第120話 後衛実技試験

「今回の件で改めて思いましたね……他人を護ることがこれほど難しいとは。もし学園へ入れるなら、我が身ぐらいは護れる強さを身につける必要性を痛感しているところです」


何でも、彼女は騎士団長として辺境伯に仕える父親の血を継いだのか【騎士】スキルを持っているらしく、盾や短槍を得意としているんだとか。


へぇ……盾職か。いいな。


学園でダンジョンに潜るにしても、今まではスケさんがクララの護衛も兼ねていてくれてたけど、スケさんがいないダンジョン探索となると必要な役割ポジションだ。


俺がスケさんと出会った頃も、格納門砲ゲートキャノンを主体で動くつもりだった時に、敵対心ヘイトを受け持ってくれるパーティメンバーが欲しかったんだよな。


咆哮ウォークライ】や【挑発タウント】なんかで敵を惹きつけ、高いVIT防御力と硬い重装備への適性で被弾を受け持ってくれるから、リナのような遊撃や俺のような奇襲や後衛を主体メインとした戦闘職が動きやすくなる。


この先ダンジョンの深い層に行くと、積極的に回復職を狙いにくる嫌らしい戦い方をする奴も出てくるようだから、クララを護りながら戦うためにも必要になるだろうしな。


もし俺が学園から途中で抜けるにしても、そういった役割の仲間がいれば、リナやクララの探索がしやすくなるんじゃないかな。


可能であれば、こちらに引き込めないだろうか……皆が揃って無事入学できたら、交渉してみるのも良さそうだ。


「……次、680番から689番は待機場へ、630番から639番までは前へ」


おっと、ブート嬢と話をしている間に、俺たちの順番が回ってきたようだ。


「カタリーナお嬢様、そろそろ」


「ええ、それではお先に。お互い頑張りましょう。また入学後にお会い出来ることを楽しみにしておりますわ」


「こちらこそです。皆様に救っていただいたご恩、是非とも入学後にお返しさせていただきたいです」


お、言質げんちいただきましたよ。こいつは渡りに船ってやつじゃないですかね。


試験が終わった後にでも、リナとクララに学園でのダンジョン探索についても含めて、色々と相談しておこう。


◇◆◇


「ロブ、随分と遠慮してたんじゃない?」


いや、そりゃそうでしょ。


別に【空間収納】をひけらかそうとは思ってないんだから。


それでも漏れ出てしまう可能性があるぐらいだし。


俺は『後衛』の実技試験を受けるに当たって【土魔法】と申告し、【土球アースボール】を撃った……ような感じで、適当な大きさの土団子を格納門砲ゲートキャノンで射出した。


完全に魔法の想像イメージ頼みで、『若干ながら放物線を描いて的の芯をちょっと外したぐらいの場所に当てる感じでオナシャス!』……とお任せしてみたところ、流石というか何というか、依頼オーダー通りの結果を出してくれましたよ。センキューセンキュー。


ちなみに試験内容はというと、30mの距離にある50cmほどの的に、3発の遠距離攻撃を撃ち出すこと。時間制限は1分以内。


攻撃方法は申告制で、遠隔武器または魔法での攻撃。クロスボウと弓は貸し出しがある。石を投擲してもよい。


魔法は常識的な・・・・範囲・・で威力を問わないものの、操作コントロールできないものは不可、とのこと。


特殊な体質の場合などは、事前の申告があれば別日に会場を用意し試験を受けることも可能、だそうだ。


「むしろ、リナは随分と派手だったんじゃ?」


「……今日は腕輪ブレスレットも外してきたし、的を壊さないように調整はしたつもりだったのよ」


……まあ、周りが割としょぼいから相対的に目立った、というのはあるとは思うけどね。


そもそも、クロスボウですら的に当てられる人が少な目ではあるんだよな。恐らく前衛職の志望者か、あるいは非戦闘職で特に練習とかまではしてこなかったか。


生兵法なまびょうほうで護られる側が攻撃しようとして、背中から撃たれたらたまったものではないので、撃つべきではないことだけ自覚してもらうことは悪くないと思うけど。


そんな中で、大音量と立ち昇る煙とで注目を集めていたのが、リナだった。


リナの隣に並んでた女子から悲鳴が上がっていたけど、可哀想だったな。


唐突に横に熱源が発生して唖然としてたかと思えば、飛んでいった先の的にぶち当たってTNTもくやという爆発を起こしたとなれば、そりゃ怖くて震えるだろうに。


……普段は【火属性付与】ばかり使ってて、【火玉ファイアボール】なんて撃ち慣れてないから、出力調整ミスったんでしょ? 恐らくは。


ダンジョン探索での諸々でINT知力とか【火属性】とかが上がってることなんて、すっかり頭から抜けてたんじゃないんかなって。


実際、腕輪ブレスレット外したから大丈夫、ではなかったっていう。


ちなみにクララは普段からクロスボウのボルトに【聖属性付与】をかけて撃っていたので、使い慣れた攻撃手段により卒なく的へと当てることができていたようだ。


さて、次は『前衛』……かというと、現在も会場で『後衛』の残りが実施されている通り、各会場が一通り済まないと場所が空かないようだ。


各会場の終了目安は5の鐘半15時とのことで、その辺りを目安に会場を交代してもらいたいという。


そのため、この時間を使ってクララの『戦闘補助』試験を終わらせてしまおうか、ということになった。


◇◆◇


「あら、またお会いしましたね」


……『戦闘補助』の会場にいたのは、学園長エロフだった。


しかも、どうやら受付というか、そのまんま測定員でもやるつもりのように見える。


ちなみに『戦闘補助』は攻撃性が無いスキルを扱うため、会場はいわゆる体育館といった感じの室内練習場のような場所だ。


ふと見回すと、2階に野球場や陸上競技場のようにずらりと据え置きの座席が階段状に並んでいるので、もしかして入学式や卒業式などもここで行うのかもしれない。


「こちらでは『戦闘補助』のスキルを持つ参加者の測定を行っているわ。それで、どなたから測定を受けるのかしら?」


「あっ、受けるのは私だけ、です。2人は付き添いで来ていただいてるので」


学園長の問いにクララが遠慮がちに手を挙げて応えると、学園長は若干意外そうな驚いた表情を見せた。


「あら、そうなのかしら? 残りのお2人も何か申告事項アピールポイントがあるのなら、加点になるのよ?」


……うーん、でもこれ恐らく必須でも無いんだよな?


リナの場合は【火属性付与】が該当するのかもしれないけど、そちらは別に『前衛』で使ってみせてもよさそうだし。


俺の場合はなぁ……当然ながら【空間収納】なんて見せる気はないし。


ちなみに、世間における【収納ストレージ】ってやつの希少度は、商業ギルドでフランさんとポーション関連の受け渡しの際に、雑談で出た話の流れで聞くことになった。


類似の機能を持つ魔法袋について言えば、『時間遅延なし』『所有者権限機能なし』『一辺2mの立方体』ほどの容量でも、中古で大銀貨5枚50万で飛ぶように売れる、とのこと。


そのため、『知る限りでは聞いたことが無いですが、もし【収納ストレージ】なんてスキルを持っている人がいたとしたら、商家が必死になって契約を持ち込むでしょうねー』、だそうだ。


とりあえず『アハハー、確かにいたら便利そうですもんねー』と誤魔化しておいたけど。実際はあったらあったで、そんな気楽なスキルでもないんだけどね。


なお、魔法袋での市場価値で言えば、『所有者権限』が付くと桁が2つ違うそうで、さらに『時間遅延』の倍率と『容量』の倍率が値段に積算されるとか。


つまるところ、ラビット氏の魔法袋なんてのは白金貨でも買えないって話なんだよなぁ……。


本当、あんな魔法袋を飯の代わりに差し出すステラワルトあの森の先にいるという元冒険者の老人とは、一体何者なんだろうっていうね。

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