第159話 未発見の謎

蘇生薬だけど、お値段は金貨級数百万円だったっけ。国に買い占められてた頃は、一時期大金貨級数千万円だったらしいけど。


まあ、いざという時のために1本ぐらい持っておくのもいいのかな。


あ、そういえば……。


戦利品ドロップの分配って話してなかった気がするけど、どうする?」


「あー、そいつ蘇生薬についてはクララの戦果だ、どの道そっち持ちで構わねえよ。戦利品ドロップについては、基本的に倒したやつの権利ってことでいいんじゃねえか? 対外的には別パーティの想定だしな」


……まあ、それが分かりやすいか。20層までであれば、俺たちでもウォルウォレンでも困る相手ってのは出てこないようだし。


さて、それじゃ安全地帯セーフエリアの確認に行きますか。


◇◆◇


「お、戻ってきたな」


「うん、問題ないみたい」


いざという時に格納門転移ゲートワープが使えるということで、俺が代表として開通後の転移の実験台モルモットとなり、入口でもある冒険者ギルドの壁の中まで往復してきたところだ。


──安全地帯セーフエリアに入ったところで、台座はすぐに発見できる場所にあった。


手を置いたところ動作に問題はなく、転移部屋ショートカットへと入って全員が転移水晶へと触れて、無事開通させることができた。


そして、試しに動作確認しておこうかという話になって、使われた形跡もないので、代替手段がある俺が行くことになったわけだ。


まあ、水晶は見た目としてもアジトダンジョンのそれと完全に一致していたし、動作については疑う余地もなかったけど、念のためね。


「しかし、これ本当に誰も気づかなかったのかね?」


少なくとも、こういった『謎の装置がある小部屋』だけでも見つかっていれば、本部に報告ぐらいあってもよかった気はするんだけど。


あれか? 誰かしらが実は既に発見していて、秘匿して使おうとはしたんだけど、入口の方が瓦礫で塞がれてたから、出られずに戻ってきたとかそういう。


「どうなんだろうな……少なくともここは、単純にこの部屋自体の利用頻度が少なかっただけじゃねえか?」


まあ確かに、屍人ゾンビと戦った後、進むのを諦めて帰る人が続出だった結果、全然この安全地帯セーフエリアに入った人自体が少なかった可能性はあり得そうだ。


「7層や11層で不死アンデッドを狙うつもりだったけど、まさかあんなに臭いが凄まじいとは思わなかったわ……そんな話、情報では出てこなかったし」


リナは、クララも戦える場所で『成長レベリング』するために、クララの同僚であるシスターから情報を集めてたと聞いたけど、臭いに関しては把握してなかったのか。


「いや、俺たちも7層のを興味半分で見に行ったことがあるが、あんな臭いは記憶に無いな……まあ、7層は骸骨ホネだらけだったし、教会関係者なら屍人ゾンビでも【浄化ピュリファイ】で倒せたんじゃねえか?」


実際に行ってみないと分からないが、外であれば気になるほどのものではないのかもしれない。ボス部屋は室内だから臭いが充満していただけって可能性もあるし。


いずれにせよ、『成長レベリング』目的だったら、確かに1体だけのあのボス部屋は行かないかもなー。


浄化ピュリファイ】じゃなくても、クララの作っていたような【聖属性】ボルトであれば、日々のお勤めで聖水が作れるなら大体同じ感じで作れるんだそうだし。


【聖属性】ボルトなら屍人ゾンビは一発当てればいいだけで、むしろ骸骨スケルトンの方が骨の隙間に抜けてしまって、ボルトは当てにくそうだ。やるならヘッショHeadShot狙いか?


まあ、屍人ゾンビだったために頻度が少なかったにしても、だ。


誰かしらは台座に触れるぐらいはやっててもおかしくない気はするんだけど……。


あれか、触ってはみたけど反応しなかったとかか。


……んん? あれ、そういえば。


「ベルトたちがアジトダンジョンで5層に初めて来た時、台座が反応しなかった、ってやつあったよね?」


「あ? ……ああ、そうだったか?」


「そうだった」


「その後、スケさんが触って開けたんでやしたね」


そう、以前にアジトダンジョンでベルトたちが転移部屋ショートカットを解放しようと台座に触れた際、ベルトが触れても開かないという現象があったんだよね。


スケさんが台座に触れたら普通に開いて、中の転移水晶の方も問題なく開通させることが出来たから、そういうこともあるのかなとスルーしてしまっていたんだけど。


その時の状況と、このダンジョンで転移部屋ショートカットが未発見だったことの共通点を考えると……


「……入口の転移部屋ショートカットを開いていないと、他の層の台座が反応しない?」


……うん、そういう可能性があり得そうだなって。


確かに、ベルト達がアジトダンジョンを初めて探索する時って、入口側の転移部屋ショートカットに入らずに進んじゃってたんだよね。


もしかして、リナたちの時もそうだったのかもしれないけど、恐らくあの時は俺とスケさんで転移部屋ショートカットのことを紹介してたから、先導して開いちゃってて気付かなかったんだと思う。


仮にそう考えてみると、この先にある20層以降でも転移部屋ショートカットが見つかってなかったことの辻褄は合う。


20層にもこの層と同様に分岐した経路のひとつにボス部屋があるそうなんだけど、そちらは割と狙う人がいるらしい。


だから、もし20層にも同様に転移部屋ショートカットがあるとしても、誰かしらが台座に触れて開くようであれば既に発見されていて然るべきで、逆に未発見だとするなら誰が触れても扉は開かなかったと考えるのが自然だろう。


「とりあえず今日はここで一泊して、明日20層のボス部屋を確認だな。今は俺たちと同じくシルバーBランク以上は休んでる奴も多いから、もしかして誰も開けてねえかもな」


お、それは朗報かもしれない。


実は、この安全地帯セーフエリアがある通路の先は扉による一方通行になっていて、足元の魔法陣で開くと一定時間で閉じてしまう性質があるそうな。


20層も基本的に同じ構造なので、ボス部屋の先にある安全地帯セーフエリアは逆から入ってこれないらしい。


普段は21層に向かう際の最短距離となる通路、あるいは翌日以降に先に進むための休憩所として機能しているらしいけど、今は20層までで封鎖されているから、わざわざボスを倒して通路や安全地帯セーフエリアを解放させる利点は特に無いだろう。


まあ、宝箱狙いならあり得そうだけど……周回は楽に倒せる程度の実力がある冒険者ぐらいだよね、やるとしても。


もし開いてないんだとしたら、人がいない今のうちにボスを倒して、下手に騒がれないままに転移部屋ショートカットを開通させてしまうのはアリだろうな。


◇◆◇


「あー、開いちまってんなぁ……」


安全地帯セーフエリアで一眠りをした後、割と最短距離で次々に層を踏破していったが、ベルトに案内されて到達した20層のボス部屋だという扉は、確かに開かれていた。


こんな時期にわざわざ開通させるということは……ベルトたちと同じように、先に20層で待機しておこうと考えた冒険者が他にもいたのだろうか?


少し高い天井の広い空間となったボス部屋の中を通って、奥にある通路へと進む。


【地図表示】を確認したところ、通路には安全地帯セーフエリアがあり、10層と同様にやはり転移部屋ショートカットが併設されていた。


通路へと入り、しばらく歩いて安全地帯セーフエリアの入口が見えてきた辺りで、そこには……


「あれは……キファイブン伯爵の兵かしら?」


見覚えがある家紋をつけた兵士が、安全地帯セーフエリアの入口に立っていた。


……あー、なるほど、封鎖してる兵士の休憩所ってこと?


確かに、10層の安全地帯セーフエリアもそうだったけど、出たらすぐに階段のある部屋だったんだよね。


だから、20層の出口で門番となっている兵士たちが最寄りで休憩する場所としては、最適だったというわけか。一方通行の扉も、交代時とかに中から開けてもらえばいいだろうし。


なるほど……しかし、どうしようか。

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