第10話 クエスト継続

ひとまずインゴットを積み終えて、燃料は入っていた袋ごと置き、宝石や魔石関係は専用の木箱ごと取り出して並べた。


聖銀ミスリル聖金オリハルコンについては、運び元の村に手紙を飛ばして確認するから後日ということになった。


「それで……この魔法袋、どうしたらいいでしょう?」


「……まあ、所有者が亡くなってはいるし、強盗のような事件の当事者ではないだろうから、権利はお前にある。まして本人が隠していたようだからな……他に所有権を主張する輩もいないだろう」


基本的には拾得物は拾得者に権利があり、元の権利者が所持履歴を証明できる場合は有償で返却を請求できるそうだ。


ただし、窃盗や恐喝などが判明した場合は当然無償で返却させるか弁償させることが可能だとか。


「そういえば、ラビットさんはなぜ隠してたかって、理由はあったんですかね?」


魔法袋自体は、街中の店をまわってる時に鞄型や小袋型などを冒険者が使っている姿を目にしたし、それ自体は珍しくも無いようだから、隠すほどではないように思えてしまう。


とはいえ、確かにラビット氏のそれは若干高性能すぎる気はしている。結構な量の食品が入っていたので高い時間遅延が効いてそうだし、その容量自体も膨大だった。


それに、使用者権限登録がある魔法袋っての自体が珍しい可能性は高そうだよな……。


「さあな……。そもそも、アイツラビットがこっちに引っ込んできた理由も、魔法袋を紛失したから、と言っていたんだ」


どうやらボスには、レイド戦に参加することになった戦闘中に事故ミスが重なって前線が崩壊したことで撤退が決まり、潰走かいそう中に紛失してしまった、と説明していたらしい。


「だが、こっちに戻ってくる理由があったにしろ何にしろ、あんな袋を持ってることが知れれば確実に狙われるだろうからな」


確かに、使用者登録がある魔法袋は直接奪われないにしても、脅迫や詐欺などでカタにハメてしまえば密売とかの片棒を担がせるとかでやりようはある。


デカい組織に狙われたら、拉致らちってヤク漬けや洗脳で放棄させるとか出来なくはないだろうし。


「アイツは野盗にやられちまったぐらい、奇襲には弱えんだよな。たまたま、あの森の経路は長い間安全だったから、やってこれたってだけでな。……お前自身が強くなるか、あるいは、信用がおけるパーティでも組んで『いつ何時でも守れる』ようにならない限りは、その所持を他人に公表することは避けるんだな」


「……はい」


「案外、アイツが戻ってきた理由も、ずっと黙ってた理由も……守るのに疲れちまっただけだったのかもな」


料理人兼運び屋として有名だったらしいが、その反面で、恐らく戦闘は人並み以上にはならなかったのだろう。


この世界において『ギフトが無い』ということは、そういうことなのかもしれない。


「独り身を貫くのを、色街風俗通いが止められねえとか強がってたけどな、ずっと守るモノってのを持つのを怖がって、色恋沙汰を遠ざけてたからな……お前も、迷い人やギフトと面倒なものを背負っちまってるようだが、上手いことやるんだな」


そう言って、ラビット氏に渡す予定だった運び賃だと言って、大銀貨15枚150万を渡してきた。


こんなに貰えないと返そうとしたが、


「お前の仕事が無ければ紛失してた素材だ、正当な評価に決まってるだろ。仮にお前が取り戻さなかったら、数倍の依頼料で冒険者ギルドに投げたと考えろ」


と正論で返されてしまっては、何も言えなくなってしまった。


……それじゃ、ラビット氏の遺体を丁重にとむらうのに使うことにしよう。


ん? 弔う……?


「あの、ひとつ気になったというか、この世界の常識ってやつを確認したいんですけど」


「ああ、何だ?」


「ラビット氏を……生き返らせることって出来ますか?」


まあ、流石にそれは……


「……いや、出来るぞ? ああ! そういやまだ遺体はあるんだったな」


「は?」


「遺体が消えてないようだから、恐らく死後鐘1つ2時間以内なんだろうな……。アイツは少なくともLv.20を超えてるはずだから、いくらか経験を捧げることで巻き戻すことは可能だ。やるか? というか、俺からも頼みたい」


どうやら、レベルが一定値を超えていて、死後2時間以内という条件はあるようだが、生き返らせる方法があるという。


やり方は単純で、①ダンジョンで手に入る蘇生薬か【蘇生魔法】が使える聖職者クレリックを用意して、②ダンジョンの中で蘇生を行うこと、らしい。


蘇生といっても、老衰や病死などは巻き戻したところで死を免れないようだが、遺産や家督など遺言のために使われるケースもあるらしく、【時間停止ストップ】の魔法使いが呼ばれることもあるそうだ。


なお、鐘1つ2時間経過すると遺体は神のもとに還るそうで、衣類や装備を残して消えてしまうんだという。


「そうなると……まず、俺がダンジョンに入れるようになる必要があるのと、聖職者を探す必要があると」


「あるいは蘇生薬を探すかだが……蘇生薬は、ここ最近のゴタゴタで国の買い上げもあって高騰してんだよなぁ。そもそもここ1カ月ほどは流れてきやしねえ。高位の聖職者の方は、上位ランクの冒険者たちに入ってて出払ってるそうだし」


ちなみに魔法袋を漁ってみたが、残念ながら蘇生薬は見当たらなかった。


ひとまず、聖職者と蘇生薬の方はボスの方で当たってくれるそうで、こっちはダンジョン関連を進めることになった。


ダンジョンは予想通りというかなんというか、パーティ全員がアイアンDランク以上か、ゴールドAランクのパーティによる護衛が必要らしい。


「まあ、お前の場合は情報を広げねえ方がいいからな……。ギフトのおかげで時間は止まってるようだし、とっととアイアンになってダンジョンに向かうのが妥当だろうな」


元から運び屋として登録しようと思ってはいたから、この後は冒険者ギルドに向かうとするか。


「泊まってるのはラルフんところだったか? 聖銀ミスリルとかのことがわかったら商業ギルドの名で伝言残すから、また来てくれ」


「了解で……いや、了解だ」


口調が途中からまた貴族語丁寧語になってたのを、片眉上げて指摘してきたボスに気づいて直すと、また怖い笑みを返された。


そういえばと、この幌馬車についても確認したが、『こいつもラビットの私物で借り物ではなかったはず』と、俺が貰っても問題ないことになった。


それじゃ、と幌馬車を回収したところで、何かを思い出したようにボスギルマスが話しだした。


「そういや……カイトがこっちでの名前をつけた理由ってのを聞いたことがあったんだが、お前のそれロビンソンってのも何か意味があるのか?」


「ラビットさん……元の名前カイトに含まれる文字から取ったと思ったんだが、違うのか?」


「ああ。お前らの世界じゃ家名名字があるのが普通らしいが、こっちは貴族でもない限りは名前だけってのが普通でな。ただ、冒険者になると自己紹介も込めて、名乗りの際に職業を頭につけるんだよ」


「ふーん……ん?」


「アイツの場合は運び屋ポーターだったんだが、『運び屋といったらラビットなんだよ』っていって笑ってたんだ。未だに意味が分からんのだが、お前は分かるか?」


運び屋ポーター・ラビット……!


ダジャレかよ!!


俺の名前運び屋・ロビンソンもだけど……! 完全に命名センスが同じだったよ!!


◇◆◇


さて、クエストが分岐して行き先が変わったな。この世は実にマルチエンディングだ。


あのままラビット氏を見送って、クエスト報酬に魔法袋を獲得してクエストクリアする流れもあっただろうが、今のルートの方が面白くなりそうだ。


時間は11時前。次は冒険者ギルド、そしてクエスト受注してランクを上げて、行く行くはダンジョンか。


ランク上げは、【鑑定】スキルでもあれば薬草とかで一足いっそく飛びもできるんだろうけどな……。


攻撃魔法の1つでもあれば、【空間収納】で持ち帰る量に制限が無いから、狩りつくす勢いで森に篭るってのもアリだったかもしれない。


ままならないものだけど、穴掘りトラップ辺りで狩りでもして、ギルドの評価みたいなものを稼ぐ他になさそうだよな。効率悪そうだ。


まあ、今後のことを考えても、ギルドの講習とか受けて基本の剣術とかを習得するしかないとは思う。


あるいは、魔道具とか錬金道具とかで代用できるならコスパ良いものを探して、銭投げジョブをやるのもいいかもしれない。爆弾とかな。


時間は【時間停止】のおかげでとりあえずあるし、焦っても仕方ないよな。地道に行くか。


さて、昼前だから冒険者ギルドは空いてるところだろうか。空いてるといいな。


登録はどうしようか。ほんの少しだけ【空間収納】スキルがあるけど、攻撃魔法は使えませんって申告して、MPばかりの残念ギフト持ちという扱いにでもしてもらおうか。


……そういや、クレリック、か。昨日助けたあの冒険者3人組の1人がそれっぽかったな。


昨日の今日だから、あの少年の怪我からして仕事には出てないかもしれないけど……伝言残せば話は聞けるかもしれない。


恩着せがましくしてでも、使えるものは使っていこう。

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