第186話 入学式
「うむ、では部屋は西棟の1階、130号室になっておる。汚したりうるさくせぬようにな。窓や備品が破損した際は、速やかに連絡するように。あとの細かいことは渡した紙を参照するといい。では、これから宜しくな」
「はい、寮監。宜しくお願いします」
男子寮をまとめる寮監へと挨拶を済ませて、寮の規則が書かれた獣皮紙と部屋の鍵となるカードを受け取る。この世界に来て何度目かの、接触型のカードキーだ。
カードキーは未だ真っ新な単なる板の状態だけど、クラス分けされた後に表面に貼り付けるものが配られ、学生証として使われることになるらしい。
即ち、このカードキーを無くすと学生証も失うことになるので、厳重な管理が必要なもののようだ。
学生寮は4階建てで、1階の東棟に食堂があり、1階の西棟と2階が『小部屋』、3階が『中部屋』、4階が『大部屋』となっている。
風呂や
……べ、別に羨ましくないんだからね。
こっちには【
さて、部屋はと言えば、なんか想像していた通りの
棚や
中部屋はこの倍の広さの部屋に、別で風呂や
……まあ、持ち込んだ布団とかを敷けば、寝床としての機能は果たせるだろうし、荷物はわざわざ広げなくても【空間収納】に入れっぱなしでいいし、特に問題はないだろう。
あー、でも自分用のポーション台を置くにはちょっと狭いかもな……いっそ机は取っ払って、ポーション台を置くか。そっちの方が良さそうだ。
よし、掃除やら改装やらをしてたら、
終わった辺りでリナに連絡入れれば、時間的にはちょうどいいぐらいかな。
◇◆◇
「これより、入学式を執り行います。ではまず学園長よりご挨拶をお願いいたします」
ざわざわとした広い室内へと、拡声器と思われる魔道具を通した司会と思われる声が響き、徐々に静まっていく。
ざわめきがその音量を下げると同時に、1階中央に置かれた舞台から足音が聞こえてくるようになった。
──翌日、俺たちは『戦闘補助』の試験でも使っていた室内練習場へと集められ、2階の観客席のような場所へと座るよう指示された。
座る場所は1階の中央に作られた舞台に向かって正面の区画とだけ指定され、座席は自由のようだったので、リナたちと落ち合って座っている。
もっとも、リナとクララだけではなく、入学試験に向かう道中で拐われていたところを救助した、ブート嬢もご一緒されていた。
デレクテボフト男爵家ということで、同じく中部屋の並びに部屋を取っていたため、寮で再会したんだとか。
こっちは、特に面識ある男の新入生なんていなかったけどね……あの後に
声をかけたのが偶然にも上級貴族で、クッソ見下した対応されて変な軋轢を生むとか、なんか妙な興味持たれて色々と調べられて秘密握られるとか、学園は危険でいっぱいなんだから。
……基本はコミュ障だったので、友達の作り方なんてものは遠い昔の記憶にしかない、という理由も過分にあるけど。
「学園長のグレディセイド・ハティムルです。新たにこの学園へと加わった皆様、ご入学おめでとうございます」
ちょうど正面にある舞台へと立っているのは、あの胡散臭いエルフでお馴染みの学園長だ。名前は初めて知った。
あの
微妙なところをあれこれ見た後だと、単なる残念エルフでしか無いんだけど。
そんな余計なことを考えつつ、頑張ってお仕事されてるなー、みたいな感じで聞き流していたところ……急に予想外の話が出てきた。
「……さて、本年度から授業の制度に大きな変更がございます」
…………何だって?
リナの方へ目線を向けるが、そんな話は聞いてないとばかりに頭を振る。
周りも同様のようで、少しざわついている。直近で決まったことなのだろうか。
「前年度までは、基本的に通年での授業を1つの単位として、年に4度の試験を元に成績をつけて、進級もしくは卒業の判定を行う制度としておりました」
まあ、うん。そうね。学校といえば、赤点じゃなければ進級できるみたいな制度だと思っていたし、それを前提にワルター氏の話は聞いていた。
「本年度からは、通年で成績を決める学年という制度を撤廃し、ご自身の得意とする科目については、所定の手続きにより先んじて上位の授業を受けられたり、不要な科目を他で代替したり、といったことが可能な制度へと変更されます」
…………あー、なるほど。
つまり、前世における大学とかの『単位制』ってこと?
1)半期を1単位として各科目の授業が行われる
2)各科目は半期修了時の評価、または任意に受けられる試験結果により単位を取得できる
3)修了時評価および試験結果は『優・良・可・不可』の4段階での判定を行い、『可』以上を単位が認定されたものとする
4)基礎科目を除く各授業を受けるには、指定の科目を『可』以上で単位認定されていることが必要となる
5)必修と指定された科目は卒業認定の単位数に全て含まれる必要がある
6)所定の期間および期間に沿った所定の単位数を取得している者は卒業を認定する
後で配られた、この『単位制』に関する資料によると、無条件で受講できる『数学A』といった基礎科目と、条件付きで受講できる『数学B』という応用科目が設定され、『数学B』を受けるには『数学A』の単位を取っている必要がある、みたいな制度になるらしい。
なんか本当、高校までの
でもそうなると、
「詳細については、
……なるほど、基礎科目とか予習済みな辺りは、とっとと
でもそうなると、単位認定された科目の時間があちこち空きになってしまいそうだけど、その辺りは公然とサボれる時間ということになるのだろうか。
うまいこと金曜の午後から空けて、土日にかけてダンジョンに潜る、とかできるといいんだけど。
まあ、もし閉架書庫に入れるようになったら、空き時間はそちらに入り浸るのもいいかもしれない。
「……その他、何か学園生活で困ったことがあれば、各学級の担任に随時相談するようにしてください。それでは、皆様が充実した学園生活となることをお祈りします」
その後、学園ダンジョンと探索による成績認定の話などにも触れつつ、なんかキレイっぽく学園長の話は終わった。
アレだな、『校長先生のお話』っていうと、『文武両道を目指し〜』だとか、『人生において友人は宝であり〜』だとか、割と説教臭いものを思い浮かべてたんだけどさ。
流石は生徒の育成や将来に興味がない残念エルフだけあって、完全に業務連絡って感じだったな。ある意味では有能だけど。
そういえば、この単位制になるに当たって、『成績優秀者』とかについてはどうなるんだろうか?
まあ、その辺りはこの後
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