第187話 留学生挨拶
「では続きまして、在校生を代表して生徒会長の──」
再び司会と思われる声が入り、定番の各代表からのご挨拶というやつが続いていくようだ。
舞台に上がるのは、乙女ゲーとかに出てきそうな小顔で金髪の
この後は恐らく在校生挨拶、あとは来賓祝辞とかはありそうだ。王立学園だけに、王族とかが来てるのかな。
流石に遠方からの祝辞の電報は届いてなさそう……いや、ギルド経由で来る可能性があるのか?
まあ、入学式に父母が会場にいたりもしないから、前世のそれとは風習として色々と違うんだとは思うんだけど。
そもそも、学園内には教員や職員でもない限りは親族も入れないらしいし。
会場の2階にある観客席の部分は、舞台に向かって四方を囲むように座席となっている。
今日は新入生400人程が座っているはずだけど、現在は正面のみが埋められている状態だ。ざっくり
1年の修了時に2割程度は騎士志望として抜け、3年次に研究者志望を除いて大半が卒業していくので、全校生徒は6学年合わせて1200人程度だそうな。
全校集会みたいな行事も、この会場で開催されるのかもしれない。
1階はと言えば、中央に置かれた舞台の他に、右側へ2列で学園長や教師らしき人たちが並ぶ関係者席が置かれている。
先ほどの在校生挨拶を終えた生徒会長だという
今は新入生挨拶として成績優秀者なのか上位貴族なのか、真面目そうな黒髪の青年が勉強頑張りますみたいなことを話していた。
異世界モノだと、黒髪黒眼が珍しくて日本人だとバレるってのが定番だけど、この世界だと割とよく見るんだよね。黒髪ぐらいであれば。
実際、スケさんもラビット氏も俺も黒髪じゃないし。
赤髪はリナがそうだし、他にも街を歩く冒険者とかで見たことがあるけど、流石にゲームやアニメのキャラみたいなピンクとか水色とかの髪色の人は見たことが無い。いるのかね、もしかして。
あまり真剣に聞き入るものでもない学生挨拶の時間を、周囲の観察で潰していたのだけど、もう見るものも無くなり…………ん?
んん!?
…………なんか、関係者席の中程に、僅かに金色に染まった白髪で耳が尖った、特徴的な容姿の女の子が座ってるんだけど。
どう見ても、ヌールちゃんだよね? あれは。
そういや、こっちに留学するとは言っていたけど、この後に挨拶もする予定ってことなの? もしかして。
あれ、こっち向いた。
……と思ったらなんか、すげー手を振ってるんですけど!?
え、こっちの目線に気付いたの? もしかして。
ちょ、ちょっとやめなさいって。ほら、後ろの先生がすげー目で見てるし。
「では続きまして、本年度に隣国のルーデミリュからの留学生として当学園で学ぶことになった、ヌール・ルクレールさんより、ご挨拶をお願いします」
あ、よかった。出番が来たから呼ばれて連れていかれた。
「……ねえ、ロブ。今あの舞台に上がろうとしてるあの子、1階のあの辺りで明らかにこっちに向かって手を振ってたんだけど、見てた?」
「あ、ああ、うん。何だったんだろう、あれ」
いや、そうだった。俺はそもそもルーデミリュの滞在中は狐のお面で顔を隠していて、実際の顔を知ってるのはナディーヌさんとクロエだけのはず。
ヌールちゃんは気付きようもないんだけど、どう見てもあれは、こっちに手を振っていたよな……。
俺と似た感じの髪色や背格好をした新入生、軽く見回しただけでも4〜5人はいるし、遠目で判別できるほど特徴的でもないとは思うんだけど。
「ルーデミリュから来ました、ルクレール侯爵家三女のヌール・ルクレールです。今回、光栄なことに、こちらトレフェンフィーハ王国の王立学園で、留学生として学ばせていただけることになりました」
……よかった、台本ありのようだ。ちょっとヌールちゃんは幼い印象だから、少し心配していたんだけど。
まあでも、熱狂的勇者様ファンなところはありつつ、物覚えはいいというか、勇者様の各種
「……こちらの慣習などを学んできたつもりではありますが、何かと至らない点があるかと思います。お気付きの際には、是非ともご指導、ご教授いただけますと幸いです」
……何やらお友達になりたそうな男子学生どもが2階席にちらほらおるな。惚けた表情で舞台の上へと視線を向けている。
けしからん、下心で近付こうとする不届な輩に、
まあ、ヌールちゃんはエルフの血を強く引いてるだけあって顔立ちが美形だし、それでいてまだ幼さの見える容姿だからな。見惚れるぐらいのことは許そうではないか。
「……それから」
……あれ、まただ。
ヌールちゃんが、明らかにこっちに目線を送ってくれてるんだけど。ファンサか何かなのか?
「私の目標は、勇者様の横に並び立てるような強さと、常に支えていけるような知識を得て、共に歩んでいけるような存在となることです。1日も早くそうなれるよう、同期の皆さんと一緒に学んでいければと思っています」
……最後に、とてもいい笑顔をこちらに向けてから、ヌールちゃんは関係者席の方へと捌けていった。
何やら周りがざわざわとしており、こちらへチラチラと向けられる目線も感じる。
いや確かにこっちは見てたけど、何も無いぞ、何も。
「……もしかして今の、私に求愛していった、ってことじゃないわよね?」
「あっ……」
ちょうど角度的にもほぼ同じだから、
恐らくヌールちゃんの意味深な目線に気がついたのだろう、
「仮に、あの留学生が私たちのパーティに加わりたいって意味だとしても……きっと、上位貴族の学級に組み込まれるでしょうから、難しいんじゃないかしら」
うーん、まあ確かにね。
隣国の侯爵家の子女ともなれば、上級貴族たちが集うという学級『Sクラス』に組み込まれるのが妥当、というものだろう。
「でも、俺たちも
一応、リナの兄ことワルター氏の学生時代は、基本的に入試の成績順で
それでこそ『学内では身分に関係なく平等、
今年もその流れで
同じ
「とはいえ、学園ダンジョンは授業外でも潜れるみたいだし、授業としての評価にならないってだけで、教室が別れた場合でも集まって探索すればいいんだけどね」
「……まあ、そうね」
ワルター氏の時代から変わってなければだけど、学内にはダンジョン探索の同好会みたいなものもあったようだし、ダンジョン探索自体は授業外でも可能らしい。
まあ、試験結果が問題なくて全員がAクラスに入れれば、何の懸念もないんだけど。
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