第150話 使徒様
「……それで」
あ。
流れ変わったな。
今いる応接間の入口扉や窓へと目線を向けた後、話を続けた。誰か他のシスターがいないか気配でも探ったか?
「うふふ、そんな警戒なさらなくてもいいのですよ。貴方の
……そう言われて警戒を解くかと言えば別なんだけど。
「こちらとしては、
……まあ、ヨンキーファにいる冒険者の
こちらとしても、あまり弱みに付け込んで奴隷化するようなことさえなければ、協力することも
「……あら」
不意に視線を外して向けた入口扉へと向けた直後、コンコンと鳴る音が聞こえた。
……いや、マジか。遮蔽物の先にある魔力とか、微妙にあるか無いか分からんぞこれ。
スキルか? もしかして。
「どうしました?」
「あのっ、……あっ、お客様がいるところを、失礼します……ちょっと、列に並んだ更新希望の中に貴族の方がいて、その……」
ああ、俺を先にしろとか、いつまで待たせるんだ、みたいな
順番待ち問題は前世にも今世にも付きものってやつだよなぁ。いつの世も変わらないもの、ってやつだ。
「ふう……分かりました。申し訳ありませんわね、ロブ様。少し時間がかかるかもしれませんので、お話の続きはまたの機会にということでお願いしますの」
「ああいえ、全然」
こちらとしては聞けることは大体聞けたので。
あ、【転移】関連のことは聞けてない……けど、アレはつついたら藪蛇になりそうだからやめておこうか。何も見てないですわたし。
……そうだ、お手伝いのシスターたちも大変そうだし、待機列関連の対策は提案しておこうかな?
「もし行列でお悩みのようでしたら、『番号札』なんてのを作ってみると良いかもしれませんよ」
「……『番号札』、ですの?」
「ええ。朝とか昼とか決まった時間に配布する札で、『
各時間あたりの収容人数には上限があるから、例えば
区切りを短くして
「この番号札を前日とか朝とかに配ってしまえば、お客様も長時間列に並ぶ必要も無くなりますし、列整理に回るシスターの手間も減ります。番号札も使い回せばいいでしょうし」
家電量販店とかの初売りでよくやってた福袋とかのアレだよね。
スマホ全盛期に入ると、歯医者とか病院とかの予約にもWeb予約なんかでよく使われるようになったけど。
……ブラウザじゃなくてアプリで予約しなきゃいけない病院は、機種が古くて対応してなかったから困ったもんだったんだよな。うん。
病院代がキツくて、電話予約の初診以降は行かなくなるのが常だったけど。
「……素晴らしいですッ! シスター・ヒルデ、早速やってみましょう!」
そう言って、
「……大変助かる話ではありますが、少しはご自覚なさった方がいいと思いますのよ? 既に一部の方からは目をつけられてそうではありますけど」
えっと……はい。まあ、既に何度か言われてますけどね。自重しろって。
でも、これぐらいは多分どこかしらでは思いついたでしょ? 全然実現可能ですし。
「……あ、そうでした。しばらくしたら偽造なんてのも出まわりだす可能性もあるので、使い回せる素材で作った方がいいかもしれませんね。罰当たりでなければ、巡礼帳を
あれ、旅用に濡れていいものになっているのか、割と丈夫な紙で作られていたから、分解して記帳する欄に時間と番号でも書けば完璧なんだよね。
「…………ふぅ。こちらの
「ええ、全然問題ありません。今回の件で似たような状況でしたら、ご負担になってるでしょうし」
「……ありがとうございます、
……えっと、流石にその呼称はご勘弁願えないですかね。うん。
◇◆◇
「おう、戻ってきやがったな」
おや、教会から帰ってきたら
「うん、みんなダンジョンは?」
「ああ、そのことでな。どうやらフィファウデの方が早めに封鎖解除されるらしいから、ぼちぼち戻ることになるって話をしておこうかと思って、ロブを待ってたんだよ」
「えっ、早めに? そうなの??」
どうやら、子爵はキファイブン伯爵にもある程度『周辺の教会への対策』について話を通していたようで、ダンジョンに回していた領兵を半数ずつ周辺教会へと巡回させ、ついでに
その結果、明らかに底上げされた戦力によって深い階層まで潜れる人員が圧倒的に増えた結果、予定が相当早まることになったようだ。
「……まあ、あっしらも薄々は勘づいてやしたけどね、この分で行くと30層までは楽に潜れそうですぜ」
「ロブのダンジョンも28層まで行けたし、『
……そういや、成長ポイントを振らずに『
ここ最近は
この前、パーティとしてのウォルウォレンを見せてもらって、なるほどこれが
斥候のファルコが索敵し、盾役のグスタフが起点となって戦闘を安定させ、精霊魔法でクロエが【
「せっかく他がまだダンジョンに入れてないうちから自由に調整させてもらったからな、身体があったまってるうちに先行してやろうかと思ってよ」
「今のうちに20層に行けば、封鎖解除と同時に
ああ、20層までは今でも潜れるんだっけ。なるほど、
「ロブのダンジョンも『成長』の稼ぎにはいいんだけどな。あれだけ魔物が出るし」
「他に冒険者がいない分、取り合いしないで済みやすしね。安心して連戦できるのは強みでやしょう」
「……でも、稼ぎは悪い」
「だな。魔石だけじゃ武器の
まあ、出所探られるとアレだからね、俺が買い取らせてもらってる。一応、市場価格ではあるんですよ?
しかし、そうなのか。魔物の数って他のダンジョンだと少な目なのか。その上で取り合いになるようだし。
「そんなわけで、挨拶済ませたら出ようと思って待ってたんだよ。急で悪いんだけどな」
おっと、本当に急な話だな。
でもそうだよな、冒険者ってのはダンジョン潜って
「了解、それじゃすぐにでも?」
「ああ。そうそう、クロエの件については時期が決まったらギルドにでも連絡入れておいてくれ。2週間ぐらい余裕あれば確実に地上で見るとは思うからよ」
「よろしく」
……まあ、正直いつでも会いに行けるしね。
あ、そうだ。
「今度、俺たちも一度フィファウデに潜ってみることになるかもしれないから、その時は声かけるよ。何か
そうだった、まだ手付かずだけど『
「ああ……まあ、確かに『普通のダンジョン』ってのも見ておくのも悪くはねえと思うぞ?」
いや、そういうことではないんだけど。
「とりあえず了解だ、決まったら連絡くれや。それじゃな!」
「次はダンジョンで、でやすかね?」
「また温泉入りに来るから」
グスタフも片手を上げて、拠点から出て行った。
……うん、居間とかで度々顔合わせてた面子がいなくなると思うと、ちょっと寂しさはある。
ま、今度はこっちから顔見せに行けばいいだけだし。何なら、ダンジョン経由でいつでも連絡は取れるだろうしね。
そうそう、他の予定ってやつも進めなきゃだよな……『図書館閉架書庫RTA』なんてミリも進んでないじゃん。
俺は、全ての項目が埋まった『女神像配布』のメモを【空間収納】に入れつつ、ちょうど子爵家へ
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