第79話 助っ人投入

「スケさん、そっちはどう?」


「ヒャヒャヒャ! こんなもんじゃ全ッ然足らんで! 倍にしてもええぐらいや!!」


スケさんは次々に落ちてくるオークの首を的確に切り飛ばしつつ、返す刀で邪魔にならない壁際まで投げ飛ばすという器用なことを繰り返している。


まだ余裕なら流入量を増やしたいところだけど…………おっと、そうだった。


それなら蛇口を増やしちゃえばいいじゃないってね。


空間収納 Lv.13

成長ポイント:23

・格納門増加 Lv.3


リナたちとの『成長レベリング』中に俺も1レベル上がっていたけど、成長ポイントは保留にしてあったんだった。


せっかくだから、こいつを一気に使ってしまおう。


空間収納 Lv.13

成長ポイント:1

・格納門増加 Lv.7


これで使える格納門は合計8個になったから、同時に4組の地点を繋げるようになった。


そのうち1つは場所確認の視界用に使うから、常時使用可能なのは2〜3カ所って感じになるだろうけど。


早速、俺はスケさんの前に現在繋いでいる15層の入口側の階段とは別に、16層に向かう出口側も格納門を置き、それを部屋の中の空中へと繋いだ。


少しだけ高い位置から出しているのは、逆流させないためと、落ちて無防備になったところを狙ってもらうためだ。


「よっしゃ! ゴブ、ブタ、分け合うのは終いや、そっちは任せたで!!」


「ギャギャッ!」


「フゴ!」


ゴブ師匠と、新たに知り合ったオークキングのブタさんが落下地点へとすぐに入り、スケさんと同様に次々と狩り始めた。


3つめの蛇口は様子見しながらではあるけど、15層に目処がついて14層から順に使うようになってからかな。


……とまあ、そんな感じで俺はアジト・・・ダン・・ジョン・・・の10層で、オークの処理を開始していた。


◇◆◇


「ええで」


軽っ。


まあ、そんな感じだとは思ってたけど。


アジトダンジョンから拠点に戻り、冷蔵魔道具に入れておいたアップルパイを頬張っていたスケさんに手伝ってといたところ、即答だった。


「ほんなら、どうするんや? 無事に向こうのダンジョンに入れたようやし、潜入経路は確保できたんやろうけど、一応ワイはウッドFランやから、あんま目立つんはマズいしやな」


そう、スケさんは身分証明という意味もあって、冒険者ギルドでの登録を済ませている。


ちなみに登録名は『サスケ』、職業は剣士としている。案外、スケさんという呼称を気に入ってくれているらしい。


当然ながら、まだ登録したばかりのウッドFランであり、俺と同様にダンジョンに入れる冒険者ランクではない。


「ああ、うん。その辺りはついさっき解決に目処がたったとこだよ」


「お? 何か妙案でもありそうやな。聞かせてや」


本当、渡りに船って感じだったよね、慣れで誤った手順を踏んだと思ったら偶発的に発見をしてしまったっていう。


生物学とか化学とかだとコンタミネーションって言うんだっけ? 想定外の処理を行ったら新たな科学現象が起こってしまったやつ。


コンタミ魔法、みたいな感じ? 若干違う気もするけど、まあいいや。


「フィファウデのダンジョンから、いつものアジトのダンジョンに格納門が繋げることをついさっき発見したんだよね」


「ほう、面白いな。ご近所さん扱いっちゅうことか? まあええ、ほんで?」


「うん、だからスケさんにはアジトダンジョン側で待機してもらって、向こうから流してくるオークを処理していってほしいんだ」


「なるほどな。向こうからの流しそうめんって感じや。風流やないの」


そんな涼しげでもないというか暑苦しいけどね、実際あのひしめきっぷりを見ると。


「恐らくだけど、オークたちは次の層に登る階段のところで流れが滞ってるようだから、そこに格納門を張ってしまえば後ろから押されてる勢いそのままに吐き出してくれるとは思うんだよね」


そう、15層だけがあれだけ一面にオークだらけだったのは、黒いもやの速度が早かっただけではなく、次の層に上がる階段で詰まっているのが原因だろうと思っている。


長年、暴走スタンピードことボーナスタイムを見てきた専門家のスケさん曰く、ダンジョンの魔物たちが数が増えた時に隊列を作って上の層へ向かうのは、一種の本能のようなものではないか、とのこと。


階段を登る速度を超えて魔物が発生すると、階段前で詰まる現象はあり得そうだ、とはスケさんとも見解が一致した。


「一部は列から抜けて横に逃れる奴もおるんやけど、なんか結局は列に戻ろうとするみたいやな。普段は狼やゴブリンでもなければ群れることは少ないんやけど、暴走スタンピードの時だけは集団意識みたいな感じになるようやし」


まあ、不思議現象に今更何を言っても仕方ないんだろうとは思いつつ、今回はその性質を上手いこと利用してとっとと掃除・・する必要がある。


「とにかく15層が一番多いからそこを減らしたいのと、可能なら14層以降の魔物たちも間引きたいかな」


「んー、速度上げたいんやったら、せっかくアジトの方を使うんやしゴブにも手伝ってもらうか? あと20層からブタも呼んできてもええやろうし」


そうか、あのゴブ師匠がいるボス部屋は結構広いから、倒したオークを流しても詰まることはなさそうだ。


魔物は倒してから少しの間だけ身体が残る。もちろん某巨大獣ハントゲームのようなぎ取りができるわけではないけど、そいつが消えるタイミングでいわゆる魔石などを残すことになる。


問題は、その1分にも満たない間でもオークのような巨体は結構邪魔になる可能性が高いこと。


だから、今回はなるべく広い場所が欲しかったのだ。


ゴブ師匠の本来であればボス部屋として使われるあの空間は申し分ないだろう。


「ブタ、さん? ってのもスケさんと面識ある魔物の1体でいいんだよね?」


「ああ、まだ会うたことなかったな、20層におるオークキングやな」


オークキングか……なんか同族の間引きを手伝ってもらうのはちょっと申し訳なさがあるような…………。


「まあ、暴走ボーナスタイムの魔物はゴブリンもオークもおるからな、別に気にしとらんと思うで。同族であろうと経験値得るため戦うし、負けるんは弱いからやって割り切っとるからな」


まさに強さこそ正義の蛮族って感じだなおい。いや、いいんだけど。


「ほんなら、さっさと行こか。いやいや楽しみやな」


……この人も大概、蛮族だよな。暴走スタンピードをボーナスタイムと称する人種は元から真面まともなはずはないんだけどさ。


◇◆◇


そこから、スケさんには20層に転移部屋ショートカットで行ってもらい、オークキングのブタさんと合流、10層でゴブ師匠とも合流して諸々説明し、作戦開始となったわけだ。


もっとも、2人への説明なんて『ボーナスタイムが始まるから経験値稼げるで』で終わりだったし、2人も同族らしく喜ぶだけだったけど。


ちなみに、お掃除を始める前にベルトリーダーに付けておいた格納門で状況を確認しておいた。


その時点で彼らはちょうど25層に着いていたようで、他のパーティの代表格の人たちと話していた。


幸いにもと言うか、どうやら25層にいた冒険者たちも異常を感じて、下の層へ向かうのを中止していたらしい。


後から聞いたところ、所属するクランが寄越す予定だった補給部隊が予定を過ぎても来ないため、何かあった可能性を考えて待機していたとのこと。


彼らは急いでテントなどを畳んでいて、終わり次第出発するようだった。


ベルト曰く、25層から16層までは最短距離なら鐘2つ4時間ほどで着けるとの話なので、目標はそれまでに減らせるだけ減らすことだろうか。


さて、相変わらずスケさんは異様な速度で落ちてくるオークを切っていく。さっきまでは3〜4体だったのが、ゴブ師匠とブタさんが抜けた分の倍速で処理されていく。


ゴブ師匠&ブタさんも負けじと、もう1つの門から出てくるオークたちを処理していく。


ゴブ師匠の得物えものはククリナイフと言われる形状のもので、次々に首をねていく。


ブタさんは棍棒というか何というか、重そうな鈍器を頭にぶち込んだまま、跳ね飛ばしている。


そんな3人に対して、俺はといえば……なんか雑用全般といった地味な仕事に徹していた。


切り捨てた足元や跳ね飛ばした壁際に残されていく戦利品ドロップを【通過対象指定】で回収したり、少しずつ減ってきた15層の魔物の排出が途切れないよう山から追い立てるように隕石加速した石を落としたり、燃費の悪いスケさんに菓子パンを渡しつつその間の格納門を閉じたり……といった感じだ。


まあ仕方ない、範囲殲滅でも高速殲滅でも俺はまだ実用できる品質クオリティまで至ってなくて、3人の補助をするのが最大効率なのだから。

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