第71話 潜入経路探し

案ずるより産むが易し、とはよく言ったものだと思う。


結果から言えば、地図は一応25層まで難なく買うことができた。


ドッグタグのような冒険者ギルド証の提出を求められるかと思ったが、何も言われることなく地図は売ってくれた。


値段は10層までが1枚大銅貨5枚5千円、15層までが銀貨1枚1万円、20層までが銀貨2枚2万円、25層までが銀貨5枚5万円、となっていた。


26層以降は、今のところギルドで販売していないそうだ。探索している高ランク冒険者たちの先行者利益として『草地図』に任せるという方針がとられているらしい。


なので、現在俺の手元には25層分の地図がある。リーダーベルトたちの状況を考えると、今回はこれで十分だろう。


ちなみに26層以降の『草地図』は、市場価格が大銀貨10万円からだそうで、あとは製作したクランなどの信用度や記載された情報量によって変わるという。


ギルドから購入した地図は、破れにくいよう羊皮紙に印刷されているようだけど、印刷された線は思ったよりくっきり発色している。やはり魔法による複製コピーだったりするのだろうか。


各層の情報量はかなり簡素ではあるけど、上り下りの階段の位置と最低限の地形情報、安全地帯セーフエリアの位置だけ書いてあれば目的としては十分だ。


何はともあれ、これで『(2)地図を購入して安全地帯セーフエリアを把握する』は達成した。


残りは『(3)ダンジョンへ潜入できる方法を探す』だけど、さてどう道筋をつけたものか。


……道筋・・って言うぐらいだから、さっきのシルバーBランク冒険者の作ったわだちをそのまま辿るのが王道ってやつかな。


俺はカウンターとも依頼書掲示板とも離れた人気ひとけの少ない壁際へと移動して、なるべく小さな格納門を2つ発生させた。


スケさんのアドバイス通りということか、見た限りでは魔法発動に気付いた風の冒険者はいないようだ。


でもまあ、先ほどのシルバーBランクパーティの件がまだ冷めやらない雰囲気というのも手伝っているかとは思うけど。時期タイミングが味方してくれたと思っておこう。


あとはいつも通り視界に片方を固定して、接続したもう一つを遠隔操作リモートコントロールしていく。買った地図を読んでいる風を装って。


壁に沿って地面を這うように、またあまり気付かれないようにゆっくりと窓口横の改札を目指す。


アジトダンジョンであれば、通路の途中からダンジョンの領域へと切り替わり、そこから格納門が進めない、というダンジョンと外界との『境界』を示す挙動があった。


この『境界』に沿って格納門を移動させたところ、ちょうど通路を一面塞ぐような平面になっていて、穴が空いてるといった抜け道は見つからなかった。


もしかして平面ではなく、どこかを中心とした円筒かもしれないし、あるいは点を中央とした球面かもしれないけど、そこまで厳密な観測は必要でもないので置いておくとして。


先ほどのシルバーBランクによる突入があったためか、改札の前には警備員のような感じでギルドの職員と思われる人が立っていた。


顔だけ切り出すと小顔な優男風なのに、首から下があまりにゴツすぎるという、大変破壊力インパクトのある風体ふうていをしている。


見るからに只者ではないので、恐らくアイアンDランク成り立てでこの機に乗じて名を上げようとする冒険者であっても、吶喊とっかんすることを躊躇ためらわせるのに十分な抑止力(物理)がありそうだ。


そんなマチョ男さんの足元をこっそり通過して改札の中へと入り、そこからさらにゆっくりと『境界』を探るように進んでいく。


やがて、シルバーBランクの姿が見えなくなった通路の奥へと差し掛かると、その先の通路はゆるやかに右へと曲がっていて、地下へと降りて行く階段が見えた。


うん、この辺りまで来れば改札側から見た死角に入るから、冒険者ギルドのどこか物陰から繋げば割とバレずに入ること自体は出来るかもしれない。


それにしても、だ。結構な距離を進んできたけど、未だに『境界』が現れない。


一体、このフィファウデダンジョンはどこから始まるのだろうか。


そんな疑問を持ちつつ通路を道なりに進んでいくと、『境界』で止まることもなく階段まで到達してしまった。


階段は先ほどいたマチョ男さんが2人並べるぐらい幅があり、螺旋らせん状に反時計回りで下へと伸びている。


……というか、この階段には非常に既視感がある。


これ、アジトダンジョンの階段と同じじゃない? 見た目とか段差の幅とか。


似せたのか何なのか……いや、なんか『そのもの』な感じがするんだよな。工業製品感というか、型に流し込んだみたいな寸分違わないこの感じ。


アジトダンジョンの時も思ったんだけど、ダンジョンの各階層を繋ぐ階段の様式フォーマットが、あまりに揃いすぎてたんだよな。


ゲームビルド部品パーツとかがそうだった。階段といえばコレとか、壁といえばコレとか。


質感テクスチャ種類バリエーションはあれど、寸法サイズ形状モデルは一緒なんだよな。


まあ、そもそもボクセルゲームという一定寸法の箱を積み上げて建設する仕組みが肝なわけで、バラバラな高さや傾きだったら積み上げにくいのが理由ではあるんだろうけど。


もしかして、ダンジョンにおける通路や階段も、寸法が決まった部品パーツの集合体なのかもしれない。


可能性としてありそうなのは、異世界系小説にあったような、建設スキルとか職業のダンジョンマスターとかだろうか。


一定の呪文を唱えると、寸分違わず同じ部品が作れてしまう感じのやつね。


あるいは、ステータスオープンみたいな板状のものが出てきて、タッチ操作で選ぶとか。


……よくよく考えたら、俺も女神像フィギュア複製コピーできるし、似たようなことが出来そうな気はしてきたな。


階段の段差をくり抜く形で型を作れば、部品として量産も出来なくはないだろうし。


まあ、そこまで複製コピーに慣れてないんで、現状ではくり抜く型の場所が固定で素材を移動させているから、地面や山を削ってダンジョンを作るような真似はできそうもないけど。


……と、そんなことをつらつら考えながら螺旋階段を格納門で辿っていったところで、下の階に着いたようだ。


階段の前には金属鎧の男が立っている。ギルドの関係者だろうか…………ん? いや、槍に付いている布に描かれてるスペードっぽい紋章、見たことあるな。


たしか、キファイブン子爵家の紋章だったか?


ヨンキーファやフィファウデの入口に掲げられてたり、出入りの見張りが同じように槍に紋入りの布を付けていた気がする。


盾に描かれてるケースも見かけたことがあったっけ。


ということは、いわゆるこの人も領兵ってやつで、子爵から派遣されてるわけか。


まあ、領地内の暴走スタンピードに派兵したと考えると妥当だろうか。


恐らく、ダンジョンに潜ってレベルを上げている猛者だったりするのかな。全身鎧フルアーマーだから中が見えないけど。


…………ん? 魔物の気配?


【気配察知】に魔物の反応があったので格納門の視界を向ける。


格納門は可能な限り気付かれないように床や天井付近を這わせているけど、人数が増えたらなるべく付近から離れようと思って、【気配察知】を常にかけていたのだ。


格納門を向けた先の視界に映ったのは、アジトダンジョンにもあったような、資材置き場を思わせる室内だ。


このダンジョンが発見された場所は、元が地下鉱山だったって話だっけ。


【気配察知】で感じた方向にある土嚢付近に、黒いもやが出現する。


うん、この感じは……と思いながら気配の方を伺っていると、先ほどの領兵が視界へと入り目標に向かい走っていく。


どうやら領兵の人もすぐ気がついたのだろう。黒い靄から発生したばかりであるネズミの魔物・・へと槍を突き出して、倒した。


領兵の人が落ちた魔石を拾っているところを近くで確認する。


もちろん、そこまでの移動が『境界』で止まることは無かった。


ははーん、なるほど…………さては、ここは既にダンジョンの中だな?

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