第191話 新制度説明会

「さて、説明の前に自己紹介しておこう。私はフィン・スタインフェルド。このSクラスの担任となる」


後でリナに確認したところ、スタインフェルド家は西にある有名な伯爵家なんだとか。


東西における交通の要所であるジュリージー領を治めているんだそうで、付近のダンジョンはそこまで有名ではないものの、かなり栄えた大都市なんだとか。


「さて、早速だが本年から実施される単位制の説明に移ろう。従来のものを通年制と呼称するとして、その通年制は教員側で定めた時間割りに従って授業を受けるものだった」


前世の小中高の話ではあるけど、時間割りは既に決まっているもので、それに従って受けていた。


恐らくこちらの世界の通年制も、似たようなものだったんだろう。


「これが単位制に変更されるに当たって、君たち生徒個人で方針を決めてもらう必要が出てくる。資料の2枚目を見てほしい」


手元の資料をめくって2枚目を確認すると、授業が一覧で表となって記載されていた。


語学国語』『数学』『歴史』といった辺りが、『数学I』『数学A』みたいな感じで、いくつか細分化されて科目として並べられている。


「そちらに、卒業までに必修となる『必修科目』と、任意で選択して履修する『選択科目』を分けて表記してある」


お? 『探索実習』も必修に含まれてるみたいだ。


まあ、そりゃそうか。学園の1つの狙いは、『成長』することで死ににくくすることだもんな。


「これを、1年での卒業であれば30単位、3年であれば90単位取得すれば卒業要件を満たしたことになる。ただし、1年での卒業の場合は必修科目のうち『基礎科目』の印がついているものを必ず取得しなければならないので、注意するように」


一部の項目には『*』が末尾に付いており、これが基礎科目を示しているらしい。


とは言っても、『語学国語』『数学』『歴史』が各2項目、それが前期後期の計12単位、それから『探索実習』が通年で3単位を加えて、13項目15単位で、およそ卒業に必要な単位の半分は取れるようだ。


学園長が言っていた『単位認定試験』とやらを受けてしまえば、1週間後には卒業がほぼ確定するのかもしれないな。


「資料の3枚目には、単位認定試験についての詳細がまとめてある。この試験は半期ごとの頭に行われる予定だ。今年であれば、明日からの2週間と、半年後の2週間の2回になる」


3枚目を見ると、明日からの3日は2の鐘8時から4の鐘12時に『基礎科目』の説明会オリエンテーションと単位認定試験があり、半鐘1時間の昼休みを挟んだ後は、それらの『応用科目』の単位認定試験を行う日程のようだ。


昼前に『基礎科目』の『数学A』と『数学I』の試験があったら、昼を挟んで『応用科目』である『数学B』や『数学II』の試験を行う、といった感じらしい。


なお、単位認定試験を受けない生徒は、教室から退出して自由時間となるそうなので、今週1週間は暇になるのかもしれない。


4日目以降は選択科目における基礎科目とそれらの応用科目が同様の形式で並んでおり、計2週間の日程スケジュールが立てられているようだ。


「単位認定試験は、半期の修了時と同様に『優・良・可・不可』で判定され、『可』以上で単位認定される。ただし、試験は半期の修了時に行うものと比べて量が多く、難度が1段階上がっているものと心得てほしい」


あー、うーん……でもまあ、これは仕方ないのかな。


通年で網羅的に学習するのに比べて、半鐘1時間程度でその力量を推し量ろうってわけなんだし、その過程をすっ飛ばして知識だけで勝負するんだから。


でも、これから2週間をほぼ1日中、試験漬けで過ごすのは大変そうだな……体力と集中力を切らさないようにしないと。


「資料の4枚目を見てほしい。これは認定試験を受けなかった場合の時間割りとなっている。後期にも同様の時間割りが作られるが、この通りに授業を履修することで、標準的な単位数である年30単位は取ることが可能だ。言わば、従来の通年制と同じ扱いだな」


なるほどね、普通に通年制の想定だった人向けにもそういった規定デフォの時間割りは用意してあるわけか。


あまり積極的ではない生徒であれば、そのまま受けるのもアリなんだろうな。


軽く眺めた感じでは、必修科目は週に2カ所が割り当てられていて、選択科目のうち『基礎科目』になっているものが他の枠を埋めているようだ。


「この時間割りを元にして、個人の裁量でいくつか単位認定試験を受けて、他の授業を差し込むのもいいだろう。また、後述するが『探索実習』という単位のために、別途ダンジョンに潜る時間を作ってもいい」


うん、ダンジョンに潜るとなると、結構まとまった時間が必要だろうし、計画的に枠を空けたり埋めたりする必要がありそうだ。


時間割りによると、水曜日の1限目から6限目までが『探索実習』に充てられている。


翌日が白曜日で休みになっている辺り、時間割り作成者の配慮が見て取れる。


ちなみに、探索とは別に選択科目として『戦闘訓練』なんてのもあるようで、それは青曜日の昼休み後に2枠連続で入っている。


……これ、Sクラス用に配慮されてるだけで、他のクラスだと別の曜日とか別の時間帯とかに入ってるんじゃないかな。


高校時代、体育が朝一番で入っていて、汗ばんだまま匂いをスプレーで誤魔化しつつ授業を受けるのが嫌だった記憶が蘇る。


3組の担任が体育教師で午後に体育だったのは、何かやってんなと妬んだものだ。


『探索実習』にせよ、その日の最後に入っている『戦闘訓練』にせよ、終わったらそのまま休めるところだもんな、これ。


うーん、これぞ格差社会。


しかし、『戦闘訓練』や『探索実習』は『単位認定試験』の日程に入ってなかったので、仮に他の科目が試験に合格しても、この2つは固定ということになるのかもしれない。


「なお、4枚目に記載された時間割りの授業については、この教室で行う。つまり、各担当がこの教室で授業を行う形になる」


なるほど、完全に通年式に準拠した方式も可能ってことなんだろうな。


でも、正直なところ家庭教師とか付けてもらって勉強してきた貴族様であれば、初年度の学習内容ぐらい楽勝そうだよね。


知ってる内容で時間を無駄にするぐらいなら、最初に試験をやって別の授業を受ける方がいいんじゃないだろうか。


「一方で、これは単位認定試験を受けた場合の注意点だが、その枠に入れる『応用科目』もしくは別の『選択科目』については、指定の教室へ移動してもらい、授業を受けてもらう。……即ち、他のAクラスからJクラスの生徒、あるいは別学年の生徒と合同の授業を受けることとなる」


教室内が一瞬、ざわつく。


横にいる友人や従者と目配せしたり、顔を横に振ったりしている様子が見える。


……ま、上位貴族ともなれば家庭教師に何年も躾けられてきたんだろうから、口には出さないようにしているんだろうけど、本音はやっぱり『平民や下位貴族と関わりたくない』んだろうな。


だからこそ、この『Sクラス』というものが出来たんだろうし、それで上手いことやれてきたのであれば、それはそれでいいと思う。


別に俺は、王都の中心でポリコレを叫んだけ者になる気なんて更々ないから、それでこの世界が回ってきたならば、郷に入っては郷に従うつもりだ。


「……まあ、単位認定試験を受けて、自習時間に充てる方法もあるだろうし、先に挙げたように『探索実習』の補習としてダンジョンに潜るのもいいだろう。その辺りはそれぞれの自主性に任せる。では次だ。5ページ目を見てくれ」


……そりゃ、このSクラスの担任としては、そう言うしかないだろうな。


無理強いするものではないけど、せっかくの学園で社会に出る前の訓練をする機会を、ただ無駄にしてしまうのは、側から見れば勿体ないけどね。


学園の担任というのも大変そうだ……なんか胃薬のポーションのレシピでも見つけたら差し入れてあげよう。あの先生、しごできだけど、神経質そうだし。

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