第70話 ギルドでやること
街の中心にある、綺麗な円筒形に掘られた大穴の外周に作られた、前の世界で駅前とかにあった
フィファウデの冒険者ギルドの中は、不自然と思えるぐらい落ち着いていた。
もちろん、昨日の今日で既に収束した、なんてことは無いだろう。
発生から2日ほど経ち、既に情報が出揃っていて、なるようにしかならない、という
……しかし、中層以下に取り残されたパーティをそのまま見殺しにする、とまで素直に割り切れるものなのだろうか。
社長が情シスを『替えはいくらでもいる』なんて、軽々しく切り捨てて会社が傾くザマァ系はいくつも読んだことがあった。
会社勤めをした経験がないので、それすらも俺にとっては
仮にそうだとしても、現場単位ではその決定を不服としたり、そんな会社にとっとと見切りをつけたり、あるいはその分の仕事が降りかかることを恐れて逃げ出したり……なんてことが起こるのが物語における常だし、まして今起こっているこれはこちらの世界における『
家族、同僚、恋人……関係性は様々あるにせよ、割り切れない状況がきっと──
「待ちなさい!」
「……悪いな、ギルドマスター」
降りてきた階段とは逆側にある、正面受付の上の辺りから声が聞こえてきたかと思うと、その声を聞いて静かになったギルド内にバタバタと階段を降りてくる音が響く。
「おい、アイツら……」
「……
同様に声のする方を向いた冒険者らが、声を潜めて話すのが聞こえる。どうやら名の知られたパーティが、単独で救出に向かおうとしているようだ。
恐らくギルドマスターの部屋から出てきたのだろう、そのパーティが受付の横にある、ちょうど駅員さんのいる改札口のような場所を通って奥へと向かっていく。
後を追ってきたギルドマスターと思しき女性が、通路の奥へと消えるパーティの背中を見送ると、ため息をひとつ吐いて、すぐ側の窓口の女性へと指示を出した。
「……前線へ連絡、アルミンがたしか彼らの知り合いだったわよね? 説得してくれるよう言っておいて」
「わ、わかりました」
「あと、一斉突入を前倒しするかもしれないから、声をかけておいた
「は……はい!」
その途端、窓口の中が慌ただしく動き出し、窓口が一部を除いて『担当不在』の札が掛けられた。
◇◆◇
んー、状況を整理すると、だ。
名の知られたパーティが痺れを切らして突入していったのをきっかけにギルドが動いて、
……さて、どうしたものか。
ちなみに俺がここにやってきた目的をまとめると、こんな感じか。
(1)ダンジョンへの入り方を確認する
(2)地図を購入して
(3)ダンジョンへ潜入できる方法を探す
とりあえず(1)は、さっき
(2)については……ちょっと怪しまれないか? というのを懸念している。
ただでさえ
とはいえ、草地図ってやつで27層まで揃えるのは大変そうだし、可能であればここで揃えてしまいたい。
うーん……まあ、なんとか誤魔化すしかないか。
(3)が一番問題というか、完全に運なんだよな。
俺の格納門は、ヨンキーファからフィファウデまで一瞬で移動できるし、行ったことがある場所なら一定距離の範囲であればどこにでも行けるという、いわゆる瞬間移動のようなチートではあるんだけど。
唯一欠点とも言える、繋ぐことができない状況というのが、『外からダンジョンに繋ぐ』あるいは『ダンジョンから外に繋ぐ』という場合で。
ちょうどアジトダンジョンから拠点に直接戻ろうとして失敗した際にその事実に直面して、最初は突然スキルが使えなくなったのかと面食らったっけ。
さておき、この特性があるがゆえに、何らかの方法でダンジョンの中へと侵入できないと、偵察もできなければ食料を運ぶこともできない。
逆に、一歩でも入れさえすれば、
しかし……その後の俺の人生は絶望的なほど厳しい状況に立たされるだろう。
商業ギルドの
また、救助となればスキルを目撃する人数も増えるだろうし、そうなれば
利用価値に目をつけて貴族や国から狙われては、汎用的な攻撃スキルもろくに使えない俺なんてひとたまりもない。ありもしない罪状で指名手配される可能性なんてのも、割とあり得る状況だ。
そうなれば、せっかく出会ったスケさんや、紆余曲折ありつつパーティを組んだリナやクララ、あるいは迷い人の存在を知っていて色々と便宜を計ってくれた
まあ、アジトダンジョンにでも逃げ込んで、温泉近くの切り株罠で狩りでもすればいくらでも生き延びられそうだし、神出鬼没に遠くの街を渡りつつ、塩やら香辛料やらを買い込めばバレる恐れは極力回避できるし、それらを溜め込むにはおあつらえ向きな収納量だしで、逃亡するにはもってこいのスキルなんだけど。
……そういや、ラビット氏の料理があるから、食い尽くすことに
いっそ温泉近くに小屋でも建てて隠居するか?
ヨンキーファからも距離はあるし、温泉に至るまでの結構な範囲の魔力草に全然手がつけられてなかったことを考えると、人の出入りは心配しなくてもいいような気はするし。
……あれ、段々アリな気がしてきたぞ? これ。
いや、まぁ、うん。あくまでいざという時の策ではあるけどね。
というか、今回の救出や物資の運搬、あるいは
全然持て余してるもん、
何をすべきで、何をすべきでないか。どこまでやってよくて、どこからアウトか。そういった『外枠』のようなものが分からないから、『俺やっちゃいました?』の気をつけようも無い。
この世界における
あれだよな、よく転生モノとかだと、ここは隠した方がいいだとか、これは外で使うなとか教えてくれるといった立ち位置で『師匠枠』みたいなのが序盤に登場して導いてくれたりするのがお約束だ。人生経験豊富で、失敗も成功もいくつも見てきたような、ね。
ところが現実ってのは非情なもんで、そんな優しい『のじゃろりエルフ師匠』みたいなのは存在しない。
そんな状況だけに、手を出すなら『何かしらの痕跡が残る前提で覚悟する』しか無いだろうとは思っている。
もちろん、可能な限りは被害……というか、
あとは……なるべくギルドや権力者とは距離を置いて、怪しまれないような行動をとる、とかだろうか。
仮に似たような背格好の人影がいたとなった時に、記憶に残っていたら無駄に探られたりするかもしれないわけで。
……そんなこんなで、なるべく怪しくない感じで(1)〜(3)を達成するべく、俺は行動を開始した。
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