第88話 解体
「……凄いね、無駄のない動きというか、なんか空中でも蹴って立体機動してるように見えるんだけど」
現在、目の前ではラビット氏がナイフ片手に飛び回っている。
商業ギルドからの帰宅後、まだ夕飯には時間があるということで、俺とスケさん、ラビット氏はアジトダンジョンの中にいた。
ラビット氏に【解体】を依頼することになったので、試しに【解体】することになったヒュージサーペントの作業を俺とスケさんで見学中だ。
スケさんから素材を渡してもらい、
なお、場所はもちろんアジトダンジョンの入口にある
「ありゃ解体道具の
ヒュージサーペントは全長80m、直径3mにもなる巨大な蛇で、サーペント系に共通して皮や胃が素材になる他、毒袋が錬金素材に、牙が剣などの素材に使われるそうだ。
そして、ラビット氏が嬉々として解体していることからも分かる通り、連綿と続く肋骨のトンネルについた大量の肉。
これが鶏肉と魚の中間のような味と食感で、非常に美味しいらしい。
流石に全長をそのまま解体するのは骨が繋がっていて難しいため、腹を裂いて内臓を取り出した後は、頭と尾の先端を除いた70mほどを10mごとに輪切りにして個別に
一旦、内臓は使える部位である胃袋と心臓だけ取り出して残し、頭は牙と目玉と顎にある毒袋を切り出していた。
サーペントは長さに従って胃袋の数が決まるそうで、80メートルの蛇には12個もの胃袋がついていた。
魔法袋が作れる職人に持ちかければ、高額で売れるかもしれないそうだ。
心臓には魔石に強い属性がついた魔結晶と呼ばれる石が入っているそうで、特別な魔道具などに使われる素材になるらしい。
また、単純に心臓は珍味として美味しいという話もある。スーパーの肉コーナーに時々並ぶホルモンの一種で、ハツってあったもんな。
頭と内臓を取り出したところで、輪切り1つを残して魔法袋へと収納していく。下処理が終わったということだろう。
ちなみに、ラビット氏の魔法袋は装備品ぐらいの精々1mほどのものしか出し入れできなかったので、スケさんが量産品と呼ぶ魔法袋を貸し出した。
こちらの魔法袋は、リナの実家への受け渡しでも使った、ブラックドラゴンでも入るお墨付きだ。
ラビット氏が手に持つのは
昔見た、ジビエブームとかに乗っかった狩猟の動画では、7つ道具と称して皮剥ぎや骨外しなどそれぞれの専用ナイフを紹介していた記憶があるけど、ラビット氏はそのナイフ一本で皮から肉まで丁寧に解体していく。
さて、ひと塊10mほどの筒が、あっという間に皮と骨と肉に分解されていった。
一応敷いておいた木の板の上には、四角い一枚の皮と、トンネル状の骨、そして綺麗に魚のヒラキのようになったサーペントの肉が広げられている。
「……ふう、よし後は楽ができそうだね」
それらの素材を魔法袋にしまうと、ラビット氏は次の筒を取り出す。
「ラビットさん、大丈夫です? 休憩とか挟まなくても」
下処理から1つ目の塊の処理まで、およそ
「ああうん、問題ないよ、ありがとう。ここからはすぐだから、やってしまおう」
そう言って手元のミスリル解体ナイフへと魔力を貯めていき、筒の外皮へと突き刺した。
「いくよ、【解体】!」
直後、高さ3m長さ10mある筒全体が魔力に包まれていく。
そして魔力が収まった後は一見して変わってないように見えたけど、引き抜いたナイフにくっついて外皮がズルリと
その肉と骨も、手で掴んで引き下ろすようにすると肉だけがスルリと
思わずスケさんと拍手してしまったのに応えて、ラビット氏は大道芸の演者のように頭を下げ、続けて残り5つについても次々と【解体】していき、ヒュージサーペント1頭全ての解体を終えてしまった。
「最初こそ時間がかかるんだけどね、1体とか1塊とかの単位で
なるほど、切断していた理由にはそういうのもあるのか。
「ほんなら、さっきのヘビも
「あ……!! なるほど、いけるかもしれない!」
「
……と、そんなスケさんの思いつきで始めたものの。
魔法袋を持って出しながら
「うーん……そうだ、こういうのは?」
俺はふと思いついて、今いる
そして、一度ヒュージサーペントを預かって空間収納側に入れた後、その枠内に
うっすらとした記憶しかないが、昔読んだ無料配信の漫画に出てきた、皿だったかに螺旋に巻いて作る薄焼きパンのことを思い出したのだ。たしか中央アジアとか中東とか辺りの設定だった気はするけど。
「おおー、収納の出口が移動するのは便利だね、すごい」
「ええやないの。上手い上手い」
俺は格納門経由で視界を上に置いて覗き込むようにしながら作業を進めた。
ヒュージサーペントは結構太いので『の』の字を書いたらもう限界ではあるけど、それを3段繰り返すと確かに10mの立方体に収まったようだ。
「ラビットさん、これで行けそうです?」
木の柱の間に立っているラビットさんに、問題なさそうか訊く。
先ほどと同様にナイフを突き立てて、いけそうか確認を行っているようだ。
「うん、いけそうだね。それじゃ……【解体】!」
そう言って魔力を込めていくと、ゆっくりサーペント全体に広がっていく。
やはり一度にやる体積が増えた分だけ時間はかかっているけど、数秒経たないうちに全体へと魔力が広がっていき、しばらくして吸収されたように消えた。
「あー、これ素材が重なってるから、
一見してさっきと同様に見た目は変わらないものの、皮に触れるとズルッと剥けて、確かに【解体】されていることが分かる。
しかし、頭はともかくとして、皮と肉と骨、そして内臓が巻かれた状態になっているため、それらを上手いこと引き抜いていく必要があるわけだ。
「下手に動かすと、腹から
うーん……楽をしようと思っても、そう上手くはいかないってことか。
…………あれ? 中州で薬草とか採った時とか考えると……いけるか?
「ちょっと試してみてもいい?」
俺は解体済みヒュージサーペントを丸ごと収納した後、収納に入ってるものの一覧を確認した。
「よしよし、大丈夫っぽい。こっちで自動仕分けされたんで、皮と肉と骨、あと内臓と頭で取り出せる状態になってた」
「自動仕分け?」
なかなか高性能なんですよ、俺の【空間収納】ってば。
何せ、中州を丸ごと刈った草の山を、薬草や毒消し草といった感じで自動的に分類してくれるんですもの。
皮と骨と肉が重なってようと、それぞれ仕分けすることなんてワケないですよ。
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