第61話 般若
「ええな、雰囲気出とるわ」
…………
スケさん、『
それを元に、
今回はそんなに時間も無いのでざっくりで作ったつもりだったけど、案外いい感じに似せることができたようだ。
スケさんの下絵で、頭にしっかり仕上がりの形状を想像できたのが、大きかったのかもしれない。
大きなツノが
……作っておいて何だけど、これはこれで騒がれない?
ま、まあ、よくある火傷痕を隠してるとか、そんな感じの設定で通してもらおうか。
ちなみに、お面は上手いこと軽量化できていると思う。
お面の裏側を削り取る必要があったのだけど、粘土から
断面図は、きっと同じ線が常に並行してるような形状になっているだろう。
最後に、ツノの裏側に紐を通して、頭の後ろで縛って、さらに腰帯に大小2本を差せば…………立派な不審者の完成だ。大丈夫か? 本当に。
……まあ、見た目を隠そうと思ったら多少は目立つのも仕方ない、と思うことにしよう。
◇◆◇
ヨンキーファの北門から領主の城に通じる大通りを南へ向かい、少し貴族町の方へ折れた辺りにフランさんから紹介された店はあった。
「いらっしゃ……ッ!?」
スケさんの出立ちにギョッとする店員さん。まあそうなるよなって。
店に来る前に念のため正規の入場履歴を残そうということで、北門の検問は通ってきたけど、そこでも一悶着ありそうになったぐらいだし。
スケさんには、念のため受肉スキルで『顔に火傷痕がある』ような顔にしておいてもらったので、半分ほどお面を外したところで事情はご理解いただいたけど。
ここまでの道でも、すれ違う人たちから二度見されまくったから、もう仕方ないと思うことにした。
「この人、冒険者なんだけど、装備を失ってしまったようで一揃えお願いしたいんだけど」
「え……あ、はい。どういったのをお探しで?」
「革鎧でかまわないから、すぐに着れるものを一式と、その下の肌着についてもお願いできる? 多少は
「なるほど……少し測らせてもらいますよ」
そう言って、肩幅や腕の長さ、背の高さなどを紐のようなもので測っていく。
スケさんの身長は平均より少し高めといった感じで、恐らく180ぐらいだろうか。勇者時代の暴食スキルを使い果たした体型だそうだけど、しっかり筋肉もある。
普段は太っていたとのことだけど、お相撲さんとかも中身は筋肉だるまって話あるもんな。
考えてみれば、常に数十kgの重りを担いでるようなもんなわけで、相応の筋肉がついてるのも道理ってわけだ。
「お客さん、ちょうどいい寸法してるね。これなら調整不要だからすぐ着れるのがあるよ」
へえ、前世の量産服が流通してるでもなさそうなのに、すぐ着れるのがあるのは運がいいな。
前の世界はユニクロとかしまむらとか、山と積まれた安価な衣類を自由に選べるのが当たり前すぎたけど、こっちではそんな大量生産も大量流通網も存在しないからね。
「勇者
「へ、へぇー、なるほど、運がいいねスケさん」
なるほど、そりゃぴったりな
実際、持ってきてもらった長袖と革鎧は高級な仕立て服のようで、キマっている。
革の材質は獣の革から魔物の革まで様々あったものの、値段と見た目で鹿革のものにした。
「スケさん、このまま着ていく?」
スケさんは
◇◆◇
「……ッはあ! 死ぬかと思うたわ」
スケさんは拠点に戻ってくるなり、般若の面を外して呼吸を止めてたかのような
一応、スケさんは貴族を避けたいとのことを聞いたので、勇者バレは避ける方向で考えているため、試しにボロが出ないよう街中で黙ってられるか実験をしたんだけど。
でも死ぬなら無理だなー。
身バレ対策した上で話してもいい状況を作るしかないけど、その辺りはウェスヘイム家が関わっているという『勇者博物館』辺りを確認して方針を決める他になさそうだ。
何せ、勇者
常識の食い違いによって騒ぎになる展開とか、よくあるもんな。
悪役子息に転生した結果、真っ当な行動を取るようになったことを知る関係者と、噂だけを信じる他領との食い違いで、喧嘩やら決闘やら引き起こす、みたいな感じの。
下手したら、本人が本当のことを言ってるつもりが『勇者様を馬鹿にしやがったな!』みたいな展開もあり得るかもしれない。完全に喜劇のそれだけど。
さて、時刻は
リビングで軽く昼飯をと思ってトルティーヤ巻きのケバブを出そうと思った時、ふと思い出した。
そうそう、こう言う時に使わないとだよな。
「これでいいのかな?【
俺は【空間収納】を使う時は基本的に無詠唱派なんだけど、なんか頭に浮かんだ【生活魔法】の使い方が詠唱式だったのもあって、試しに声に出してみた。
おお、確かに服の中で少し汗ばんでいた感じがすっきりとした気がする。そればかりか、服も洗濯したように綺麗になっているようだ。
手の匂いを嗅いでも、雑菌感ある臭いはしなくなっていた。これは成功ってことで良さそうだ。
「早速【生活魔法】を使うとるんやな。ワイにもやってや」
それじゃせっかくだし、MP消費を確認しつつ無詠唱でやってみようか。
ステータスオープンしたまま、手をスケさんに向けて頭の中で範囲を指定しつつ【
うん、千回単位で出来るぐらいMP消費はごく僅かだし、普段使いに良さそうだ。
「おおきにな。ただ、こういうんはやっぱ何かしら声かけた方がええかもしれんな。今後、あの嬢ちゃんたちとやっていくのに、誰が何をやったか共有した方が、無駄撃ちとか防げるしな。細かいとこやけども」
なるほど、今後のパーティ
「なるほど、ありがとう」
「ま、『大いなる神よ〜 我が身を清めたまえええ〜』なんてやるかどうかは、個人の判断に任せるけどな」
……流石に勘弁してください。
そんなことを話しながらトルティーヤケバブをつまんでいたら、玄関で呼び鈴の音が鳴った。どうやらお迎えが来たようだ。
皿の方に残っていたはずのトルティーヤが、今の一瞬でスケさんの胃袋に放り込まれたので、皿も【
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