第74話 暴走を辿る

予想通りというか何というか、やはり主経路から外れた側道の方にはあまり暴走スタンピードの影響がなく、迂回路がある場所はそっちを使うと円滑スムーズに通過することができた。


とはいえ、どんな魔物がいるのかについては確認しておいた方がいいかということで、階段付近などでその都度確認はしている。


暴走スタンピードが収束しにくい理由は、とにかく量が問題なことが半分、時間が経つにつれて発生する共食いによって上位種の発生が起こることがもう半分だそうだ。


一部、深層の魔物が上層に出現する厄介な事例ケースもあるそうだけど、そちらは該当する魔物さえ討伐すれば収束するため、強い冒険者さえ到着すれば解消していくものだという。


もっとも、この辺りの話は昨夜の酒場で流れてきた冒険者同士での会話からの聞きかじりで裏をとってもないので、話半分かもしれないけれど。


今のところ、今回の暴走スタンピードはアジトダンジョンで見かけたような魔物が大量に流れてきている程度で、時々上位種なのか変異種なのか、色違いが混ざってるといった感じだろうか。


6層ぐらいまではネズミや猪、8層辺りで狼やゴブリンといった魔物が群になってひしめいていた。10層辺りからはオークが増えてきたように思う。


10層までは元となった鉱山に合わせた見た目の洞窟ケイブ型と言われるものだったが、11層からは、平野フィールド型と言われる天井のない層になるようだ。


もちろん、無限に高さがあったり広かったりするわけではなく、一定以上は進めない不思議空間になっているようだけど。


うーん、せっかく来たことのないダンジョンなのに、こうやって地図を見ながらすっ飛ばしてしまうのは勿体無いよなぁ。


初見プレイを楽しみたかった……。


まあ、今度来た時にでもゆっくり見て回ることにしよう。観光地みたいな言い方だけど。


現在いる11層は、所々に木が生えた程度で丈の短い草が生えた平地といった感じだ。


起伏も少なく見通しもいいため、平野フィールド型の準備運動チュートリアルとしては最適といった感じがする。


……しかし、平野フィールド型は非常に楽だ。


何せ、遮蔽物が無いから一直線に次の階段を目指せる。


地図を持っている状況では、目指す方向もすぐに分かるし、面積が4倍になっていることを差し引いても最速で攻略できてしまう。


洞窟ケイブ型では、最高速度を出すには部屋や通路といった壁面を避ける必要があったから、そんなに速度が出せなかったのだ。


それでも、歩くのに比べると速いは速い。下り坂の自転車ぐらいの速度、といった程度か?


一方で、先が見通せる平野フィールド型であれば、音速を超えるような最高速で最短距離を通り、数秒経たずに終着点に到着できてしまう。


あと、最初の11層こそ地図を見ながら地形を照合して終着点ゴールを探していたものの、それすら必要無いことにその階段を見つけてから気がついた。


だって、暴走スタンピード中だから階段から魔物が涌いて出てきているわけで、そりゃ目立つもの。


本来であれば、あの岩とあの池の位置からして地図上のこの位置だから、こっちに進めば……なんて実際の地形との照合を進めながらの探索が必要だったかもしれないけど、そんな時間すらかける必要が無い。助かる。


ちなみにだけど、平野フィールド型は階段近くに目印ランドマークとなる岩や木などがあるとも限らないので、視界の方向と地図の向きを一致させることが求められる。


そのため、すぐ側に壁があることで地形を把握しやすい洞窟ケイブ型に比べて、難度が上がるという認識が一般的だ。


事前の準備なしで探索すると、敵が弱いダンジョンであっても遭難する事例ケースがあるという。


方角という点で言えば、この世界においても地磁気みたいなものはあるようで、磁石による方位判定というのは成立する。


【雷魔法】の応用で、菱形に整形した鉱物を方位磁石にした旅用の道具が、雑貨屋にも置いてあった。


また、地図においても北が上というのは基礎知識になっている。羊皮紙にも方位磁石の菱形を模した絵が方向を合わせて描いてあったりする。


あとは、ダンジョン限定ではあるけど、方位磁石など道具を失ってしまった時に、陽の光による影で方角を見つける方法というのもある。


大半のダンジョンの中では天候の時間が固定されているらしく、昼間の層はずっと昼間で夜の層は夜になっているらしい。


その昼間の層においては常に陽が真南にあるそうで、影が出来た方向が北だと判定できるのだそうだ。


また、夜の層でも月明かりが同様に南に出ているから、黄色など明るい色の布に影を落とすと方角が分かるようになっている。


こう言った話は、冒険者ギルドで最初に受けた採集講座の際に、周辺の地理と共に教わった。


元の世界でもあったな、サバイバルガイド的な本とかで、太陽に時計の短針を向けると、12時の方角との半分の角度が南を示すってやつ。


地球における太陽が1日で1周するのに対して時計は1日で2周することと、12時に南中する性質を利用してるんだったな。


12時を南として時計の角度を半分に圧縮すれば、-6時間で日の出である東の-90度、+6時間で日の入である西の+90度という、ちょうど太陽の位置に収まるという計算になるわけだ。


まあ、こちらの世界においては時計は高級な魔道具だそうだから、が東から昇って西に沈む性質かあることから、朝と晩で方角を確認できるという程度が一般的な使い道のようだけど。


◇◆◇


10層までは5分から10分ほどで通過出来ていたものが、11層からはもう2分も経たないうちに終端まで到達できるようになってしまい、鐘1つ2時間経たないうちに俺は14層へと到達していた。


ここ以降の階層からの帰還者がいないという話だったけど……この辺りが発生源ということなのか、もっと深層に震源があるのか。


過去の事例にもあったみたいな、深層の魔物が出現してるとかだったりするのだろうか。


もし見つけたら、メモ書きか何かで冒険者ギルドに連絡しておこう。倒せるなら倒してしまうのもアリかもしれないけど。


それから、14層以降の安全地帯セーフエリアはひと通り見回っておきたい。


生き残っている冒険者の把握と……リーダーベルトたちの捜索を兼ねて。


12層辺りからは、コボルトやゴブリンが一部混ざっている程度でオークだらけ、14層ともなると見る限りほぼオークだけになっていた。


20層以降に出るという3m以上の体躯を持つオーガの姿は見当たらないので、まだマシなのかもしれない。


それでも、オークが群れになるとブロンズCランクのパーティでも厳しいと言われているようなので、ここにいる数だけでも殲滅は容易ではなさそうだ。


14層が震源かは判断つかなかったが、確かに暴走スタンピードの影響が強かったようで、行ってみた安全地帯セーフエリアは結界機能が破損して魔物が入り込んでいた。


洞窟ケイブ型の安全地帯セーフエリアが特定の部屋として置かれるのに対して、平野フィールド型の安全地帯セーフエリアは山沿いの洞窟だったり地下に掘られた穴だったり、あるいは小屋のようになっていることもあるようだ。


14階はその小屋型の安全地帯セーフエリアで、階段と階段を繋ぐ経路に程近い位置に配置されていたのも被害に遭った理由だろう。


……うん、今はあまり深いことは考えないようにしておいて、先に進もう。


14層は11層に似た平地に少し起伏がある形状で、途中に湖があるものの他に地形的な意味で気になった点は無い。


15層への階段へと到達したので早速降りると、明らかに様子が変わった。


14層までが階段から階段に向けて帯のように魔物が群れになっていたのに比べて、15層は圧倒的に魔物の数が多く四方八方に広がっている印象がある。


そのためか、15層の安全地帯セーフエリアは14層に向かう方向とは少し外れていたものの、やはり結界機能は破損しているようだった。

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