第165話 帰路
翌日は冒険者ギルドを閉じることになったが、結果的に本来は20層を封鎖する期間ではあったので、
2階の酒場では、休業の看板の横で臨時の窓口を作るための改装が早くも開始され、1階のギルド職員たちは一部で窓口業務は継続しつつ、急な引越作業に追われている。
酒場改め新・冒険者ギルド受付前には、翌日の朝から
──さて、そんな中で俺たちは、
ダンジョンは封鎖されて暇になってしまったので、クララの案件を進めようという話になったのだ。
本来は、3週間後にでも……なんて言っていたんだけど、わずか4日後の訪問になってしまった。
幸いにも、既に『整理券』方式は総本山でも運用が開始されたとのことで、希望者たちを
やはり、信心深い貴族や商人を中心に、総本山での『女神像の加護』を受けようと集まる人たちが結構いるらしく、不満への対応など含めて大変だったようだ。
「しかし、思っていたのとは違う感じで昇格しちゃったな……」
「あん?
──領兵団長へと手紙を届けて20層から戻ってきた後、緊急依頼扱いだったので窓口に報告したところ、
本来であれば、ダンジョンの到達階層や護衛依頼、犯罪者の捕縛、納品による評価などを書類にまとめて、本部に申請する『審査』という
今回の場合、ギルドマスターからの『推薦』という、よほどのことじゃなければ落とされない方法で昇格申請をしてくれるらしい。
これは、特別な貢献があった冒険者に対して行うものだとのことで、まして
「……まあ、フィファウデ遠征の目的は達成したし、ね」
とりあえず、これで学園前に済ませたい案件のうち『女神像配布』と『
『活動計画』については常設の
となると、残る大きめの案件は……
「クロエからの依頼を進めるか……後で連絡入れておこう」
ウォルウォレンもまた、30層に到達すると
まあ、
そんなわけで、ウォルウォレンは到達済みの28層まで飛ばして29層と30層を
その間、俺たちもフィファウデに潜る……かと言えば、そうではなかった。
ベルトが『普通のダンジョンってのも見ておくのも悪くはねえ』って言ってた意味が、実際に潜ってみて確かに分かった。
「やっぱり、アジトダンジョンに慣れちゃうとねー……」
「……まあ、確かに物足りなかったわね」
そう、『普通のダンジョン』ってやつは、物足りないと言うか……具体的に言ってしまえば、そんなに魔物との遭遇頻度が高くないらしい、ということだ。
前世のRPGとかの用語で言うなら、エンカウント率ってやつか。
アジトダンジョンなら、1時間も歩いていれば10体や15体ぐらいは遭遇していた魔物が、フィファウデでは精々が5〜6体。
冒険者が多い階層ともなると、その少ない敵を取り合って2〜3体とか、1体も倒すこともなく通過できる階層すらあった。
既にフィファウデでの目的は達成してしまった俺たちは、正直それじゃ物足りないって話になり、
まあ、フィファウデからアジトダンジョンに通うことも出来るけど、わざわざ出先の宿を使い続ける必然性も無いわけでね。拠点に戻ろうかということで。
リナは少なくとも年明けまでは暇ということもあり、時間が空いている時に探索を再開することになっている。
ひとまずは25層を目指しつつ、学園に行く前までに30層ぐらいまで行くのが目標だろうか。
ああ、そうだった。
せっかくだから、ウォルウォレンが戻ってくるまでに、お隣の国ルーデミリュの【地図】埋めもしてしまおうか。
なるべくは向こうの王都に近付きたくはないから、少し離れた王都周辺の街にでも宿を取っておいて、【ダンジョン化】の魔道具でも設置しておけば、準備は万全だろう。
で、ウォルウォレンが地上に戻ってきた連絡をもらったら、クロエを泊まってる宿にでも迎えにいって、即日で王都の邸宅までお届けすると。
……やっぱり、アレかね。向こうの親御さんに姿の1つでも見せないと悪いかね。
でもなぁ、向こうでやったことがやったことだけに、下手に素性を知られるのも憚られるわけで。
流石に悪意があって呼びつけているとは思わないけど、素顔を晒すのは抵抗がある。
…………アレか。スケさん方式でいくか。
あ、クマの着ぐるみじゃなくてね。お面よ、お面。
ひょっとことか天狗とか……は流石にあんまりだから、狐面とかかね?
後はなんか……報酬とか言ってたけど、個人的な要望があるとすれば、早いとこ国交回復してもらって、正面から『
……向こうはそれじゃ納得しそうにない、とは思うんだけど。
爵位とか領地とかは論外として、権限として自由にダンジョンに入れると助かるんだけどね。
恐らく、国家間を超えたダンジョンへの立ち入りまでは、結構かかると思う。
やっぱり、現代においてはダンジョンは重要な資源のようだし、そこから物を持ち出すには税の問題なども発生しそうだし。
一応、
そうなると、関税やら何やらとややこしい話が出てきて、徴収するのはどの
前世ではインバウンドだ何だって話の関連で、『免税店』って看板を街中でよく見たけど、あれって何がお得なのか分からなかったんだよな。
海外旅行とかしてる人だったら、そのお得感が分かるもんなのだろうか。
……クロエに、免税と自由なダンジョン入場の権限を代理で与えてもらって、それに便乗することにする?
同行者として申請すれば同じ権限で探索できるとか、そういう感じで。
割とアリかもしれないな。うん。それで進めてもらおう。
……ちょっと『嫁』の件は惜しいかな、って思わなくもないけど。
いや、だってさ。だってだよ?
クロエってこう、エルフの血を引いてるからなのか、いわゆる美少女顔なんだよ。目は大きいし、小顔だし。あと、出るとこ出てるし。
やっぱり男としてはこう、ね? 妄想してしまうわけですよ。そんなお嫁さんがいたらなって。
仕方ないんです、妄想は生理現象だから。
「……何またそんな気味悪い笑みを浮かべてるの? ロブ」
「うへぇあッ!?」
「もうすぐ
「ご、ゴメン」
確かに【地図表示】を見ると、もうすぐ別れ道が見えてくるところまで近づいていた。
面会は
今日は面会終わりの時点で陽が傾いてしまうので、その場で宿を取って一泊し、ヨンキーファには明日戻る予定になっている。
……ま、報酬関連の方針は決まったし、真面目に歩きますか。
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