無駄。2人の件も急いだ方がいい」


「わかった。ここでやっちまおう。しかしそうなると、逃がさないようにする必要があるわけだが……穴に戻した方がいいか?」


「せめて木でも生えてりゃあ、縛りつけることもできたんですがねぇ。ここいらは草ばっかりだ」


木か。それなら建材で売れたらなんて思って加工したのがあったな。


「こんなのでいい?」


軽く縦穴を50cmほど掘って、そこに2m長の柱を挿しこんで埋めた。


「お前……魔法袋まで持ってたのか!?」


「あ、ああ、うん。コレね。あんまり低ランクで持ってるの知られるとマズいんだっけ。ナイショね?」


完全に【空間収納】から出していたけど、魔法袋から出したと思ってくれたので、それに話を合わせる。そっち空間収納がバレた方がヤバそうだ。


「【土魔法】と魔法袋とか、アイアンDランクでも余裕でやっていけそう」


「やっぱり荷物持てないと稼げねえからな……おっと、そんなことより、そいつを縛りつけてくれ」


盾職グスタフシーフ職ファルコが頷いて、後ろ手に柱を抱くようにして世紀末の手首を縄で縛った。


ちょうど胡座あぐらをかくように座らされた世紀末を確認すると、リーダーベルトがひとつ頷いて顔を上げる。


「グスタフは道で誰か来ないか念のため探ってくれ。それじゃ……クロエ」


「うん。【覚醒】」


引きずられても腕を縛られてもピクリともしなかった世紀末が、止まっていた時ザ・ワールドから解除されたように動き出し、半目で周りを見渡す。


「……あ? な、なんだこれはオイ!」


後ろ手に縛られて周りから見下ろされたら、中々に威圧的だろうな。しかも、直前の記憶は穴の中でエルフ風クロエに眠らされた魔法だろうし。


「お前ら、この辺りで商人や通行人を襲ってる奴らだそうだな」


「ああ? 何でンなこと答えなきゃなんねえんだよ」


「いいからさっさと吐け、魔法で自白させんのは時間かかるんだよ。この辺りにねぐらとかあるだろ。どこだ?」


「何わけわかんねえこと言ってんだテメェ! そんなことより縄を解けや!」


あの状況で黙秘するでもなく、よく強気に出れるなーと思いつつ、こっそりエルフ風クロエに気になったことを聞いてみた。


「あの……今言ってた、魔法で自白ってできるの?」


「可能。でも結構MPは食うから、持続が難しい」


金がかけられるならポーション使うこともあるそうだが、その分利益が減るから緊急性のある時の最終手段という位置付けらしい。


大抵は、ある程度の聞き込みをして目星をつけた核心となる質問を用意した上で、短時間で終わらせるのが多いそうだ。


あまり殴ったり蹴ったりすると、冒険者の膂力りょりょくだけに加減や相手の体調を見間違うとやり過ぎてしまい、口を聞けなくなったり死亡してしまうこともあるから、上手く吐かせるのが難しいらしい。


うーん、前世のような水責めとか痛覚責めとかは発明も持ち込まれてもいない感じなのかな。


「ちなみに、骨折とかの治療ってクロエさんいける?」


「クロエでいい。可能」


そっか。ちょうど昨日作ったやつで思いついたものがあるから、時間も無いし、やってみようか。


◇◆◇


※しばらくおまちください


◇◆◇


「……これはひどい」


「……まあ、聞けることは聞けたな」


世紀末が白目を剥いて泡を吹いて失神していた。


うん、単なる痛みとかよりも、目の前に迫る恐怖ってのを可視化した方が、口を割りやすいんだろうね。


材料はこちら。

・木の板をギザギザにしたもの

・一抱えほどの岩を適度にスライスしたもの


あとは簡単、木の板の上に正座させて、膝の上に石を乗せていけば、あっという間にちょっと膝から先が『見せられないよ!』になった世紀末の出来上がりです。


野外だから、垂れ流した汚物とかを処理するのが楽ってのがわかったよね。


そう、日本古来の拷問具、『石抱いしだき』ですね。


まあ前世のそれと違うことといえば……容易に足を回復させることができるので、『もう一度最初から』が簡単なこと。


失神した世紀末にエルフ風クロエが膝から下を【回復】させて、【放水】して汚物を軽く洗い流し、再び木の板に座らせたところで強制的に【覚醒】させる。


3周目に入ったところで、目の前で1枚目を持ち上げた瞬間に世紀末が顔中から液という液を流して洗いざらい吐いたよね。


ねぐらは森の西にある山際にある洞窟、人数は彼らを除いて10人ほど、か……。気になるのは『ギルドから受けた、ある貴族からの依頼』って話だな」


彼らと同じく、ブロンズ実質Bランクが1パーティに、アイアン実質Cランクストーン実質Dランク以下が数名。他に、伝令と司令役みたいなのが1人いる、らしい。


単なる流れ者だったと思いきや、どこかからの仕込みだったとなると……完全に俺の手には余るから、ボスギルマス辺りにぶん投げ案件だな。恐らく領主辺りとも面識あるだろうし、持っていってくれるだろう。


さて、情報も手に入ったし、あとはねぐらに向かうだけ……と思ったけど。


「……何か住まれても面倒だし、埋めておこうか」


ふと振り返った先にあった、古代遺跡発掘現場みたいに掘り返された穴を見て、収納に積まれた土を放出しておくことにした。


「……割と詰まるな、これ」


もっとドサドサーっと吐き出せるかと思いきや、穴が小さいと土が詰まって出てこなくなる。振らないと出てこない塩の瓶みたいな感じだ。


デカい門を開くと無駄にMPを食うし出す量がコントロールしにくいしで、ほぼ消費しない両腕でひと抱えほどの門を何度か閉じては開きを繰り返していたが、少し出ては止まる感じで時間がかかる。


どうするか……と思ったとこで、そういや排出するのに丁度いいのがあったことを思い出し、【距離延長】の副次効果【方向ベクトル指定】で加速するようにして流れを作ってみた。


すると、水道の蛇口のようにドバドバ土がスムーズに吐き出されていくようになった。


なるほど、これならデカい門を出すほどではなく大量の土を吐き出せそうだ。Lv.3にしておいてよかった【距離延長】。


ただ、タイミングを見誤ると溢れるので、その辺は監視してギリギリを見極める必要性がある。1つ目は危うく門まで積み上がって詰まるところだった。


そんな感じで3つ目の穴を中ほどまで埋めていた時に、あのウィンドウが表示された。


『空間収納レベルが上昇しました』


『空間収納レベルが10に達したので、成長ポイントが5pt加算されます』


『成長ポイントを割り振ってください』

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