第108話 魔改造馬車

子爵から依頼を受けた翌日、毎度のレーヴァンの料理講習にかこつけてヴァル氏が来た際のこと。


王都までの旅で来月の頭から1カ月ほど留守にすることを伝えたら──


「王都か……いつ出発するんだい? ボクも同行する!」


──と、またもやヴァ京院が現れましてね、ええ。


そして、リナやクララ、ラビット氏を交えて旅の計画を練っていたところ、以前にスケさんが言っていた【結界】の魔道具の話が出て、今回の依頼内容を考慮しても取り付けておいた方がいいかも、という話になって。


翌日に子爵家へ訪問し、実際に乗る予定だった子爵家相応の装飾がされた箱馬車を下見したところ、ヴァ京院が『【結界】とか・・の取り付けを行うから預からせてもらいたい』と言いだして、その箱馬車を持ち帰った数日後。


納車されてお披露目になったのが、この魔改造された姿というわけだ。……まあ、一見しただけでは分からないのだけど。


しかし、扉を開いた瞬間にわかる、奥行きの違和感。


なんということでしょう、4人が膝をかがめて座るのがやっとという狭さだった室内が、24畳ほどもある広々とした、ゆとりある空間に。


中を探られないよう閉め切られていて、木窓と僅かに空気用の隙間があるばかりだった薄暗い室内は、天井に取り付けられた魔道具で明るく照らされ、箱馬車の外観と同サイズの透明なガラス窓から外が見える解放感あふれる車内へと一変。


ガラス窓は、外観からは魔道具で隠蔽され元の装飾された見た目を保っているので、室内から覗けることも分からない優しい設計。


もちろん予定されていた【結界】の魔道具も取り付けられていて、被弾した際も魔石を室内から交換すれば再度張り直せて安心です。


……うん、なにこの『光と空間の魔道具師』って呼ばれそうなTAKUMIの仕事は。ゆったりとしたピアノ曲が流れてたし。


リナからは『こんな古代魔道具アーティファクト並の代物、絶対に王宮に知られるわけにはいかない』と喜びの声もいただいておりますよ。ええ。


その後、ラビット氏の監修で4畳ほどの台所キッチン周りが整えられ、10畳ほどの居間リビング食堂ダイニングに椅子や長机テーブルなどが運び込まれた。


台所キッチン居間リビング食堂ダイニングに接したカウンターキッチンになっているので、狭苦しい感じもない。


あと、6畳ほどを2部屋に区切って仮眠室を作っておいた。以前も2階を改装するのにお世話になったことのある【風魔法】使いの業者さんに、寸法を指定して二段ベッドを2つ作ってもらったので、それを据え付けてある。


なお、レーヴァンのメイド部隊には建設・施工・内装の部隊があるそうで、部屋の仕切りなどはそちらにお任せした。


内装とかはリナ監修で壁紙などが整えられたので、引っ越しで荷物を運び出したような空間は、それらしい貴族っぽさある雰囲気になっている。


その他、簡単な風呂場バストイレを付けて、立派な…………これもうキャンピングカーだよね? 全然住めるし。


──そんな諸々の大改造をビフォーアフターしているうちに2週間程が経って、現在の出発を迎えることになったわけだ。


一応、出発の際は流石に突然人造人間アンドロイドが御者をしてても驚かれそうなので、ラビット氏が御者台に乗って出発したけど、ある程度進んだ辺りでスヴァヌルと交代した。


御者台側にも箱馬車への出入口が作ってあるので、交代とかも簡単になっているようだ。


さて、ここから日程としては10日ほど。一応はウェスヘイム家と繋がりのある領主の街には寄る予定があるものの、強いお誘いが無い限りは基本的に野宿の予定だ。


……まあ、野宿もへったくれもないんだけどね。ここまで整った魔改造馬車がある上に、【結界】と終日起きてるレーヴァンやスヴァヌルによる警戒があるのであれば。


一応、ズルも色々と考えたんだけどね。街道を通ったことにして、一気に王都にある子爵の持つ館に【ダンジョン化】の魔道具を置けばいいだけだから。


でも、到着時間など諸々について、どうでもいいことでリナごと怪しまれても良いことはないだろうし、迷惑かけるのも本意ではないので、まあ旅気分ってのを味わうのも一興だろうという話にまとまった。


ラビット氏は王都方面にも行ったことがあるとのことで、何か美味しいものがある街とかには立ち寄ってもらうつもりだ。地元で食べてもいいし、食材を買ってきて料理してもらうでもいいし。


途中には牛の産地とかもあるそうなので、今から楽しみだ。


◇◆◇


「それにしても、本当に知識が偏ってるわね……あなた」


そういや俺も学園の入学試験を受けるということで、別に良い点を取る必要も受かる必要も無いのだけど、試験内容について軽く説明を受けた。


試験は学科と実技があり、その結果に従って2年次以降の専門選択に向けて学級クラス分けがされるそうな。


ちなみに、上位貴族は成績に依らず1学級クラスにまとめられるそうなので、件の豚辺境伯令息については一緒になる心配までは無いらしい。


それで、学科の試験テスト向けの問題集というのがあるようなので試しにやってみた結果が、先のリナによる感想というわけだ。


試験内容としては、必須科目が国語と算数と歴史で、選択科目として科学と古文と法律がある。


2年次以降に戦闘職の兵士などを目指す場合は選択科目を受ける必要は無いらしい。逆に薬学や魔法陣学、官職を目指す人が通る法律学などを目指す場合は、該当科目を選択しておくと有利な学級クラスに入れるとのこと。


試験結果としては、やはり前世の義務教育ってやつを修了していれば当然というか、ほぼ満点の算数が一番の成績だった。


まあ、内容としては小学校高学年までの算数で、実際にギルドでも算術講座の初回のテストで中級まで免除されたぐらいなので、そりゃ余裕でしょうとも。


それに次いだ成績が国語だった。これもかなりズルい感じではあるものの、前世の語彙がそのまま翻訳されて読めるので、ラノベが読める程度の文章を読み慣れていれば何ら問題なかった。


反面、歴史は本当に点が取れなかった。まあそりゃそうよね、全然知らないし。


「僕もシルバーBランクになる時だったかな、昇格試験に基礎知識が入るって話を聞いて勉強することになったんだけど、あまりの知識の無さでサムに呆れられたもんだったなぁ」


ラビット氏が俺の1桁しか取れてない答案を見て、思い出深そうに語った。


どうやら、シルバーBランクともなると指名依頼や護衛などで侯爵や辺境伯といった上位貴族と関わることも増え、会話の背景や貴族家の成り立ちといった辺りで王国史の基礎知識が求められるため、昇格試験に盛り込まれるようになったんだそうな。


「そうだ、明日の昼にウェスヘイム子爵と知古の領主がおられる領都に寄るんだったよね。せっかくだし、リナさんが領主に面会してる間に、ギルドの資料室にでも寄ってくるといいよ。恐らく大体の資料室に置いてある読本があるんだけど、読みやすくて入門には良いはずだから」


お、勉強方法の情報は助かる。確かに参考書とかである程度網羅的に学べる方が、定期試験に慣れてきた身としては合っている気がする。


ちょうど都合よく、アイアンDランク以上であれば有料で資料室の本を借り、任意の冒険者ギルドに返却できる学習支援サービスがあるらしい。


もちろん、全てのギルドに資料室があるわけではないようだけどね。


ある程度大きな街であれば、魔物の解体や素材の買取、講習会、そして資料室と完備フルセットの冒険者ギルドが置かれているんだとのこと。


その他の村や町とかでは、獣の解体と素材の買取は基本的にあるようだけど、それ以外は無い場合が多いとか。


ただ、大体の集落には何かしらギルドの窓口だけはあって、あの水晶が置かれているみたいなんだけどね。


どうやら、都市部の本店と周辺集落の支店みたいな方式で通信網が敷かれているらしい。


なるほど、あの水晶で情報が伝達できれば、大きな街に依頼を集約することで、冒険者が集いやすく次の仕事へも移りやすいだろうし、また地方の窓口では早期に受理し出発してもらえる可能性が高まる。


もし仮に農村のような地方ローカルで災害級の獣が出た場合、その村のギルドで募集をかけたとしても、階級ランク相応の冒険者が偶然立ち寄るなんてことは期待できないしね。


また冒険者側としても地方の窓口があることで、現地の宿の情報を得たり有力者への顔つなぎをお願いするなど、相互に利益がありそうな良い仕組みのように思える。


それこそ冒険者ギルドが出来たのは、地上から魔物が討伐されて、人々がダンジョンへと向かうようになったこと、そしてその結果として被害が拡大していったことが由来のようだけど…………恐らくスケさんやヴァル氏が失踪した後の時代で、一体誰が作ったんだろう? こんなよく出来た機構システム

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