第114話 到着
「
うーん、無事ってなんだろう。
まあ、実際誰も怪我ひとつすることなく、既に遠くに王都の高い壁が見える位置までやってきてはいるんだけどさ。
──幌馬車に乗り換えた後、俺たちは森を抜けた先にある鉱山の町シュナムベインまで、貴族3人を無事届けた。
ブート嬢も学園の入学試験のために王都に向かう途中だったのだろうか……その辺りの詳しい話は聞けず終いだったな。
リナに念のため、手助けを提案する必要はあるか確認したところ、向こうから求められない限り世話を焼くのは避けるべきだと言われた。
オベラジダ辺境伯とキファイブン伯爵は領が隣接するため多少の交流があるものの、ブート嬢の男爵家とリナの子爵家とでは関わりが弱く、わざと恩を着せられた感じが強く出てしまうらしい。
また、入学試験は日程にもまだ余裕があるし、そこまで緊急性が無い。
そのため、旧知だったとしても向こうから頼まれても無いのに提案するのは、下手に恩を売ろうとしているようにも勘繰られて、あまりよろしくないのだという。
……貴族、本当にめんどくせーなおい。
まあ、まだ1週間はあるから、急いで周辺の大都市にでも募集をかければ、王都までの護衛を集めることも可能だろうと言われれば、確かにそうなんだけど。
そんなこんなで、3人に関しては冒険者ギルドに引き渡すところまでで、後は任せることとなった。
恐らく、この町シュナムベインの領主に連絡が行って引き取られ、宿泊なり食事なりは保証されるらしいので大丈夫だろうとのこと。
その後、冒険者ギルドでラビット氏たちと合流した俺たちだったけど、その日は既に
ラビット氏によると、シュナムベインは温泉の町としても有名だそうだ。
なので、泊まったのは温泉付きの少しお高めな宿。ひと騒動あった疲れを取る意味でも、いい休憩になったと思う。
ちなみに、ここで1つヴァル氏の……というか、ハイエルフの衝撃的な事実が明らかになった。
ハイエルフには、婚姻するまでは
もっとも、
……なんか、竿の大小は変化前後でも様々らしいものの、特徴としては玉が2つほど下にぶら下がるか上にぶら下がるかの違い、だそうですよ?
その事実を知ったのは、まさかの大浴場。俺たちが湯船に浸かっているところに、土産ものを見に行っていたヴァル氏が後から入ってきて内心慌てたわけだ。
もちろん、宿の大浴場は男湯と女湯が分かれている。スケさんと接している様子から、恐らく
ラビット氏もその辺りは知らなかったようで、スケさんにヴァル氏の性別について訊ねていて。
スケさんは『なんや言っとらんかったか?』とばかりに、ハイエルフの婚姻と性別決定契約について語られ、それで俺も知ったわけなんだけどさ。
なんだろう、エルフは長寿ゆえに子供が出来にくいとか種が増えにくいとかって設定はあった気がするけど、この世界のエルフは種を残すのに
いわゆる自認する性別を偽った覗きみたいな問題が出そうではあるけど……まあ、そもそも中性的な顔立ちだし、綺麗めな容姿だから、どうせ『イケメン無罪』ってなりそうではあるよね。ケッ。
でも。特定の層の人々にとっては、誰かを好きになってから自分の性別を選択できるなんて、心底羨ましがられそうではある。
……まあ、それはさておき。
さて宿で一泊した翌朝、再び一路王都へと向かうことになった。
けど、その後はもう1カ所の懸念だった峠でも特に襲撃は無く、平野部に出てからは旅人や商人、乗り合い馬車などが行き交う安全な旅路といった感じで過ぎていく。
まあ、何もない旅ってのは退屈とも言えるんだろうけど、俺は入学試験の科目である歴史と、ついでに記念受験のつもりで受けようと科学の勉強もしていたので、退屈している暇はなかった。
アレだね、学費の心配がない状態でただただ勉強だけできるって、割と楽しいんだよね。今後の自分のためにもなりそうだし。
そんなこんなで最終日となった今は、旅の最後の食事かなってことで、5日目に立ち寄った街のゾーネリヒトで手に入れた牛をラビット氏が焼いてくれている。
ガンガンに
全ては室内も衣類も匂いを消し去ってくれる【
たしか、リナが襲撃がある可能性と警戒について
あれ、そういえば……割と聞き流してたけど、後々になって気になった話が1件あったんだった。
「スケさん、馬車が襲われた後に廃村まで追跡した時の話なんだけどさ」
「ああ、館におった賊のことか。何や、やっぱロブも参加したかったんか?」
「違う違う。ほら、終わった後に言ってたでしょ、親玉っぽいのが
「ああ……それなんよなぁ。ロブの見立て通り、館におったんは10人やったと思うとるんやけどな。たしかワイも気配であの館を調べた記憶はあるしやな」
……そう、俺がスケさんの戦っている現場に追いついた時も、それっぽいことを言ってるのを聞いた。
たしか、『ケニスのクソ野郎、逃げやがったか!?』だったかな。
【鑑定】で詳細は見れなくても名前ぐらいは出てくるので、捕縛した奴らを一通り調べてみたけど……その中に『ケニス』はいなかった。偽名でも使ってない限りは、だけど。
スケさんは、よっぽどの隠蔽じゃない限りは魔力の
まあ、逃げられたのは残念だけど、それはそれで仕方ない。やれることには限界があるわけだし。
「……問題は、そいつは何者なのか、って話だよね」
「せやな……何にせよ、そいつはまんまと逃げ仰せたわけやからなぁ」
仮に襲撃犯たちが失敗したことを察知したにしても、割とすぐにスケさんやスヴァヌルが突入していったのに、果たして『いつ』そして『どうやって』逃げ出したのか。
可能性としては、3人が村に入って来た時、とかか?
俺の場合はまだ【気配察知】のレベルが低いし、魔力感知も精度が低いから、【隠蔽】に関わるスキルや魔道具を使われると【看破】するのは確率でしか出来ないし、見ようとした範囲から既に外れていれば見つからない。
スケさんの魔力感知は精度が範囲依存らしく、半径が500mほどが精々だそうなんで、数分でも早めに逃げられていたとすれば範囲から外れ見つからないそうだ。
恐らくはあの親玉は『館の中にいる』という認識だったんだろうから、その日は既にいなかった、なんてことは無いと思うんだけど……。
「あれから4日経っとるし、あいつらからギルドが何や聞き出しとることを願うしかないやろなぁ。……もっとも、そんな危険な時に咄嗟に逃げ出せるような奴は、足がつくような情報ひとっつも残しとらん気ぃするけどな」
……ま、そうだよなぁ。
こんな簡単に撃退できてしまった襲撃犯の証言ひとつで、怪しい奴から黒幕まで芋蔓式に辿れてしまったら、世の汚職事件なんて駆逐されているはずだし。
期待はしてないけど、それでもあと1週間後ぐらいには入学試験があって、そこはスケさんもヴァル氏もいない状況でリナとクララを護衛する仕事があるからな。警戒先が絞れている方が助かるのは間違いないわけで。
「はい、お待ち遠さま。鉄板が熱くなってるから気をつけてね」
おっと、そんな暗い話をしている間にラビット氏の料理が出来上がったようだ。
「ソースは好きなのを使ってね。グレービー、おろしポン酢、ネギ塩。ソルトペッパーをつけても美味しいよ」
うわぁ、味変が充実してるとか絶対止まらないやつじゃん。
しかも、山のようなガーリックライスも準備されていて、存分に食べ放題になっている。
……ま、そうだな。
それなりに準備はしてきたし、なんだかんだで
今は、目の前にあるミディアムレアに集中しようじゃないか。
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