運び屋ロブと授業とダンジョンと
第211話 注意点
「……あれ、俺が最後?」
週が明けて橙曜日、冒険者ギルド前に着いたところ、既に5人の姿があった。
「パーティ申請があると思って早く来たのよ。でも私たちも朝食を食べてさっき来たばかりだから、そんなに待ってたわけじゃないわ」
朝食も、皆で部屋に集まって食べてきたとのこと。
既にドロテーアさんも朝晩の食事会には加わっているようで、早くも打ち解けてくれているならよかった。
最近の朝食や夕食は、ヴァル氏の新たに作ってもらった
何せ、1日経過するのに13年ぐらいかかるからね、余っても腐らせる心配が無い。
なぜ前世の冷蔵庫に、こんな便利な魔法袋が実装されていなかったのか。
「それじゃ、早速──」
「あらあら、そこにいるのはロブさんたちじゃありませんか」
いざ、冒険者ギルドへ……と思ったところで、何か聞き覚えがある
「おはようございます、そしてお久しぶりになりますね」
「ええ、無事に入学してくれて嬉しいわ。それに…………留学生のお世話もしてくれているようで、非常に助かるわ」
そう言って、学園長は後ろにいるヌールちゃんの方へ笑顔を向けている。
そういや、入学式の時には教師やら挨拶する生徒やらの席の中にヌールちゃんもいたし、学園長として留学生に挨拶もしただろうしで、面識はあるのも当然か。
「この時間にそんな格好ってことは……単位取得で空いた時間で、早速ダンジョン探索に向かうのかしら?」
「ええ、ご明察です。学業を
「ウフフ、別にかまわないわよ。むしろ、探索による『
そう言って、学園長は雰囲気だけ優雅に立ち去っていった。
「さて、それじゃ行こうか」
気を取り直して、冒険者ギルドへと入るべく皆へ声をかけた──のだけど、他の4人が扉へ向かおうとする中で、1人だけ立ち止まったまま学園長のことを凝視している姿があった。
「ヌールちゃん?」
「…………あっ、ゴメン! なんでもないや、行こう行こう!」
そう言うと、完全に誤魔化した感じの笑顔で、ヌールちゃんは冒険者ギルドへと走って行った。
……何だったんだ? 今の。
◇◆◇
「……では、パーティ名はシュトラウスで登録しておきます。このダンジョンの説明は既に
なんか事務仕事できる女子って感じの窓口職員による作業により、ほんの一瞬で手続きは完了してしまった。
パーティについては、区別のためにも別名義で登録した。
まあ、
パーティ編成は別に女神像でも出来るからね、そんなに惜しむものでもないというか。
右手の門というのが、職員の手元操作により開かれているので、そこを通って中へと入ることになるようだ。
ちなみにギルドの中はと言えば、閑散としている……というか、職員を除いては誰もいない。
本来の冒険者ギルドであれば、この時間は依頼書の奪い合いしている頃なんだけど。
……まあ、本来は授業の初日だし、大半の生徒は貴族で金に困ってないだろうしで、授業を整理してまで時間を空けて探索に出るような生徒は稀なのかもしれない。
「おう。随分と朝早ぇな、お前ら」
聞き覚えある声が、今度は上から降ってきた。愚痴マスだ。
「ええ、早速潜らせてもらおうかと」
「仕事熱心なことはいいことだ。早いとこ稼げるように俺も祈っておくぜ」
2階の柵の上から覗き込む愚痴マスの顔は、天井へと据えられた【灯火】の魔道具による逆光の影響なのか、悪人度が5割増しに見えた。
「ああ、一昨日も
ああ、
室内演習場での
「とは言っても、もう10年も出現してないんでしょう?」
「念のためだよ。冒険者はあくまで冒険を経ても『死んでない奴ら』の集まりなんだからな。逃げる時は逃げて情報を持って帰ってこい。それじゃあな」
そう言って、愚痴マスは首を引っ込めてしまった。
『死んでない奴ら』か……そういや、同じことをベルトたちも言っていた気がするな。有名な言葉なんだろうか。
「ギルドマスターとはお知り合いなんですか?」
改めて通路をダンジョンへと向かって歩く途中、ドロテーアさんから訊ねられた。
「ヌールちゃんの手続きの時に窓口でやってくれたのが、たまたまギルドマスターだったんだよ」
まあ、嘘はついてないな。ギルマス部屋まで連れ込まれたけど。
「先ほどギルドマスターが言っていた『気をつけておけ』ってのはやはり……
すぐ後ろを歩いていたブート嬢から続いて訊かれる。
そう、昨日の
前世のゲームの
単に部屋の扉を開けたら魔物だらけという場合もあれば、罠によって
『ローグライク』と言うと、
それらのゲームでは、
その部屋は、不自然なほどに罠も満載だったりするので、ダンジョンの本気の殺意を見せつけられる展開の1つだろう。
しかし、それが現実にあるとなると、確かに愚痴マスの言っていた通り『逃げる』のも1つの選択として正しいように思う。
「まあ、次の発生が今日である可能性もあれば、もっと深い層に発生して誰も辿り着けていないだけの可能性もあるわけで、俺たちに出来ることは『頭に入れておく』ぐらいなんじゃないかな」
『
慎重になるべきなのは、もっと深い層に入ってからでいいと思う。それこそ、王立騎士団と顔を合わせるような深さとかね。
……と、そんな話をしていた辺りで、何度となく見てきた『あの階段』へと差し掛かっていた。
毎度のことながら、寸分違わずとはこのことみたいな既視感ある階段を降りていくと、出口が見えてくる。
学園ダンジョンは基本的に洞窟型となっていて、アジトダンジョンの坑道を模した蟻の巣みたいな分岐というよりも、計画的に作られた迷路のように十字路やT字路が頻出するような形状のようだ。
一部は部屋のようになっているものの、そこまで広くはない。この層には3カ所ほどあるようだ。
……いや、【
まあ、試しに歩いてみて距離感を確かめつつ、パーティでの訓練てやつを試していくことにしようか。
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