第48話 色々とした準備
「……ふぅ、こんなもんかな」
俺は膝丈ほどの粘土像を、少し離れて眺めてみた。
結局、三面図から作るのは初めてだったので、一旦粘土で形を作ってから木で再現することにした。
杖だけ、曲がってては格好つかないので、先に木製で作って持たせている。
【空間切削】は、削る対象に圧力をかけることなく削り取れるので、粘土のような柔らかい素材でも変形させることなく思うままに形を整えられるのが良い。
ナイフなどでは、刃の体積分だけ素材を掘ってしまったり、素材を押し除けてしまったりして、こうはいかない。
「ここまで出来れば、あとは簡単だな」
ようやく納得できる造形になったので、あとは同じ形状に切り出すだけになったわけだけど、ここで毎晩寝る前に【空間切削】の訓練を兼ねてインテリヤクザ像を作成してきた経験が活きてくる。
【空間切削】の派生スキル【連続体削り出し】は、同一の素材の形状を読み取ってそのまま切り出す機能なわけだけど、これの想定外の使い方を見つけたのがインテリヤクザ像の製作中だった。
像の腕部分だけパーツとして切り出したいと思って形状の読み取りを試していたところ、クシャミが出てしまって、削る位置がずれてしまった。
すると、削りだそうと思っていた腕の形状が、そのまま胴体の方にずれ込んで、胸から腹にかけて削り出されてしまったのだ。
そこで、形状を読み取るタイミングと切り出すタイミングは『ずらす』ことが出来ることに気がついて、形状を読み取った後にあえて別の木材を置くことで、読み取ったものと同じ形状を切り出すことに成功した。
以降は『
何せ、皿など1つの形状を読み取った後であれば、その位置に素材を置くだけで一瞬にして切り出しが完了するのだから。
これを発見した時は、面白くなって木材を輪切りにした後に木の皿のコピーを繰り返し、使う予定もないのに100枚ぐらい作ってしまった。いつかキャンプとかの際にでも、使い捨てにしようかと思っている。
もっとも、球や立方体のように記憶した形状をいつまでも覚えていられるわけではなく、元となる形状をその都度読み取らないといけないという条件はあるのだけど。
今回の神像の場合は、粘土と木材という別の素材にはなるけれど、素材の違いに関しては関係なく切り出してくれるようだ。
「うん、いいんじゃないかな」
台に載せたことで、腰ほどの高さになった木製の女神像が出来上がった。
三面図と見比べつつ、なかなかいい再現性だと我ながら思う。
ちなみに、
一応、立ちポーズ用に足を作ってから粘土で埋めたので、全体のバランスは取れている。と思う。
最後に、別素材だったのでコピーされなかった錫杖を手に挿して完成だ。
うん、こうやって出来上がってみると、なかなかどうして、神々しさがあるような気がしてくるから不思議だ。ねんどろいどな見かけにも関わらず。
時間も飯も忘れて没頭していたが、気がつくと外は既に夕暮れになっていた。
「あ、マズい……間に合うか? 商業ギルド」
時間があれば商業ギルドに行っておこうと思っていたのを忘れていた。
既に
間に合うといいんだけど……。
俺は出来上がった神像を空間収納にしまい、玄関へと向かった。
◇◆◇
「細身のフルプレートアーマー……ですか。少々お待ち下さいね」
商業ギルドはどうやら
フランさんには滑り込みで申し訳ないけど、対応してもらっている。
ダンジョンに行くにあたって、装備を整える必要があったんだけど、あまりに神像作成に没頭していて、すっかり忘れていたのだ。
「とりあえず、全身を覆えるようであれば、材質も状態もあまり気にしないかな。もしあれば御の字ってところなんだけど……」
多少の
俺は神様仏様フラン様とばかりに祈りつつ検索をかけるフランさんを待っていると、不意に何か思いついたように操作していた水晶から顔を上げて
「全身を覆う……防具としてではなく、変装とか仮装とか、そういった目的でしょうか?」
「まあ、そんなところかな」
言われてみれば、確かにフルプレートアーマーである必然は無いんだけど、他にこっちの世界で全身を覆うような装備って思い浮かばないんだよな。
結局はあまり被弾はしなさそうだから、極力防御を無視して大きめのローブでなんとかする……という方法も無くはない。
……いや、やっぱり全身を覆っておいた方が間違いないか。
頼む、在庫よ見つかってくれ……!
「んー……申し訳ありません、付近の商業ギルド支部の方も探してはみたのですが、やはりフルプレートアーマーの在庫はなさそうですね」
あぁぁ……、まあ、そう何でもあるもんじゃないよな……。
「装備品は割と需要があるので、すぐに流れてしまうんですよ。大まかな体型さえ合えば
なるほど……まあ前世における服のように量産して吊るしで売ってあるものとは違って、職人による手作業が精々だとすると、中古でも価値が減りにくいんだろうな。
うーん…………どうしたもんか。
流石に装備も無しにダンジョンに潜るのは都合が悪い。色々と不安だしな。
2人には日を改めてもらって、鍛冶屋を回るか……?
「ただ、もし変装が目的でしたら、ご覧いただきたいものがあるのですが、いかがでしょう?」
おおっ、流石はフランさん、
「うん、是非!」
俺は既に毎度となりつつある、地下の倉庫へ向かうべく席を立った。
◇◆◇
「こちら、見た目に反して非常に高度な魔法陣が組まれていまして、【
そう言って棚の布袋からフランさんが取り出したのは……クマの着ぐるみだった。
なるほど、
ダンジョン向けの準備とは、とても思えない装備ではある。
しかし……
「ありがとう! 流石はフランさん、こういうのを探してたんだ」
「それは何よりです」
そう、俺が求めていたのはこういった装備だった。
フランさんに感謝を伝えると、満更でもない笑顔を返してくれた。
「それで、お値段の方は?」
「
「うん、問題ない。こちらをお願いするよ」
思ったより全然安い。ほぼオーダーメイドで快適さのためにやりたい放題作ったことは推測されるけど……需要から判断された市場の鑑定額としては、その程度の価値なのだろう。
商談成立ということで、決済のためにフランさんと小部屋へ向かうことにする。
いやー、良い買い物ができた。
まあ、果たしてコレをスケさんが着てくれるかどうか、という最後に大きな問題が残ってるわけだけども、そこはまだ目を瞑っておこう。
何にせよ、スケさんのあの姿を彼女たちに見せたら、間違いなく討伐対象にしかならないだろうからな。
じゃあスケさん抜きでダンジョンを攻略できるかというと、それは心許ないのが正直なところだ。
ひとまず、この着ぐるみで変装してもらって、2人へは紹介するつもりだ。
さて……明日は2人と合流する前にスケさんに会って、着ぐるみの件の説得と、神像を使ったアップデートをやってもらわなくちゃだな。
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