運び屋ロブと銅級冒険者
第151話 ウェスヘイム邸へ
「それじゃ、子爵は王都に?」
「ええ、本当は年末の社交会に合わせて行く予定を前倒しして王都入りするみたい。教会からの通達前に出る話もあったみたいだけど、流石に辻褄が合わないってことになって、第1報を待ってたようだけど」
リナが拠点へと迎えに来てくれたので、ウェスヘイム邸へと向かっている車内で子爵側の動向を軽く聞く。
何せ、ここ丸5日ほどは世間の情報から離れていたもんだから、断片的にしか状況を把握できていない。
時系列で言えば……
配布1日目(昼)必死に地図埋め、進捗70%
配布1日目(夜)ヨンキーファを含む主要な教会に女神像を配送、進捗50%
配布2日目(昼)地図埋め完了&教会内で検証が行われる
配布2日目(夜)全ての教会に配送完了
配布3日目(昼)拠点で爆睡中&冒険者ギルドへ教会から怪しげな依頼が出る、『女神像の加護』が話題に
配布3日目(夜)冒険者ギルドで腕相撲大会&魔法試射大会
配布4日目(昼)疲労でひきこもってる間に教会では長蛇の列
配布5日目(昼)ようやく事態に気付いて教会に向かった←イマココ
……といった感じか。
配布の初日より前も、取説作ったり箱作ったりで働き詰めだったから、配り終えて爆睡した上に翌日ダラダラしてしまったのは勘弁してほしい。
いや、正直
そこを、予想外に教会が検討を早めて、女神像が届いた翌日に公開に乗り出してくれた結果の、あまりに早い展開となっている。
ちなみに、ヨンキーファは色々と把握していた
ダンジョンに潜る現場の冒険者たちを上手いこと捌いて、無事に
さておき。
面会については子爵が不在とのことで、再び領主代理でワルター氏が会ってくれることになった。
ひとまず、周囲の教会に向けた派兵の状況とか、現地で問題は起きてないかとか、一例として聞いておきたいなと思っている。
「お父様は、子爵の立場で教会の方針に直接意見するのは難しいと思ったようね。伝手のある貴族家に根回しした上で、早めに議会に持ち込むつもりみたい」
子爵は
仮に教会や冒険者ギルドとの協力が取り付けられれば、例えば女性を優先する時間帯やソロを優先する時間帯を作り、その間は冒険者ギルドから監視を派遣する、といった体制を組むことも出来ると思う。
結局は冒険者全体が強化されれば、冒険者ギルドとしても入ってくる納品や依頼といった形で潤うわけで、上位ランクへの
あるいは、まだ混み合っている時期であれば『終業後に確実に
一応、ベルト達から懸念が出た際に、その辺りの案と併せてリナ経由で子爵には伝えてもらっている。
最終的には貴族議会・教会・冒険者ギルドによる
◇◆◇
「ヨンキーファ周辺の6つの教会については、兵の配備が完了しており、今のところ問題の報告は上がっていない。ただ、今朝からぽつぽつと冒険者が来ているという話は報告されていたな」
ウェスヘイム邸に到着し、通された応接室でワルター氏から現在の状況を聞いている。
今のところは大きな混乱もなく、順調に進められているようだ。
あれ? そういえば。
「この辺りの教会は、全てシスターが派遣されているんですかね?」
クララにも
教会は恐らく元となる巡礼帳が作られた当時──旧道が使われていた頃から位置は変わっていないのだろうし、そうなるとダンジョン産業の隆盛で寂れる集落もあったとは思うんだけど、教会機能は維持されてきたのだろうか。
……届けた教会が、実は無人だったとか無いよね?
「そうだな、それぞれの教会に到着し、現地のシスターに挨拶は済ませていると聞いている。実際にギルド経由での連絡が届いているのが何よりの証拠だろう」
あ、そういえばそうか。無線機も無ければ衛星電話も無いから、僻地から本来なら連絡の取りようがない。
ギルド機能が維持される程度には、集落が維持されている、ということのようだ。
……ちなみに後でクララに聞いたところによると、全ての教会は100人程度であれば最低限の食事が維持できる魔道具が備えられている、らしい。なにそれ凄い。
「ヨンキーファの領兵の方は、既に
「本日送り込んだ分で約半数、といったところだな。まだ混雑していない周囲の教会に交代を送り、あと3日のうちには完了する見込みだ」
なるほど、領兵は現在100人ほどという話だったので、まずまず順調といったところのようだ。
「それじゃ……領主代行も、既に?」
「まだ継いでないからワルターでかまわない。『女神像の加護』の方はまだ済ませてないな。領主が出てしまっている状況で屋敷を空けるわけにもいかなくてな」
言い回しを考えてしまったが、名前呼びで構わなかったらしい。
そして、まだ
でも、それならせっかくだし、この場でやってもらえばいいんじゃないかっていうね。
チラリと同席しているリナに目線を送ると、その意図にすぐ気がついてくれたようで、片手を挙げて室内にいた執事などの人払いをしてくれた。
「……それは?」
すぐに
「こちらは教会に届けられたものと同じ、女神デメディシナ像になります。中に入っている女神像に触れることにより『女神像の加護』が得られるので、もし宜しければこちらで済ませてはいかがかと思いまして」
「……なんと」
「もし今後もしばらくお時間が取れそうにないようでしたら、実施時間と説明時間で
まあ、ワルター氏のスキルは把握していないから、成長ポイントを振った結果がどう活かされるかは分からないけど、無いよりはあった方が間違いないだろう。
成長の挙動を把握しておく、ということ自体にも、今後の運用を考える上では意味があるだろうし。
「お兄様、こちらはお父様にも既にお試しいただいているので、動作は問題ないかと思います。今のうちに受けておいて損はないかと」
「……なるほど、父がいつ『女神像の加護』を受ける時間があったか分からなかったが、彼が以前に持ち込んでいたということか」
「まあ、そういうことになりますね」
あの時はまだ配る前だったから、実物を見なければ本当に与太話だと思われかねなかったからね。
「わかった、その申し出を有難く受けよう」
それじゃ早速、蓋を開封して中身をワルター氏の前に用意しましょうか。
……と、女神像を持ち上げた時だ。
『神託メールが1件届いています』
「は? うぉっ……と、危っな」
ステータスオープンが表示され、危うく女神像を取り落としそうになってしまった。
……女神様、タイミング考えてってば!
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