第11話 消息不明
「……戻ってない?」
「ええ、一昨日にあの辺りのクエストを受注したパーティで該当する3人組は、フライハイだけよ。クエスト自体はまだ期限まで2日あるけど、昨日は少なくとも報告に来てないようね」
そんな答えが返ってきて、サッと血の気が引く。頭が締め付けられるように重い。
冒険者ギルドで登録して
あのカツアゲ現場からはかなり距離が離れてたし、結局は俺の足でも歩いてこれたから帰れない距離ではないと、全く心配していなかった。
恐らく
「ちなみに、その森の近くに埋めた
「あら、よく知ってるのね。それなら今朝の
世紀末辺りはそれなりに腕っぷしが良さそうだったから大丈夫かと思ったが、睡眠や暗闇など状態異常に長けた冒険者がいるので問題ないだろうとのことだった。なるほど罪人の捕獲に手慣れてる感じがする。
「わかった、情報ありがとう」
「それじゃ、最初は街の雑用か薬草採集辺りになるけど、頑張ってね」
では早速だけど
最初から気づかなければ……と若干非道なことも頭を
少なくとも、目で見て耳で聞いている存在感を、すぐに忘れることなんて出来やしない。
まあこれも偶発的なクエストってやつだ、乗りかかった船というものだろう。
しかし、確実に人手も腕も足りない。頭も足りない。
頼れる
【空間収納】スキルは、使いようによっては武器になるが……ラビット氏と同様に、戦闘に向いてない。ああ、せめて【気配察知】スキルぐらいは欲しかった。
とにかく、今やれることをやるしかない。
せめて生きてさえいれば……いや、死んでも2時間以内なら、なんとかなるかもしれない。
街を回って必要な資材を買い集めて、商業ギルドに寄る。
時刻は……11時過ぎ。森に着く頃には13時ってところだろうか。
正直、自殺行為と言われても仕方ないが……今動かないと、色々と後悔することだけは確かだ。
◇◆◇
石畳の街道から逸れて、あの森──ステラワルトに続く轍道をひたすら歩く。
途中で世紀末を回収した集団とすれ違うかなと思っていたが、遠目にもそんな集団は現れなかった。
引き上げるのに手間取ってるのかなと思いながら轍道を辿っていると、嫌な予感がするものが目に入った。
「あの木の板……だな」
革鎧の少女とクレリック風少女にタンカ代わりに渡した木の板が、少し道を逸れたところに放置されていた。表面には、いくつもの足跡がついている。
その傍らには……少し見覚えがある鎧一式が、ちょうど人の形に沿うようにして転がっていた。
『2時間経過すると遺体は神のもとに還る』
それが、この世界のルールだそうだが、未だ俺はその還る様子を目にしたことが無い。
だから……これが、見ぐるみ剥がされて鎧だけ放置されたものなのか、2時間経ったものなのかは、わからない。
ここを通った世紀末回収班の人たちは、これを見て回収していかなかったのかと思ったが、帰りに拾うつもりだったのかもしれないし、依頼がなければ捨て置くのが慣習なのかもしれない。
ん? いや違うか。
魔法袋も空間収納もなければ、一抱えもある荷物なんて厄介ごとを背負おうとは思わないか。
木の板は捨て置いてもいいかと思って、鎧一式の方を空間収納へと回収した。
そして、中に含まれていた
◇◆◇
世紀末が埋められたところが分かるよう、目印として置いた身長ほどの高さの埋められた木の枝が遠く見えてくる。
右手の草むらを伺うと、人の声が聞こえてくる。どうやら、まだ作業中のようだ。
「やっぱり長いロープでも持ってくるしかねえな……眠らせたから、この重さを持ち上げるのはしんどいぞ」
木の板を外した穴の下を覗き込みながら、数人が頭を抱えている。
ああ、やっぱり難航してるみたいだな……失敗した。依頼を出してもらうなら、縄などを持っていく必要があるなど、情報をしっかり伝えるべきだった。
どうせ3人組が遅れて到着して、詳細は話してくれるだろうと予想していたのもあって、まあいいかと思ったのが間違いだったか。
念のため、女子2人のことを見かけてないかの確認と、可能なら世紀末への聞き取りをしておきたいと思い、草むらをかき分けて声のする方へと進んだ。
「あのー」
声をかけると、作業していたリーダーっぽい人とローブを着たエルフっぽい人が振り向いた。
「……ん? おい、こんなとこで何してんだ」
リーダー風が
「冒険者か? この森の採集って……ウッドの依頼じゃまだ入れなかったよな?」
「確か。それと、最近この辺りで
あまり感情のこもってない、抑揚のない声色でエルフ風が答える。なんかローブで顔も半分隠れてるし、男子かハスキーな女子か判断つかないな。
「だよな、ちょうどこの穴にいる奴らみたいなのが出るってんで、俺ら
何この人、すごい面倒見がいいな。流石はシルバーってことか。冒険者の役割の1つは人助け、って感じで格好いいじゃない。
「ああ、いえ大丈夫で……大丈夫だ。実は落とした人たち、の情報を、ギルドに出したのが俺なんだ」
「何ぃ? ってことは、この落とし穴はお前の仕掛けたやつだってのか?」
「うん。少し土の操作には、慣れている、んだよ」
やばい、言葉遣いの件で喋りがもの凄く
「【土魔法】のギフトか……マジか?」
「ああ……うん。逃げられないように、って思ったんだけど、これじゃ連れて行きにくかったよね。ちょっと待ってて」
まあ【土魔法】ではないけどね、と内心では思いつつ、論より証拠とばかりに世紀末の落ちた穴の横方向へと、またボクセル感覚で土を【空間切削】で収納していく。
50センチの段差で一度作ったものの、流石に膝丈の高さでは持ち上げにくそうなので、ハーフブロックを挟んだ緩やかな傾斜をイメージして、階段状にしてみた。
「マジだ……凄えな」
「これは手慣れてる。いい腕」
まあ、
穴の下には運び出そうとしてた人が別にいたようで、ウォーという声がリバーブかかりながら聞こえてきた。
そんな調子で残り2箇所も……と思いきや、1つの穴では手下が眠りこけていたものの、もう1つの穴には
「ああ、そっちはさっき灯りを出して見てみたんだが、何か燃やした跡があってな。狭いとこで【火魔法】なんて使うなってことぐらい、ギルドの講習で聞いただろうに……」
……なるほど、酸欠か。不完全燃焼した一酸化炭素中毒なのかもわからないけど。
【火魔法】がどんな性質かは知らないが、普通に酸素を使った燃焼を発生させるのは確かなようだ。
「へー、前にダンジョンの小部屋で【火魔法】のスクロール使おうとしたの誰?」
「ちょッ、お前それ何年前の話だよッ!」
仲の良い賑やかなパーティだ。ムードメーカーで面倒見がいい戦士職と、ツッコミ役で冷静な魔法使い。
ちょうど穴から世紀末を
「よう、助かりやした。あのままロープ取りに戻るまでこんな
シーフ職が気さくに声をかけてきた。横にいる盾職は寡黙なのか頭を下げている。
「私の魔法はそんなに早く解けない」
「まあいいじゃねえか。お前らお疲れさん。って、おお! そっちもやってくれたのか。助かる!」
一応、
左右の穴にそれぞれ通路を作るのは面倒なので、ちょうどガキサイドが固まってた辺りを真ん中に、T字になる感じで掘ったけど。
今度はリーダーと盾職が降りていって、残っていたもう1人を担いで上がってきた。
シーフ職はもう一つの穴から、装備を引き取ってきたらしい。
「こいつら、ここいらの者じゃなさそうですぜ?」
そう言いながら、シーフ職が茶色がかった金属の冒険者証っぽいのを掲げた。
「この形は確か……東のルーデミリュだったか? シャデモから来たって知り合いが持っていたのに似てる気がする」
「たぶんそう、あっちの冒険者証。質はブロンズだけど、向こうの評価基準ではこっちの
なるほど、国によって評価が違うこともあるか。
ボスと話してた時に出てきた流れ者説が濃厚になったけど、しかし、それはそれで謎も残るな。
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