第107話 指名依頼
「ええ天気やなぁ」
馬車が舗装された道を走る
外は確かに、秋晴れのよい天気。涼しすぎるほどではないこのぐらいの季節って、いいよね。
「スケさん、紅茶とコーヒーどっちにする?」
ラビット氏が魔法袋からマグカップを取り出して
「ほんなら紅茶でも貰おか」
スケさんの返事に、ポットから注がれる紅茶の香りが室内に漂う。こういう時、時間停止の魔法袋ってやつは便利だよね。淹れたてのお茶とかが冷めずに保存できるから。
「レモンとミルクと砂糖はお好みでどうぞ。ロブ君はどうする?」
レモンと砂糖がそれぞれ入った小瓶と、これまた小さなポットに入れられたミルクが乗った
「俺も紅茶にしようかな」
「ボクはコーヒーを貰おうか」
スケさんの横を陣取るお馴染みヴァル氏は、当然かのようにラビット氏へと
「……ホント、どういう状況なのかしらね」
リナは紅茶を受け取りながら、ぽつりとそう呟いた。
いわゆる箱馬車と呼ばれる、外見が貴族家のそれと分かるように装飾された客車の中は、俺たち4人に加えてリナとクララがゆったりと
奥にある
ヴァル氏の出した同じくメイド服姿の
◇◆◇
「指名依頼、ですか」
「ああ。君に……
応接間に通された俺とスケさんが、軽い挨拶もそこそこに本題へと移って切り出されたのは、ウェスヘイム子爵からの『指名依頼』だった。
来年からリナが入るという学園の入学試験に護衛として同行してほしい、という内容については理解しつつも、いくつもの疑問が浮かんだ。
領を超える護衛って
基本的に、直接依頼する時は依頼書を冒険者本人に封蝋して渡せばよくて、それをギルドの窓口に出せばいいだけだ。
本来は指名依頼なんて最低でも
「そうだな……まず順を追って言えば、本来であれば女性の冒険者パーティへと依頼するつもりで、準備はしていた。しかし、そのパーティの都合がつかなくなってしまい、急遽再検討しているのが現状だ」
うーん、なるほど。そりゃ準備をしてないってことは無いよな。
嫁入り前の貴族家令嬢につかせる冒険者としては、女性で固めるのが
もっとも、世の中には
都合がつかなくなった、というのは、冒険者だけに怪我とかはつきものだし、そういったことなのだろうか。
いずれにせよ、その結果としての直前の冒険者再検討中であることは理解した。
「ただ……状況が少し変わってしまい、選定にいくつかの条件の追加が必要になってな。その条件に合致する冒険者として、君に打診している」
……妙な言い回しだな。状況が変わった、というのがどうも気になる。
そして話の流れからすると、
「その条件……というのは?」
「リナの入学試験中も学園に同行できる人員……つまり、入学試験をその日に受けてもらえる年齢の者、ということになる」
◇◆◇
「うーん……」
「何や、今更依頼の内容が気になっとるんか?」
スケさんがボリボリと煎餅を齧りながら訊いてきた。ご明察である。
ラビット氏が取り出した本日のお茶請けは、醤油とざらめのお煎餅のようだ。ナヤボフトで仕入れた米で作る米菓子シリーズ、だそうな。
甘いのとしょっぱいのを一緒に出すとは、なかなか
「でもやっぱり護衛依頼、でしょ? 俺で良かったのかなーって」
「まあ、思惑はあるんやろうけどな。ワイが王都までは同行してくれるんやないか、とかな」
……勇者を同行してほしい案件ってのは、むしろ心配になる話ではあるんだけど。
子爵からは、『不確定情報ゆえに滅多なことは言えないが、王都への道中および学園での入学試験中、
とにかく緊急事態が発生した場合はリナを逃がすことが最優先で、可能であればクララも逃がしてほしい、とのこと。
正直、『え、逃がさなきゃいけない事態とかが予想されるの?』って思ったけど、まあ逃すことについては
ちなみに、『領を超える護衛依頼』の件については、実は今後スケさんとダンジョンに潜ることを見込んで冒険者資格を復活させていたラビット氏のおかげで、身内で固めたままうけられることになった。
ラビット氏は、納品まわりの評価で最終的に
「
……だから変なフラグは立てないでほしいなって。スケさん。
まあ確かに『
もちろん、その代わりに『緊急依頼が発生した際には基本的にうけなければならない』みたいな義務が発生するようだけど、この前のような場合は義務じゃなくても出来る限りで動くとは思うからね。
「それに、そんなヤワではないやろ? 大丈夫や、ゴブやブタを相手できるんやったら、そこいらの
「うん……比較対象が無いから分かってなさそうだけど、あのクラスのボスって本当は30層とか40層とかでパーティで挑むやつだと思うよ?」
……まあ、その辺りは薄々勘づいていたけどね。
だって、ゴブ師匠もブタさんも長年スケさんに鍛えられてきたって話だし、何度も
俺があの短期間でも
「なに、心配しなくても王都までの道中はこのヴァルキューリャが保証するさ。快適な車内で旅を楽しもうじゃないか」
そう言いながら、ざらめを口端につけた
でも、確かに快適にも程があるって話なんだよなぁ……このヴァル氏によって完全に魔改造された馬車は。
外観こそ、子爵家の家紋がついた貴族相応の装飾がされた馬車、のように見えるんだけどさ。
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