第80話 掃除完了

「ロブ、なんやオークの流れが遅くなってきたな」


「うん、15層のオークは大体間引けたかもしれない」


開始から鐘1つ2時間、15層の上空から【気配察知】で見えるオークの濃度も、かなり薄まったように見える。


上下の層に向かうそれぞれの階段にたかる範囲も、時間経過によってしぼんでいき、面積で言えば残り1〜2割ってところだろうか。


オークとハイオークが落とした戦利品ドロップの魔石は合わせて10万近い数になっている。


まだちらほらはオークの集団らしきものがあるものの、最短経路からは離れているので、スケさん並みの速度とまでは言わなくても戦利品ドロップガン無視の『切り捨て御免』で進めば支障は無い程度だろう。


「じゃあ、14層より下の出口に繋いで、順次流していくけどいい?」


「そうやな……ほんなら、ゴブたちのをこっちに回して、14層より下はゴブたちに回してもらえるか?」


「ギャッ!」


「フゴフゴッ!」


3人の同意が取れたようなので、格納門の位置を調整して再開する。


14層の方は、15層からの流入が格納門によって絶たれてから鐘1つ2時間経ってるので、その分だけ暴走スタンピードの列は解消されていた。


長さにして半分ほど、といったところだろうか。なんか高速道路の渋滞っぽいな。


早速、渋滞解消されるように階段の穴をゴブ師匠とブタさんの上に開いて、排出を開始する。


勢いとしては悪くないものの、14層に移動させた上空からの視界で確認していると、列解消は結構早めなので、割とすぐ消化されてしまいそうだ。


俺は15層と14層をそれぞれ監視しつつ、再び戦利品ドロップ回収やらスケさんへの食料供給やらに追われ、興味を持った様子のゴブ師匠とブタさんにも食料を食べてもらったりしつつ、お掃除を続けた。


ちなみに2人に渡したのはあんパンだったけど、非常に好評のようだった。


4半鐘30分ほどで14層の渋滞解消が先に終わったので13層へと繋ぎ、程なくして15層の両階段からも排出が途切れたので、12層と11層に繋いだ。


そうして10層、9層、8層と続けて、もう間もなくそれらも解消されるかという辺りで、開始から鐘2つ4時間が経過し、ベルトたちが16層へ到達する予定時刻が迫っていた。


残りは7層〜4層ではあるけど、狼やゴブリン、あとは若干のオークといった程度なので、ゴールドAランクの混じる上位集団トップランカーたちにかかれば、過剰戦力オーバーキルもいいところだろう。


「それじゃ、今の層の排出が終わったら一旦終了ということでよろしくー」


3人からそれぞれ了解を取ったところで、俺は16層の様子をうかがうために視界を繋いだ。


「……それじゃ、今のところ鐘2つ4時間近く土壁は壊されてないわけか」


「ああ、もしかして15層の異常増殖が収まりつつあるのかもしれない」


「一旦、土壁を外して15層まで押し込み、偵察しつつ判断しようか」


派手な鎧のゴールドAランクと思しき冒険者たちが、安全地帯セーフエリアで今後の相談をしているようだ。


ほどなくして作戦が共有されると、前衛と斥候の精鋭って感じの面子メンバーが石壁の前に集まり、合図と同時に魔法で崩された石壁の中へと突入していった。


実は格納門は15層側の出口に張っていたので、16層側で塞いでいた土壁から階段の間には結構な数のオークやハイオークが残っていたようで、土壁が開いた途端に飛び出してきた。


ゴールドAランクの冒険者たちは、それらを切り伏せながら進んでいく。流石は精鋭といったところか、オークの後続おかわりも無いため容易に突破し、15層へと駆け上がっていった。


16層に続く階段からの騒ぎを聞きつけたのか、周囲にいた多少のオークたちが寄ってくるものの、物ともせずに切り捨てていく。


その隙を縫って斥候が周りへと散っていき、様子を探りに行ったようだ。


そう言えば、とベルトリーダーたちを探すと、彼らはシルバーBランクとして第2陣に組み込まれているようで、階段下で待機していた。


恐らく今上がって行った先陣が行けると判断したら、ブロンズCランクを伴って地上へ向かうのだろう。


俺はメモ書きに現在の状況として8層までの間引きが完了していることを記載し、周囲の目線がないことを確認しつつ、ベルトの空いていた左手をこっそりつついた後にメモを握らせた。


……あ、そうだった。


これからのことで、クロエエルフに確認しておきたいことがあったんだった。


クロエが元いた、ルーデミリュの地理とか貴族とかについて、ね。


結構込み入った話になりそうだし、今は話すわけにもいかないから、地上に戻ったら話をしに会いに行くことにしよう。


ベルトがウォルウォレンの各位メンバーにメモを共有したところで上層からの伝達が来たようで、列が一斉に動き出した。


かなり間引いておいたし、行けると判断されたのだろう。


総勢100人近い冒険者たちが勢いよく15層を進んでいく。


殿しんがりつとめるのはゴールドAランクのようで、列が終わった最後尾につけて追いすがるオークたちを打ち払っていく。


16層まで来れるパーティなだけあって、それなりの速度で進んでいても遅れずに付いていっているようだ。


……正直、俺はまだ体力的にあの速度だと早々に息切れしてしまうかもしれない。


やはり『成長』とは別に、基礎体力というのが必要なんだと思う。


「おう、向こうの様子はどうなん?」


8層までの暴走スタンピードの渋滞は解消されたようで、手の空いた様子のスケさんが話しかけたきた。


ゴブ師匠やブタさんも一応警戒している程度で待機状態だ。


俺は開けっぱなしになっていた格納門を閉じつつ、3人に感謝を伝えた。


「助かったよ、おかげで冒険者たちも無事帰還できそうだ」


ゴブ師匠とブタさんに手伝ってくれたお礼として、菓子パンや惣菜パンなどをひと抱えほど渡すと、文字通り飛び上がって喜んでくれた。


うん、今度10層にまた訓練に来る時とかには、差し入れでも持ってこよう。


スケさんにもと思って何か欲しいものを聞いたら、既に食事で世話になっているから十分だと固辞された。


「そんなことより、どうするんや? この後・・・


一応、スケさんには15層の一連のことを話してある。


「うん、もちろん」


予定通り、全力で戦争を潰しに行く。


犠牲を出さない、なんて綺麗事を言うつもりはない。


ただ、今後を考えて結果が最善となるような方向になるよう、可能な限り良い潰し方にしようとは思っている。


具体的に言えば、目標となるのはこの辺りだろうか。


(1)侵攻は確実に中止させるか、戦力を無効化する


(2)首謀者を可能な限り網羅的に討ち取る


(3)次の侵略が発生しないようにくさびを打つか、対話できる相手を後任に立てる


ルーデミリュ側の情報があまりに足りてないので、その辺りは地上に戻ったクロエエルフにお願いしようと思っている。


10年経ったとはいえ、王都や主要な貴族の本拠地といったものは変わらないだろうから、その辺りを確認したい。


そして……可能であれば、マシな貴族に渡りをつけて、その人たちに仕切ってもらえるよう手配する。


正直なところ、(1)の進軍の阻止に関しては地上なので本当の意味で何とでもなると思っている。


それこそ、地形を変える勢いで土を削って足止めすることも可能だし、付近にあるという湖の水を全部抜く勢いで格納しつつ、それらを一気に放出して隊列ごと押し流してしまうこともできる。


まあ、1リットルの水は1kgだからね。至近距離で加速してぶつけりゃ、よっぽど事前に対策でもしてない限りは、文字通り『初見殺し』になるだろうから。


でも、この場合って魔法で水を作り出したわけではないから、恐らく物理攻撃になるんだよな?


だとすると、咄嗟に大量の水が飛んでくると認識した後、当前のように魔法だと判断して魔法防御したところ、実は物理の水が噴出するわけで、2重に『初見殺し』かもしれない。


まして、術者である俺はその場にいる必要が一切無い。実際に出来るかは分からないけど『逆探知』でもされない限りは、バレる心配も無い。


隠密性とかゲリラとかって意味では、本当にチートだと思う。


だから、そっちについてはギリギリまで無視できると思っている。


でも問題はやっぱり、『終わらせ方』だと思うんだよなぁ……。


本当、この辺りは1から情報を集める必要があるわけだけど…………まあ、何とかなる、というか、何とかしよう。


さて、後はベルトたちが上まで戻ってくるの待ってればいいか。


4層からも一斉突入が始まっているようだし、割と早めに終わるかもな。


………………。


…………そういや、なーんか忘れてる気がするんだよな。何だっけ。


多分15層辺りでやることが……あったような?


…………あ。


完全に忘れてた。


というか、忘れたままオークたちを追い立てるのに隕石メテオ気分であちこちに石を衝突させてた。


…………うん、人工暴走スタンピード装置があったあの山のところに、仕掛けた容疑者2人を埋めっぱなしにしてた。


よし、2人をアジトダンジョンに一旦飛ばした後、スケさんに手伝ってもらってダンジョン外に運び出して、冒険者ギルドにお届けしちゃおう。


後はギルドに任せよう。こっちは戦争を潰すのに忙しいんだ。


さて、フィファウデのギルマスの部屋はどこだったかな…………。

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