運び屋ロブと隣国への訪問
第166話 地図埋め作業
「……さて、それじゃやっていきますか」
ヨンキーファに戻った翌日、クララが教会の手伝いで不在のため、早速ながらルーデミリュの【地図】埋め作業をしておこうと、ダンジョン経由でルーデミリュへと渡った。
まずは、主要なダンジョンの入口へと転移して、バニッシュマントを被って地上へと出て、周囲の地図を埋めていく。
そして、【地図表示】上では星座のようにポツポツと穴が空いたように埋められた状態から、徐々に埋めていく作業に入っていった。
ルーデミリュは縦方向に広い領土で、南西部のフィファウデ近辺でトレフェンフィーハに接している。
面積で比べるとルーデミリュの方が小さく、ざっくり2/3ぐらいの面積だろうか。
女神像の巡礼先が2日で回れたから、計算上は1日半ぐらいでいける程度ではあるんだけど……。
「……地味に巡礼帳って有り難かったんだな」
最初から8つに区画が分かれていたし、ラビット氏やリナの情報を集約してもらったのもあって、どこに宿を取れば効率よく【地図】埋めできるかも分かったんだけど……。
今回はそういった目安となる情報も無いので、少し埋めては移動して……を繰り返していて、若干効率が悪い。
適当な街を探して、姿を隠せそうな場所に身を潜めて、再度探索開始……といった行程が何度も挟まるわけで、当然と言えば当然なんだけど。
あんまり足跡を残したくないから、下手に宿に泊まれない、って縛りもあるし。
地図と言えば、クロエの父親さんが協力者に手紙を渡したり、あるいは協力者の領地にあるダンジョンの
でもあれ、終わった時になんとなく返しちゃったんだよね。
やっぱり、当時は好戦的な国家ってこともあって、戦時下では地図が割と重要な情報なわけだし、下手に手元に残しておくと怖いなって思って。
とはいえ、その地図に書かれていたのも基本的には領主がいる街とダンジョンと経路ぐらいなもので、その途中にある都市とかの詳細は無かったから、仮に手元に写しがあったとしても、どの程度役に立ったかは定かじゃないけど。
「…………うっ」
ちょうど2国の間にある山脈から来るからっ風が、肌を刺す。もう既に月が変わって、暦の上では秋から冬に入ってしまった。
現在いる場所は、名は知らないけど石造りの壁に囲まれたそこそこ大きめな街の、3階ほどある建物の上。屋外だ。
スケさんから貰ったバニッシュマントは、姿を隠すだけで防寒性能は皆無なために、冷たさだけは直撃する。
防具であるベヒーモス一式も、『状態異常耐性:中』ではあるけど、恐らく防寒性能としては体感としてスウェット程度がいいところだ。ダウンジャケットぐらいお願いしたいんだけど。
唯一、【空間収納】に入れっぱなしになっていた
……帰ったら温泉でも直行しようかな。
そんなことを思っていた矢先、ステータスオープンの通知が鳴った。
『地図レベルが上昇しました』
お、【地図】がLv.3になった。
女神像の巡礼範囲を埋め終わった時点で、既にLv.2の半ばを過ぎていて、フィファウデのダンジョンもそれなりに埋めていたので、そろそろかなとは思っていたんだけど。
ちなみに、【地図】も【生活魔法】等と同様に『成長スキル』を持たない仕様のようで、従って『成長ポイント』というのも無い。
ただし……Lv.3の派生スキル追加は『成長スキル』と同様にあるようだ。
「えーと……【
【付箋】
あ、こういうの好きかも。自分で地図を作る感じ。
特に、2点間の転移機能が使えるようになると、行き先が地図上のどこになるか忘れてしまったりするから、転移門に看板つけるのと併せて、地図上にもメモを残すのを忘れないようにする必要があったりして。
……時々、メモを忘れてしまって、どこに置いたんだっけって探す羽目になったもんだよね。うん。
実際、ルーデミリュのダンジョンは50カ所回ったはずなんだけど、記憶にあったのは特徴的な見た目だったり俗称がついていたりする15カ所で、半数どころか7割が記憶に残ってなくて飛べなかった。人間は忘れる生き物だということだろう。
一応【地図表示】だと、街とかダンジョンとかの単位で【
……今のうちに、覚えているダンジョンの位置に【付箋】でも貼っておこうか。
【検索】でダンジョンの位置を出して、思い出すことのできた『
後は……とりあえず王都にだけ付けておけばいいだろうか。今のところ行く予定はそこだけだし。
トレフェンフィーハ側は、後で巡礼帳と見合わせながらやっていくことにしよう……寒空の下で延々とやるのは、流石に辛すぎる。
◇◆◇
「……今日のところはこんなものかな」
およそ1/3が埋まった辺りで、日も沈みつつあったので引き上げることにした。
というか、途中から陽も
【空間収納】から取り出した紅茶で暖を取ったりしつつ、誤魔化し誤魔化しでやってきたものの、こう冷え込んでは撤退する他にない。
ちょうど今いたのが、エシエルデローチェというヨンキーファやフィファウデに一番近い街だったので、そのまま拠点の玄関へと格納門を繋ぎ、帰ることにした。
「ただいまー」
「ああ、おかえり。今日はこっちから?」
玄関からすぐの
確かに、いつも【ダンジョン化】された第2玄関から出て第2玄関から帰ってくるから、1階にある本来の玄関から戻ってくることって割と少ないかもしれない。
「スケさんは?」
「そろそろダンジョンから戻ってくるんじゃないかな、今日の夕食はスケさんのリクエストだし」
ああ、そういえば朝食の時にそんな話していた気がする。『寒うなってきたから、鍋とか温かいもんがええんと違う?』って。
ラビット氏も、貴重な魔物素材だったこともあって、鍋を作ったことは無かったらしいので、面白そうだと思った様子。
やっぱり、一品で見栄えがするようなステーキとかの高級路線に行くんだろうね、貴重な魔物肉を使うとなると。
まあ、文字通り『山のように』というぐらい大量にあれば、色々と試作するにも躊躇わなくていいよね。
「お、噂をすればかな?」
上の方から足音が聞こえてきたので、
「やあ! ようやく完成したよ!」
……違った、ヴァル氏だった。
何やら手に持っているのは……箱? 新しい魔道具ということだろうか。
「おや、カスくんは不在かい?」
「なんやクソエルフ、引きこもりは気い済んだんか?」
どうやらちょうど同じ
「うん、みんな揃ったようなら、準備をしようかな」
スケさんとヴァル氏が毎度の夫婦漫才なのか痴話喧嘩なのか分からないのを始めたところで、既に見慣れている様子のラビット氏は
◇◆◇
その周りに並ぶのは、向こうが透けて見えるほどに薄く切られた肉、肉、そして肉。
鍋の中へと、椎茸と白菜、豆腐が投入されて、準備は完了したようだ。
我々、元日本人組にとってはお馴染みではあるが、ヴァル氏は不思議そうな顔をしている。
「何だい、生の魚を切ったサシミは確かに美味しかったけど……魔物の肉まで生で食べる蛮族のような趣味は流石に無いよ?」
「いや、これはね……まあ見てもらった方がいいでしょ」
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