第210話 お疲れ様会

「さあ、飲み物はみんな取ったみたいね。それじゃ、みんな試験期間お疲れ様でしたということで、乾杯!」


なんかリナの音頭で乾杯が行われて、お疲れ様会が始まってしまった。


いや、まあ全然いいんだけど。


ブート嬢もドロテーアさんも、とりあえず目の前にある料理を取って食べ始め、歓声を上げている。


一応、また『静音結界』は起動しておいたので、煩くしても外に漏れることは無いはずだ。


「で、何でこんな強引な流れに?」


ブート嬢については、出会いが偶発的でこちらに恩を感じている風だったのもあって、ある程度は警戒しなくてもいいかと考えていた。


一方、ドロテーアさんは向こうから声をかけてきたことや、リナの家と付き合いが出来たとはいえ高位貴族ともあって、ある程度は慎重さが必要かと思い、様子を見るべきだろうと。


この判断はそこまで間違ってはない気がするんだけど、そこをあえて誘い込んでしまうほどの理由があるのだろうか? 信用できる情報を掴んだとか、そういう。


「別に、彼女を信用したからでも、他に理由があるわけでも無いわよ。強いて言うなら『勘』ってやつかしら」


まじかよ。博打が過ぎるだろ。


「まあ、最低限の情報として悪い噂が無い侯爵家で、領民の評判も悪くないって辺りが把握できているのはあるけど……そんな細かい理由より、どちらかと言うと『諦め』に近いんでしょうね」


…………『諦め』?


「お節介か、あるいはうっかりか……あんたのことだし、いずれ何かでバレて秘密を明かすことになるんだから、誘うことに決めた時点で諦めなさいよ」


…………。


いや、そうかもしれないし、そうなる可能性は結構あるとも思うけど、もうちょっとこう、何か気遣いってものはないんでしょうかね。


ほら、こっちもなるべく大人しくしていく所存なんですよ? なるべくだけど。


「そんな隠し通すなんて器用な選択・・がいつも出来ていたなら、無謀を通り越して自殺行為みたいな馬鹿はしてこなかったでしょ」


ええと……まあ、厄介ごとを見かけたり知ったりした際に、割と『どうにでもなーれ』と見切り発車でやってきたことは、少しょ、いや、そこそ…………多々ありますけども。


でも、見て見ぬふりをして後味悪い思いをするのと、多少の危険性リスクはあってもやれることをやるのとでは、後者の方がマシかなって。


もちろん、万が一の時もなるべく自分だけの被害で済むことがある程度前提で、他の人への被害が大きい場合は躊躇ためらってしまうかもわからないけど。


「……なんか『自重』って言葉を履き違えてるみたいだけど、別に『遠慮』しろって言ってんじゃないのよ。やるならやるで、ひと言周りに相談しろって言ってんの。今回の件も、相手がヤバかったら相談された時点で私が止めに入ってたわ。例えばアルベルト雅メンだったら確実に断るよう言ってたわね」


……まあ、確かに何か目的があって近づいてきてる感はあるよね、あの人は。


それじゃ、リナはある程度相談した時点で、パーティに誘って問題ないと思ってくれてはいたわけか。


「パーティの今後も視野に入れて誘ってくれたのなら、私は否やは無いわ。……まあ、普通のパーティとは違って秘密がある分だけ、軽々に解散するわけにはいかないけど、このパーティを離れないだけの理由を作ればいい話よ」


そう言ってリナは、視線を長机テーブルの上へと向けた。


……まあ、確かにここでしか食べられない料理ってのは、ひとつの理由にはなるかもしれない。


「正直なところ、ラビットさん頼りってのが心許ないけど……今後の探索で飛び抜けた成績を上げるとか、他より安定した戦力で深く潜れるから『成長レベリング』にいいとか、そういった『売り』を増やしていくしかないでしょうね」


なんかこう……会社経営みたいな話になってきたな。弊社の標語スローガンは『ナメられたら殺す!』みたいなそういう。


実際、俺のポーションとクララの【聖属性】で安全性については高い方だと思うし、戦力としても勇者様スケさん仕込みのリナがいるし。


クララも不死アンデッド特効持ちで、俺はえーと……まあ、遠隔でぼちぼち頑張るってことで。


盾職のブート嬢と斥候のドロテーアさんについては、潜りながら立ち回りとかを確認する必要があるけど、パーティとしてはかなり整ったんじゃないだろうか。


「いずれにせよ、何かするのに遠慮なんて必要ないわ。パーティのリーダー・・・・として貴族の標的ターゲットになるぐらいのことはしてあげるから、思う通りにやんなさいよ。なるべくは、事前の相談してくれると、心構えが出来て助かるけど。……さ、私たちも無くなる前に食べましょ」


……フィファウデで勇者様御一行へーデンパーティとして登録する時、リナから言い出したんだよね。


たしか、『書類とか貴族対応とかのために、私がリーダーをやった方が都合がいい』だったか、そんな理由で。


まあ、別にやってくれるなら、ぐらいの気持ちでお任せしたんだけど……そういうつもりだったのか。


周りの厄介事を引き受けて解決してあげるだなんて、もしかして本当に勇者様・・・としての自覚でもついてきたのだろうか。


「……何見てんのよ、さっさと食べて今後の活動の説明に入るんだから、早くしなさいよ」


……はいはい、リーダーのご命令とあらば従いますとも。


俺は、あまり人気の出てなさそうなシーザーサラダの器へと手を伸ばした。


美味しいんだけどね、ベーコンも香りがいいし、クルトンとかもカリッカリだし……でもなんか、この女子たちみんな肉食系らしくって。


◇◆◇


「……それじゃまとめると、橙曜日と緑曜日を主な活動日として、深い階層で泊まり込みになる場合は白曜日から橙曜日の2日間を使うことになるわね」


改めてにはなるが、時間割りの履修調整を行なって週2日を空けてもらい、その日に探索を行うという話で決定した。


2の鐘朝8時までに冒険者ギルド前集合、集まり次第で出発する。


当面の目標はパーティとしての立ち回りを確認しつつ、階層の地図作成マッピングになるだろうか。


……まあ、端まで1カ月以上かかるような階層でもない限りは、入った瞬間に【地図マッピング】が完成するんだけど。


とはいえ、もちろん模写するのに時間はかかるから、歩き回りながら作っていけばいいだろうか。


「来週はどうする? 一応、白曜日を初回にしようかって言ってたけど、既に来週のは1日空いてるよな?」


そう、よくよく考えてみると週明けから変更後の時間割りは適用されるから、空けた2日が暇になってしまうことに気がついたのだ。


「そういえばそうね……じゃあせっかくだし、前倒しましょうか。みんなもそれでいいかしら?」


さんせーい、とばかりに皆の同意が取れたので、初回は橙曜日へと変更になった。


ヌールちゃんの『審査』についても昨日の時点で冒険者ギルドから連絡があり、無事に確認がとれたとのこと。


これで、ヌールちゃんもルーデミリュと同様の条件付きではあるけど、探索に正規で入れる形だ。


ちなみに、今日の2限目から行われた探索実習の説明会ガイダンスで、授業外での探索についても諸々の説明があったんだよね。


それによると、やはり基本的には冒険者ギルドの規則ルールが適用されるため、ギルドランクとしてアイアンDランク以上じゃなければ入場できないとのこと。


ただし、学園ダンジョンの昨年度までの運用状況を鑑みて、10層までなら危険性は低いだろうとのことで、探索実習の教員または『成績優秀者』の学生を同行させれば、資格を満たさなくても10層まで探索してよい、となったそうな。


まあ、昨年までは割と自由フリーダムな運用がされていたようだから、今年から突然に不可ともなれば不満も出るだろうしということで、折衷案といったところなのだろう。


授業外での探索をしたい意欲的なパーティであれば、1人ぐらいは『成績優秀者』もいるんだろうしね。


「それじゃ、せっかくだしこのパーティが持つ秘密・・については現地ダンジョンで確認してもらおうかしら。ここで話すよりも見てもらった方がいいわ」


まあ、確かにダンジョン内の方が気兼ねなくやれそうではあるかな。MPの消耗も少ないし。


「パーティ申請は、橙曜日にすればいいかしらね。あと気になっていることは何かある?」


「あの、ドロテーアさん、『女神像の加護』の方はお済みですか? ヌールさんとブートさんは明日教会に行って済ませる予定なのですが、もしよろしければ」


「お気遣いありがとうございます! ただ、幸い招待を受けて既に済ませているので、大丈夫です!」


……高位貴族の場合、護衛やら何やらと調整が大変になるので、教会側から年明け頃にまだ更新アプデしてない貴族向けの招待を行ったんだそうな。


ちょうどその頃に王都でも『女神像の加護』の効果が知られるようになった辺りだったとのことで、ヘイヴァンボ侯爵家でもその招待を受けることにしたんだとか。


「それじゃ、明日中に時間割りを修正した履修届を出してもらうのと、探索の準備を忘れないように頼むわね」


履修届はこの後出してしまう予定だし、準備については俺の【空間収納】に大体入れっぱなしだから…………あ。


「リナ、クララ、武器とか装備はどうする? 装備だけでも渡しておく?」


なんだかんだ、久々の探索ともあって忘れてたけど、リナとクララの装備一式は俺が預かりっぱなしだった。


「そうね……装備だけ着ていくから、出してもらっていい?」


「私のローブもお願いします」


2人が授業に持ち込んでいる手提げの学生鞄は、ラビット氏の解体したサーペントの胃袋を使ってヴァル氏謹製の魔法袋になっているので、全身一式でも片手剣でも余裕で入るのだ。


「えっ……魔法袋?」


「へー、それも魔法袋になってるんだ! すごい!」


「魔法袋といえばボロ切れのような見た目だとばかり思っていたが……そのような革製のものもあるのだな」


リナとクララが学生鞄に特殊なスパイダー糸で織られたブレザー風とローブの戦闘服を仕舞い込むのを見て、ドロテーアさん、ヌールちゃん、ブート嬢が驚きを見せる。


「……まあ、これも私たちのパーティが持つ秘密の1つかしらね? ロブ」


まあ、至る所で快適性を追求した結果、ちょっとだけ常識から乖離してるところは各所にあったりするよね。


長机テーブルに隠して【空間収納】を使ったことには、気づかれなかったようだけど。

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