第174話 ティータイム
「それでは、こちらはこのまま着ていきます」
「かしこまりました、それでは残りの衣装は調整が済み次第で、ルクレール侯爵邸まで届けさせていただきますので」
凄いな、本業の仕立て屋さん……その場で少し大きめのものを試着させてもらったと思いきや、数分ほどでちょうどいい寸法に詰めて完成させてしまった。
前に
これが王都に店を構える、仕立てのスキル持ちの仕事、ということだろうか。
衣装の形状は、この世界の貴族における一般的な
仮面をしているのが玉に瑕だけど、その辺りは仕方ないとして。
一応、コートも見繕ってもらったので、ベヒーモスの革鎧一式は
……一応、ヴァル氏から貰った【結界】の付与された
その他、厚手の
なお、お代はルクレール侯爵家持ちになっている。その辺りは、爵位や領地に比べればまだいいかということで、お言葉に甘えることにした。
あんまり遠慮するのも逆に悪いような気がするしね。この旅の間は素直に世話になっておこう。
「お待たせしました、どうですかね。変じゃないです?」
「あ、あの……非常に、お似合いです……」
ナディーヌさんは、別に面白がってもお世辞で言ってる風でもなく、少し驚いた感じで感想を言ってくれた。
まあ、革鎧姿よりもスーツ姿の方が、格好良いように見えてくれているといいんだけど。
あとは正直お面がねー……もう少しスキルを上げて、自己防衛できるようになったら、姿を明かしてもよさそうだけど。まだ今は、ね。
◇◆◇
その後、靴屋や装飾品などを回っていい時間になったので、レストランに近い感じの飲食店へと入って、お茶の時間にした。
こちらの国では主に朝晩をしっかり摂って、昼はお茶を飲みながら軽食を取ったり、
入った店は薄いパン状のものに様々な果物やジャムを載せた、オープンサンドとかカナッペに近いものが
甘いものが苦手な人用にチーズやハムを載せたのも用意されている辺り、客層に合わせて対応できるよう工夫していることが窺える。
俺はとりあえず色々なものを試してみたかったので、10種類ほど入った
酒類も提供しているようだったが、当然ながら注文していない。お酒は大人になってからよね。
ちなみに、お茶は料理を注文したら自動で付いてくるようだ。俺はミルク入りのものをお願いした。
「ビンス様は、あちらの国で冒険者をされているんでしたね。それなら、ダンジョンが公開されたら、こちらの国にも?」
「ええ、
やっぱり食料系は魅力だよね、『
なんか観光資源化してもいいかもね、いちご狩りみたいな感じで。自分で収穫したら、その分だけお安く仕入れられますよって感じでツアー組むの。
余分に収穫して納品することで旅費も含めて採算がとれるとなれば、それこそトレフェンフィーハの
トレフェンフィーハにも食料が手に入るダンジョンはあるものの、『
『
ああいったダンジョンも、同様に観光資源として売り出すのも良さそうだよなー。
今回の件で、あのダンジョンを持つ領主もルクレール侯爵と関わりが深くなったんだろうから、提案してもらえないかな。
入場料先払い制で、
「……ビンス様。あの、そういった提案はどこから出てくるものなのでしょう? 私も家督を継ぐものとして父を手伝いながら学んでいるのですが、ビンス様の提案には驚かされるばかりで」
あー、いや、うん。
まあ、前世は長い間の平和で培われた娯楽と、それらが機械文明下で集約され共有された知識があったからね。
そこいらのコンビニやスーパーで転がっている商法ってのが、人生を数度やり直してようやく発見するような、
世にそれを、知識チートって言うんだとは思うんだけど。
「そうですね……ある問題を解決する方法って、大抵はいくつもあるとは思うんです。でも、問題って突き詰めていくと、複数ある問題点の集まりであることが見えてきたりするんですよね」
例えば、
「大抵の提案は、その問題点の片方を解決する代わりに片方が後回しになったり、肝心なことが解決しないことで全体が改善されなかったりする。でも問題を分析していくと、複数の問題をまとめて解決してしまう方法を思いつくことがある──そういう提案を、
「
これは、かの有名な髭の配管工のゲームを作った人の言葉の受け売りで、それを知った当時は衝撃を受けたし、何か問題に当たった時にはその問題点を分析するようになったんだよね。
分析しきれてないと、漏らした問題点が膨れ上がって顕在化したりするし、取り返しがつかなくなることもあるから、前提条件とかは慎重に調べる必要があるんだけど。
「あとは、商売などが上手くいっている例を分析して、何を解決しているのかを知ることでしょうか。そういった例を参考に、他の分野で転用していくことで、新たな解決法が見えることもあると思います」
お菓子詰め放題の転用で魔法袋詰め放題ってのが、その発想だよね。
人間、なんだかんだ『お得!』って響きに弱いから、食べ放題とか詰め放題とかってだけで、集客できてしまうもんで。
まあ、その参加条件となる値段とかが絶妙で、結構頑張った結果、ようやく採算がとれる程度に設定されてて。
結果、よくよく計算するとあんまりお得ではなかったり、実はそこまで必要なかったり、不要な支出だったりするんだけど。
でも、結局はそれ自体が楽しいから成立してるんだとは思うけどね。
◇◆◇
「……ビンス様、今日は本当に勉強になりました。ありがとうございます」
うーん、なんか偉そうに語ってしまった気がするけど……前世の記憶頼りだから、なんかそこはかとない罪悪感があるよね、こういうの。
「まあ、参考になったのであれば、こちらとしても嬉しいです」
この飲食店のお代も侯爵持ちなので、せめて何かしらの形で返せてるといいんだけどね。俺は既に戦争回避という形で、貰うものは貰ってあるし。
ひとまずお茶の時間はお開きとなって、ナディーヌさんと個室から出て、出口へと向かおうとした時だった。
「……あ? おいおい、ナディーヌじゃねえか。久しぶりだな、相変わらずの食欲か?」
……うーん、せっかく心地よい声でいい時間を過ごさせてもらったのに、何やら背後から不快な
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