第164話 案の定
しかし、冒険者を一度外に出すのか……まあ、そうか。
前世におけるお引っ越しとは違って、書類でも机でも椅子でも、魔法袋に突っ込んで終了だから、そこまで時間がかかるものではないのかもしれないけど、やはり一定期間は窓口を閉じる必要があるだろうしなぁ。
まして、別の場所に入退場を記録する水晶を置いたからって、すぐに始められるものでもないだろうし。
その意味では、冒険者たちに
どうせ今入っているのは20層と、急げば2日以内に降りれる距離だしね。
とはいえ、ダンジョンにスーパーの閉店時みたいな店内放送を流せるわけではないから、冒険者に一斉に退出を促すのは難しそうだし、それに全員出たかを確認するのは大変そうだよなぁ。
20層まで誰かを派遣して、冒険者たちに呼びかけていくのも手間と時間がかかるだろうし……。
…………ん? ああ、そうだ。
既に20層にちょうど待機してる人たちがいるんだから、頼むってのも一手なんじゃないだろうか?
「冒険者を全員外に出すって話なら、キファイブン領兵の人たちが戻ってくる際に、主な
そう、既に20層以下の調査を終えたキファイブン領兵は、あの
「そうね……でも、ついさっき伝令の人を返してしまったから追いつくのは難しい──ああ、
うん、どんなに伝令の人が急いでも、今から20層なら早くて明日の昼とかになるだろうからね。
ただ、これを実現するには、ちょっと領主様にお伺いを立てる必要があるんだよな……。
「でも、領兵団に依頼するとなると、領主からそういった指示を了承してもらう必要があるから、急な話にキファイブン伯爵が対応してくれるか次第になり──」
「あら、大丈夫よ。キファイブン領主は私の
…………は?
ギルドマスターが領主夫人とかそんなことあるの??
──マチルダ女史は、
後に恋仲となって、伯爵が改めて身分を明かし求婚したところ、その前後で家を継ぐはずだった兄が亡くなって急遽キファイブン家を継ぐことになり、2人は冒険者を引退して養子縁組やら何やらを経て、晴れて結婚まで漕ぎ着けたんだそうな。
マチルダ女史……いや、マチルダ伯爵夫人は、後々は
そのため、冒険者に一目置かれるだけの知名度と腕を見込んで、子育てが落ち着いたところで冒険者ギルドから
なるほどね、ヨンキーファとフィファウデの2つの都市がある体制で、初動が重要になる
「それじゃ、領兵団への手紙を書いてくるから、少し待っていてくれるかしら。ああ、一応は貴方たちへのギルドからの緊急依頼扱いにしておくから」
そう言って
……まあ、報酬が出ないからといって別に断るつもりもなかったけど、報酬と評価が出るなら有難い話だ。納品でのポイント稼ぎとかの代わりにもなるし。
◇◆◇
あれ、そんなに緊張した?
「……ッククッ、ヒャーッヒャッヒャ! だーから言うたやろ、ロブに自重なんて大層なもん期待するだけ無駄やって」
「……全くだな」
「……ええ、全くだわ」
え? 何この、みんなから責められてる感じ。
俺、やっちゃいました?
自重……ってああ、冒険者ギルドの引っ越しとか、ダンジョン内の酒場設置とかの提案の件、か? もしかして。
いや、だってだって、早いところさ、みんなが
「……やり方とか話の通し方ってもんがあるだろうがよ。さっきの件で言やあ、伝令が到着する明日の朝までは猶予があったはずだろ。思いついたことを言うな、とは言わねえが、一度引いてから周りに相談するとか何かあってもいいんじゃねえか? 目立ちたくねえってんならよッ!」
……なんか、過去最大級にベルトにガチ切れされてるんだけど。そんな机を叩かなくてもいいじゃないのよ。
ま、まあ、確かにこう、思いついてしまったことをその場で言いたくなったり、やりたくなったりしてしまうのは、わたくしめの悪い癖かもしれないとは、薄々感じなくもないところではあるんですけれども……。
「おい……本当にこんなのに
「…………少し後悔してるところよ。本当にロブの語彙に自重って言葉が無いことはよく分かったわ」
…………対抗?
何か競う約束とかしてたっけ?
学園で成績優秀者になるとか、そういう話か? まだ写本も貰ってないから全然進められてないんだけど。
「……別にあなたが気にすることじゃないわ。私が勝手にやっていることだから」
視線に気付いたリナが、手を横に振りながらそう言うものの、正直心当たりが無い。
数学こそ前世記憶の
近接の戦闘力とかなんて言うに及ばず、スケさんの指導もあって敵う気がしないもんなぁ……。
やっぱり、【剣術・短剣】とか取っておいた方がいいか?
そういや、残りの【成長ポイント】の使い道も考えないとだよなー。
残りは23ポイントあるから、【剣術・短剣】を仮に取るとすると、残りは20ポイント。
【空間魔法】とか【結界魔法】とかの大魔法を手に入れるのもアリなんだけど、実際のところ怖いのが『被り』なんだよね。
【空間収納】で代替できてたとか、ヴァル氏の【結界】の魔道具で事足りてたとか。
それなら、【上級加工】を取ってポーション作成や魔法陣といった方向を強化するか、【確率操作】を取って
個人的には、スキルの性能が重複するぐらいなら、性能が落ちても別スキルを取りたくなってしまう。もちろん、重ね掛けできるとか、別判定で効果が上乗せされるとかなら、断然それを選ぶとは思うけど。
「待たせたわね。それじゃ、これを領兵団長のゲーリングまで届けてくれるかしら?」
……と、そんな【成長ポイント】検討のことを考えている間に
ゲーリングというのは、おそらくあのデカい人かな。
「それじゃ、俺たちが
「うん、了解」
まあ、
◇◆◇
会議室を出て、階段を降りる道すがら。
最後尾を歩く俺に、スケさんがスススッと近寄ってきて話しかけてきた。
「ロブ、随分と周りから愛されとるなぁ」
……どういう意味だろう。
なんか、さっきの微妙に意味ありげーなやりとりのことなのか?
「結局、あれって何だったのか、スケさんは知ってるの?」
「さぁーてなぁ。木を〜隠すぅ〜なぁら、森のぉ〜中ぁ〜ってなもんやな、ヒャヒャヒャ!」
木を隠すなら森の中?
……何か妙な節に乗せながら歌ってたけど、結局のところ何が何やら分からず終いだった。
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