第25話 聖白銀教会にて
教会へと案内され、中の個室へと通してもらう。
先ほどのシスターがお茶を入れてくれたようで、席に座るとテーブルにカップが置かれた。
「ありがとうございます、いただきます」
こちらは警戒してませんよという意味も込めて、まあ実際にそんな初撃毒殺なんてことも無いだろうと思って、お茶をいただく。
うん、程よい温度で飲みやすく、また先ほど貴族街から走った疲れが取れていくような気がする。気持ちも落ち着き、リラックス効果もあるようだ。
シスターもテーブルを挟んだ椅子に座る。その隣には
ああ、シスターが残っているのは、流石に年端もいかない男女とはいえ同じ部屋で2人っきりとはいかない、という意味もあるのだろうか。
「あの、1つお聞きしたいのですが、カタリーナ様のところへは……?」
数口飲んで一息ついたところでカップを置くと、シスターから質問が来た。もしかしたら、挨拶の順番的なものを気にしてるのかもしれない。
「はい、こちらの前に貴族街の方でウェスヘイム卿のお屋敷に伺ったのですが、やはり
「そんな、助けていただいた方に……ではこちらから
おっと、それは逆に困る気遣いだ。いいんだ、革鎧のお嬢と顔合わせしなくて済んだ幸運はそのままにしておいてくれ。
「お気遣いありがとうございます。ですが、冒険者ギルドと今回関わったシルバーランクのパーティの方々から報酬となるものは十分に受け取る予定になっておりますので、これ以上の礼は不要と言伝をお願いしてきたところです」
「まあ、そうだったのですね。ウェスヘイム卿のご息女を助けられたのですから、感謝の気持ちは多少なりと受けられたでしょうに……。ロビンソン様は欲のない方ですのね」
シスター様、勿体無いというお気持ちを隠そうともしてない。聖魔法の教会なのに銭ゲバは許容されるのか?
「ああ、私は冒険者ギルドでの登録でもロブの呼称で通しておりますので、ロブとお呼び下さい」
「ではロブ様と。あら、私ばかり話してしまって失礼しましたの。ほら、クララ。あなたお礼は言ったのかしら?」
「あっ、はい。改めて、助けていただいてありがとうございました」
「いえ、私もそこまでのことはしていません。ただ、あの時は冒険者ギルドで3人が戻ってないことを聞いて、気持ちばかりが先走ってしまい、独り森に向かってしまったところを
一応、冒険者ギルドにはそんな感じの話で通してある。
「でも、その事情を話して悪漢たちにその場で
……なんかさっきの銭ゲバ
「助けになっていたとしたら、帰還後にギルドやベルトさん達から私の無謀をこってりと絞られたあの時間が報われます」
と返しておく。
「あの……」
おっと、
「やはり、私たちと一緒のパーティにいた、オットーという方は戻られなかったのでしょうか……?」
……あー、さっき『3人が戻ってない』と言ったから、思い出したってことか。
「……大変申し上げにくいのですが、担架代わりに使っていたあの板の付近に、そのご一緒だった男性の着ていたと思われる鎧があるのを、森に向かう途中で見ています」
「そう、でした……か」
そう言うと、
「へレーネに何と説明したら……」
ヘレーネ……そのオットーの関係者だったのだろうか?
「捕虜だった中に、その少年の妹さんがいたようですの」
……うわぁ、なんかあの時の話と色々と繋がってきたな。
『クッ……あのガキを殺ったのが、こうも響くとは。他に街を探れそうな奴はおらんのか』
あの貴族かぶれ伝令は、そう言っていた。
世紀末は野盗の残りは10人と言っていて、あの
伝令が言っていた内容から、その
……まさか、その
でもそうなると、オットーが『2人とパーティを組んで森に向かった』ことにも色々と意味が出てきそうだな。
例えばそう、『身分がありそうな奴とパーティを組んで連れてこい』、とかな。
これも指示だとするなら、あいつらは本物の
「……実は、そのオットーさんの装備品については、こちらで回収してあります」
「えっ……!」
「慰めになるかは分かりませんが、冒険者ギルドの方には兄妹への脅迫についても伝えておきましょう。それからその妹さん、ヘレーナさんに、調査後は遺品としてお渡しできるよう、ギルドの方には申し添えておきます」
「……ありがとう、ございます」
残念ながら既に亡くなった人に出来ることは無いが、何かあるとすれば、せめて返せるものは返しておくぐらいだろう。
◇◆◇
「……失礼しました」
しばらくして、落ち着いた
シスターはお茶を淹れなおしてくれるために席を外している。
「ところで……あの勘違いなら申し訳ないのですが、私の方に何かお話があるのでしょうか? リナ……カタリーナ様の方は面会を辞退されておられたようなので」
おっと、結構鋭い。そうそう、ここからが本題だった。
「実は、カタリーナ様やクララ様を探しに向かったのは、街に着いた後で発生した私事のご相談があったからなのです。下心あって近づいたようで申し訳ないのですが」
「ふふっ、言ってはなんですが、冒険者ギルドでは女性だからと近寄ってくる方々が多いので、下心には慣れていますから。あ、もちろん冗談ですよ?」
割と気の弱そうな印象だったけど、話し出すと強そうだなこの人。極度の人見知りとかそう言う感じか?
「では、お言葉に甘えまして……実は、【蘇生魔法】が使える方を探しているのです」
「【蘇生魔法】、ですか」
「ええ。ただ必要になるのはもう少し先にはなるのですが、一緒にダンジョンに行ってくれる方という条件も加わるので、先に探しておきたいなと思いまして」
「そんな深いところに潜られるとは……アーティファクトでもお探しなのですか?」
あ、ダンジョンで一緒に潜って【蘇生魔法】って言うと、そうなるか。大前提が蘇生は死後2時間だもんな。
「いえ、浅い層で事は済むんです。ただ、事情があって可能な限り関係者は少ない方が助かるので、
「確かに、私どもの教会もそうですが、ワムワサフロスにある本部にも多くの問い合わせがあったとかで、高位の神聖魔導士たちが多く派遣されているのは確かですわね」
丁度シスターがポットを持って戻られたようだ。お茶のお代わりを注いでくれた。
「でもそれでしたら、せっかくこうやって知り合ったのですし、クララをお連れしてはいかがですの?」
「し、シスター!?」
「え、使えるのですか? 【蘇生魔法】」
「は、はい、まだ、実際に人に使ったことは無いのですが……」
マジか。そんなに簡単に【蘇生魔法】って使えていいものなのか?
いや、そもそも全然知らないから、それが簡単に覚えたものなのか、厳しい修行に耐えた結果なのか、はたまたギフト持ちだったのかは定かじゃないんだけどさ。
でも、決してそんなそこいらにいる人が覚えられる魔法ではないだろ。
「もっとも、実際に使うにはダンジョンでの『成長』を経て、ある程度の回数が使えるまで
なるほど、スキルを使う前にダンジョンでの
恐らく
「なので、クララの『成長』に付き合ってダンジョンに行ってもらえるのであれば、非常に都合がいいんですの。何せ、引っ込み思案なこの子とカタリーナ様の勝気な性格では、なかなか信用できそうなパーティメンバーが増やせそうにありませんから。ようやく
……あー、なるほどなるほど。抱き合わせ商法なのね、
「もしご同行いただけるのであれば大変嬉しいのですが……先ほど申し上げた通り、少し先のことにはなるのです。何せ、私がギルドに登録したのはつい最近で、まだ
「えっ!? そうなんですの?」
「はい、ですから、お2人をお待たせさせてしまうと申し訳ないなと……」
「でもまあ、そんなに時間はかからないでしょう? あなたの
え?
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