第75話 禁忌魔道具
15層は一部が木々に包まれた森になっており、山の麓に流れる川などもある地形だ。
平地に比べると見通しが悪いのでオークは視認しにくいものの、こっちには【気配察知】や魔力感知があるから、位置や数などを大体ながら認識できる。
……全域を見たわけじゃないけど、これ本当に千とか万とかの単位でいるよな?
この数になると、単純に倒すどころか全域を回るだけでも移動で時間がかかりそうだ。
というか、今までの層では見なかったこの全域に広がった状況から察するに、ここが震源地っぽいよな。
俺は試しに格納門をなるべく高い位置に移動させて、魔力感知を広域で起動させた。
「…………あれか?」
温泉を発見した時のそれよりは弱いものの、オークに比べると格段に強い魔力の反応があったので、そちらに向かってみる。
反応があった場所は、山の頂上付近だろうか。なだらかな山肌ではあるけれど、遠目にも何かが
◇◆◇
「ボス……じゃないな、何だ?」
魔力の反応があった山頂を中心として、明らかに魔物が発生する
所狭しとオークが
そして、その山頂付近には明らかに異質なものが置かれていた。
それは、球体の
うん、確実にこの魔道具らしきものが原因というか……この
ものっ凄い事件の臭いしかしないんだけど……マジか。
「…………んん? ちょっと待った」
あれ、もしかして中に人がいる?
「……ようやく2日でしたっけ? とりあえず2週間ぐらいって話なんで、あと12日かぁ」
「うるせえな、用が無えなら黙っとけ。魔石の補充ぐらいなら話しかけんじゃねえ」
「それにしたってねぇ、【結界】が安全だとは分かってても、こんな魔物だらけの中で気を紛らわせないとやってられないでしょうよ」
「……魔物が見たくねえんなら目でも瞑ってろや」
……結界に格納門を近づけたところ、普通に話し声が聞こえてきた。見る限り、中にいるのはこの2人だけのようだ。
1人は短髪で身軽そうな男、もう1人はスキンヘッドで口周りに髭を生やした男だ。
話の内容からするに、この2人は装置を動かし続けるためにいる人員のようだけど……2週間、というのが何を指しているのか気になる。何の期日だろうか?
「まあ、こんなので奴隷から解放してもらえるってのなら御の字ですけどねぇ。実際どうなんですかね?」
「知らねえよ。少なくとも首輪は外れたんだ、後は期間が過ぎたら逃げるだけだ」
「逃げられりゃいいんですけどねぇ。湧いた魔物が
「知るか。俺は下の階で
「ああ、なるほど賢いですねぇ。でも下の階の
「潰れてたらさらに下の層に行けばいい」
「……まあ、オーク程度なら何とでもなるでしょうけどね。問題は外ですよ、外。ダンジョンの外は出る頃には大変なことになってるわけでしょう?」
…………大変なこと?
なんか、すげー嫌な予感するんだけど、こいつらの話。
「……まあな。高ランクが深層に閉じ込められてりゃ、残った人員で
「恐らくは外に出てもしばらくは逃げの一手でしょうねぇ。せっかく首輪取れたのに、また捕まったらおしまいですし」
「こっちの国の人間だと思われて奴隷にされちゃ世話ねえな。でもそん時はむしろルーデミリュの人間とバレねえ方がいいと思うぜ?」
「……どういう意味です?」
「そりゃお前……戦争仕掛けるのに、
あーあー、もう、聞きたくなかったこんなの!
完全に陰謀のやつだよ! ルーデミリュって東にある国だったっけ? ホント
わざわざ
んで、ダンジョン街にいる高ランク冒険者たちを深層に留めさせることで、戦力にならないようにしたと。
なるほど巧い手だなとは思わなくも無いけど、
あと、絶対にそんな
となると、戦争に絡めて実行されたのを踏まえると、完全に国家の上層部が絡んだ計略ってことだろ。
何でこんなに人類は愚かなの? ねえ。
そんなに戦争が大好きなの?
誰かから物を奪うのが好きとか、そういう性癖はNTRモノとか創作の範囲で存分にやってくれよ、ヒトもモノもカネも無駄にする汚ねえ花火で喜ぶな、クソが!
…………もうね、うん、害悪とは分かり合えないな、こっちの世界でも。
コンビニ時代もいたんだよ、バイトだと見下して罵倒してくるジジイとかババアとかチンピラとかが。
有無を言わさず通報して持って行ってもらおうとすると、さらに言い訳して騒ぎ立てるんだよな、あの人種は。俺は悪くない、私は悪くないって。
戦争か、うん。戦争ね。
なるほどなるほど……なるほどね。
…………上等だ。
こっちも遠慮なんてしてられるか。
やれることは全部やってやろう。
向こうが売ってきた喧嘩だ、倍値で買ってやるよ。
まずは、この魔道具を止めて
その後、魔物を殲滅して通路を確保して冒険者たちを帰還させる。
そして……戦争を潰す。
手段は問わない。
最悪、バレてもかまわない。
今、手をこまねいていたら、ただただ
……隠密でも暗殺でも何でもやってやる、吠え面かくんじゃねえぞ。
◇◆◇
俺は2人を吹き矢で眠らせた後、暗い穴の中へと6層から移動して、毎度のように顔に袋を被せて、両手両足を縛り上げた。
結界に守られている中で手を出せるはずがない──そう思って油断してる2人を、山ごと足元の地面を削って穴に落とすなんて
穴に落ちれば、球体のような結界の範囲から外れて、いくらでも手出しが出来る状態に変わる。
ちょうど魔道具の置かれている中央付近から結界の張られた外周には2mほどの隙間があったので、魔道具の土台は残したまま2人だけ落とすことが出来たのは、非常にこちらにとって好都合だった。
ただ、地面は土を再現しているものの素材としてはダンジョンの壁と同一のようで、格納してみたところMPをがっつり持っていかれた。
『成長』で伸びたはずのMPなのに既に5割を切ろうとしている。
しかし、こちらには1週間ほどポーション台を稼働させて作った中級MPポーション3000本と上級MPポーション1200本がある。
まあ、温泉を発見した日の時点では、手元にあったのもそれぞれ中魔力草1000本と上魔力草400本だけだったんだけど。
あの後、温泉付近を中心とした魔力草の観測を続けて、タイミングを見計らって追加で収穫を行った結果、大量の魔力草を確保できたというわけだ。
ちなみに、魔力草は1週間ほど薬草を放置すると同程度の本数が回復することを確認している。都合、2周分の収穫を行った計算になるだろうか。
それらを数日かけてMPポーションにしたのが、この大量の在庫ってわけだ。
これは別に
しかし……こうなったからには存分に使ってやりたい放題やってやろうじゃないか。
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