第163話 改装計画
「そもそも、あの壁の中にどうやって入ったのかしら。仮にどこかから掘り進んできたとしても、よほどの確信がなければ実行に移せるものじゃないわ。もしかしてあなた……」
「おっとギルマス、スキルの詮索ってのはいただけねえな。まして昇格試験も受けてねえ
マチルダ女史からスキルまわりについて突っ込まれそうになったところを、ベルトがフォローしてくれた。
「…………そうね、失礼したわ」
「ま、最近は
「はぁ……もう今年は十分よ、何も起こさないでほしいわね」
「とりあえず、
実際のところ、この世界にどんなスキルが存在しているのかは分からないけど、それはこちらの世界の人にとっても同じだろうからね。
ましてベルトたちですら、【両手剣】や【精霊魔法】といった自身のスキルに知らない使い方があったぐらいで、今後しばらくはスキルの研究や周知が進む期間になっていくのだろう。
きっと何かしら、似たスキルや近しいことが出来るスキルの組み合わせなんかも出てくるんじゃないかと、期待している。
何にせよ、ここはひとまずマチルダ女史には煙に巻かれておいてもらおう。
「……まあいいわ。本当は壁の中とはいえ施設を破壊するなんて、領兵に突き出されても文句は言えない行為だけど、
……まあ、いい感じに崩落させずに通路が作れるだけの方法があったことに感謝、ではあるかな。
瓦礫の状況次第ではあるけど、2階の酒場が崩落して怪我人が出ていたら、領兵の詰所まで任意同行ぐらいはさせられていたかもしれないし。
「はぁ……まったく、頭が痛いわ。流石に目の前にあんな
そうなんだよね……今後の運営を考えると大変そうだ。
急いで体制を整えないと冒険者たちから
結局のところ、この冒険者ギルドが穴の底にあった
「入口を2つに増やして運用するのは難しいから、待ち合い広場を削って通路でも作るしかないかしら……」
水晶の処理の都合とかだろうか、どうやら入口は1つにしなければならない様子。
うーん、なんか配信者のしていた解説しか聞いたことがないけど、同人誌即売会の列形成みたいなことになりそうだな。
別の場所に作った列から、
最後尾はこちらじゃありません札でも作っておくか?
でも、入口を1つにしようと考えると、いっそ階段の上とか下とかに作ってしまった方が合理的だよなぁ。
ただ、そうなるとギルドの機能である窓口とかはその手前に持ってくる必要があるわけで、そんなのを通路のような狭い場所に詰め込むのは限度があるし……。
……【地図表示】を開いて、試しにどれぐらいの場所が取れるか確認してみるか。
現在いる会議室は、ギルドの窓口がある西側から階段で上がった場所で、穴の底を1階とするのであれば2階に当たる。
会議室の他には、資料室やギルドマスターの部屋が長屋のように円周に沿って壁の中に作られている。
さて、施設に使えそうな面積を確認してみるが……やはり空いている場所は通路ぐらいしか無く、その先は酒場で既に使われてしまっている。
…………いや、待てよ?
この酒場の場所、移転してもらえばギルド機能を丸ごと持ってこれるか?
移転先は……そうね、
あれだ、JRの中に入ったところに店があるみたいな感じ。駅弁屋とかお土産屋とかね。中学時代の修学旅行で通った東京駅で、ちらっと見かけたぐらいだけど。
問題は、店員さんとか料理人さんとかを、階段より先──ダンジョンとして管理されている中に入らせることになるから、
まあ、そこはJRの売店で働く人と同様に、そういった入場パスを作ればいいんじゃないかって。
正直なところ
最悪、冒険者を雇って臨時の酒場を運営するってやり方も……いや、店の品物を飲まれかねないから危険か?
そうなると、だ。
階段が北側で、現在の酒場が東側にあるから、ギルド窓口はそのまま酒場のカウンターを流用して、簡易的な待ち合わせ場所は壁の上にある酒場の座席の辺りを使えばいいか。
会議室や資料室との接続は、同じ2階だから南側から回ってもらって──
「……お前、何書いてんだ?」
【地図表示】から地図を模写しつつ思い浮かんだ
「ああ、うん。冒険者ギルドの入口が2つになって困るなら、いっそのこと階段の上にダンジョン入口を作ってしまって、酒場の場所にギルド機能を入れちゃえばいいかなって」
「…………なるほど。でも、それじゃ酒場はどうするの? 廃止したら暴れる者が出るんじゃないかしら?」
お、マチルダ女史が案外アリだと思ったのか、食いついてきた。
「今のギルドの窓口を酒場にして、待ち合わせ広場を客席にしてしまうのはどうかなと。酒場の店員さんがダンジョンに入れるランクじゃないことが
その他、思いついた2階部分の改装案をメモを元にひと通り話したんだけど……気付いたら、なんか随分と皆さん静かじゃありませんこと?
ベルトとリナは手で顔を覆ってるし、クララとかファルコとかは苦笑いしてるし。スケさんはお面してるから表情こそ分からないけど、顔を背けて肩を震わせてない?
と、その時。
パンッ! と柏手を打つ音がして、マチルダ女史が顔を上げた。
「素晴らしいわ! 微に入り細に入り、よく練られた案のようだけど……これは今思いついたのかしら? これなら簡易的ではあるものの明日からでも運用できそうよ。酒場には少し休んでもらうけど、改装が済めばより広い場所での営業ができるし、説得はできるわ。あなた、ロブ君だったわね。どう、今からでもフィファウデのギルドで働か──」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って! 強い! 近い!」
マチルダ女史が立ち上がって歩み寄ってきたかと思うと、両肩を掴まれてグイグイと揺すりながらの熱い
女性相手に『怖い』という言葉が出なかっただけ褒めていただきたい。
「あっと……ごめんなさい。思わず興奮してしまったようだわ」
マチルダ女史は手を離してくれて、席の方に戻ってくれた。
「しかし、先ほどの案は良いわね。一度ダンジョンにいる冒険者たちを退出させないと引越しするのが面倒だけど……20層より先に冒険者がいないことが幸いしたようね」
確かに、高ランクの冒険者が奥にいる場合、ダンジョンの退場が完了しないから面倒なことになるだろう。
その点で、一部階層の封鎖を伴う調査の
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