第26話 だだ漏れ魔力

ちょっと待ってシスター。


もしかして【鑑定】持ちであらせられるの?


そういや最近、あのMP精神力の減った感じが無いなーと思ってたら、ステータスオープンで久々に見た値がものっ凄い上がってて。


HP体力とかもそれなりに上がってたんだけど、そんな比じゃない。最初は3桁で突出してるなと思ってたら、既に4桁近いんだもの。HP体力の20倍よ。


話を戻すとだ、鑑定持ちがいる可能性とか全然気にしてなかったな。


カルマの鑑定はされても冒険者ギルドですらスキルは自己申告だったし。(一応、【土魔法】と書いておいた)


「あら、もしかして隠されてましたの? でも、ある程度のINT知力MND回復力MP精神力を持った方であれば、容易に見抜かれますわ」


「そう、ですね。恐らくは私よりMP精神力はあると思いますし、アイアンDランクまではそんなにかからないと思います」


シスターの言葉に頷きながら目隠れクララも見えていた風の言葉を続ける。


あー……そうなんだ、割と普通に分かるものなんだ……。


こいつはマズい、か?


マズいよな。この前も隙だらけを指摘されたばかりだもんな、うん。


「その……実は、私の魔法は全て独学なもので、相手の魔力を感知する、みたいな方法があることすら知りませんでした」


「「…………。」」


なるほど、絶句ですか。非常識ここに極まれりと。


いや仕方ないじゃない、実際のところ魔法なんてない世界の常識しか知らないんだもの。


「……ええと、独学?」


「そう、ですね」


「この前に使われていた土のスキルとかも、ですか?」


「まあ、はい。物心ついた時には、ああいった遊びが好きで、色んなところで掘ったり削ったりしていましたから」


ゲームビルド歴は小学生からと長いから、まんざら嘘というわけではない。


「教会などで魔力感知の講習を受けたことは……」


「そういうのがあるのですか?」


シスターは手を額に当てて顔を横に振り、目隠れクララもまた手を顔に当てて天を仰ぐ。


「すみません、田舎育ちなもので、養父ちちから教わったものが全てなのです。ですから、教会なども通ったことはなく、魔法は遊び感覚で続けてきた独学なのです」


これは、一応ボスギルマスとラビット氏の話をしていた時に出た彼のエピソードで、カバーストーリーとしては適切だろうと勧められたものだ。


案外、成人してから街に出てきて、突然に冒険者として活躍するケースも珍しくなく、よくよく調べると親や養父母が落ち延びた貴族の冒険者で、教養や教育が身形みなりの貧相さには不釣り合いに高いことも稀にあるそうだから。


「なるほど……そうでしたの。でしたら、この後お時間あるようであれば講習を受けていってはいかがでしょう? こちらでも預かるシスターが講習を受けていない場合に備えた施設がございますので、簡単ではありますが基本は学んでいただけるかと思いますの」


こちらとしては渡りに船だけど……なんかすごいグイグイくるな、このシスター。圧のある笑顔で逃さんぞ・・・・感が強い。


もしかして、コブカタリーナ付きという条件ってそこまで事故物件扱いなの?


一応、まだ3の鐘半11時だから時間はあるが、いいのだろうか。


「うふふ、いいんですのよ。私も下心ありでご提案させていただいてますから。貴方のような高いMP精神力をお持ちの方と知り合って恩を売っておけば、何かあった時にお願いしやすいですもの」


あー、全然隠す気もないんだな、この銭ゲバシスター。


もしかして、親切を押し付けすぎないために茶化してくれてるのかもしれないけど、こちらとしても仮に彼女クララじゃないにしても、【蘇生魔法】の伝手つてが出来るのは願ったりだ。


「それでは、お言葉に甘えさせていただきます」


『お前から誰かを頼らないと、相手もお前に頼れない』というのを言ってたのは、どの動画配信者だったかな。


なんか漫画からの引用だとは言ってたけど、文化人類学の贈与の構造がナントカって話もしてた気がする。


恐らく無難にかわして早めに退散することも出来たとは思うものの、ここは相手に頼る事によって関係性を残しておきたいと思った。


◇◆◇


「はい、宜しいでしょう。基本はこんな感じですのよ」


「ありがとうございます」


魔力をシスターから流してもらって感覚を掴んだ後、いわゆる『丹田』に力を込めて呼吸する、といった感じの鍛錬を繰り返すうちに、何も意識していなかった時と現在とを比べて『魔力が入ってる』という状態の差が分かるようになってきた。


どうやら、何となくで今まで『身体強化』に近い魔力の循環をしていたようで、全身から魔力を常時だだ漏れにしていたようだ。


運動性能とかが調子良かったのも、そういった効果があったのだろうか?


さておき、魔力の有無が意識できるようになったことで、確かに他の人が魔力を持っているかどうか、その『圧』みたいなものが感じられるようになっていた。


実際、目隠れクララとシスターの体内に魔力の存在を感じる。やはりシスターの方が強いような気はする。


「今はまだ有るか無いかみたいな漠然としたものかもしれませんが、鍛錬を続けることで相手の魔力がおおよそ測れるようになりますの」


なるほど、これが魔法使いかどうかを見分ける、ある種の【鑑定】としても使えるようになっているわけか。


「逆に、自らの魔力を意識をすることで魔力の漏れ出る量を調整して、隠すことも出来るようになるはずですの。まあ、不自然に魔力が抑えられている人ほど、隠されている魔力の量が多い傾向にあるのですけどね」


あー、まあそうなるか。というか、その隠すために訓練したようなものだもんな。


「今はまず、日常生活でもお腹の下丹田に溜め続けることができるように慣れることですわね」


「そうですね、溜めた状態でより鮮明になりましたが、ロブ様はMP精神力が相当高いようですから、見る人が見たら何かに利用しようと寄ってくるかもわかりません。慣れるまでは、以前のような全身循環は控えた方が無難だと思います」


そうか……まあ、街歩き程度には過剰な体力だったとは思うし、薬草探しも簡略化されたしで、しばらくは意識して溜めるように訓練しようか。


ほんの4半鐘30分ほどのコースだったが、効果覿面てきめんってやつだった。


こうなると、ダンジョン行きの件も断りにくい感じにはなってくる。


実際の話、お嬢については苦手ってだけなので我慢すりゃいい話ではあるし、目隠れクララの成長とラビット氏の蘇生はワンセットのようなものだから、そこは工程として面倒とはあまり感じない。


そうなると、こちらの都合と彼女たちの都合とのすり合わせになるわけだけど……。


「ところで、ダンジョン行きの件ですが……」


「あらあら、前向きに検討いただけますの?」


「まあ、都合が合えばなんですが、こちらは来週いっぱいまでは冒険者ギルド講習を受ける予定で、それが済めばストーンEランクに上がれる予定です」


まあ、手元の薬草でも納めればすぐにでも上がりそうだけど、ついさっきも一般常識の欠如を思い知ったので、ここは1つクリーンインストールしておいた方がいい。


「その後は野盗の討伐で知り合ったシルバーBランクウォルウォレンベルトたちが来る2週間後までにアイアンDランクまで評価を稼ぐ計画になっています」


「えっ。2週間で、ですか?」


「はい。ギルドで話を伺った限りでは、達成できそうだと判断しました」


別にこれはハッタリで言ってるわけではなく、上薬草などを合計300本〜900本納品するのは、ウッドFランの講習期間も合わせて3週間あれば楽々達成できてしまう量だからな。


まして、ムルタクア川の上流を探して魔力草が見つけられたら、より少ない回数でも達成できる可能性がある。


何せこちらには、安全かつ・・・・遠隔で・・・採集する手立てがあるのだから。ぐへへ。


「来週辺りを目処にこちらの教会に伺おうかと思うので、最短で3週間後ぐらいにダンジョン街へ向かう計画で問題ないか、カタリーナ様とも確認を取っておいていただけますか?」


「……決して無知無策に言ってるようではございませんのね」


「そのようです……。わかりました、カタリーナ様にはその旨でご相談しておきます」

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